その4
「なんでそんなことを。というか、その奴隷兵ってのも、どうやって行動を縛っているのさ。洗脳とか?」
国王の権能はあくまでも権能を強化するものであり、自我を縛る洗脳のようなことは出来ない。もし洗脳をするならば、他の精神系権能使いが必要となる。それも一度に何人も、細かな命令が出来る高位の者に限る。
「聖戦を行う理由についてはともかく、洗脳については簡単だろ。この王国の貴族には一人、際限なく洗脳を行える一級の権能使いがいる」
高位の精神系権能使い。そう言われてすぐに一人の少女を思い浮かべた。
「もしかして……、聖女の、四条アザミ?」
カツヤは重々しく頷く。
「そうだ。アイツなら何百人でも、何千人でも、二級以下にはできない細かなコントロールまで効かせて国家へ忠誠を誓うように洗脳することが出来る」
次々と明かされる内容に、ユウヤは困惑していた。しかし構わずカツヤは話を続ける。
「奴隷兵が現れだしたのは四年前、四条アザミの貴族任命の時期と重なるし、間違いないだろうな。一応、流れを説明するとこんな感じだ。まず、四条アザミが貴族になって以降、国王は第一王国と第二王国への侵攻計画を立案し、軍備を強化するために強化の儀へ細工を施すことにした。いつも通り儀式を終えた後、四条アザミに洗脳をかけさせ、国王へ絶対的な忠誠を誓わせる。たったこれで奴隷兵の完成だ。たとえどんな大けがを負っても国王のために戦い続ける、理想の殺人マシーンだろうよ」
淡々と第七王国の所業を語るカツヤだが、血が出るほど強く握りこぶしを作っていた。
しかしここでふと、ユウヤは疑問に思う。
「ちょっと待って。なら僕の見た大沢君は一体何だったの? 大沢君はどう見ても洗脳されているようには見えなかったよ。命令には逆らえない、って感じだったけど」
「あぁ、お前が出会ったのはかなり特殊なケースだな。貴族の中に一人、憲兵隊トップの役職である憲兵総隊長の笹葉シュンスケという奴がいるんだが、そいつは自我を残した状態で奴隷兵を操ることに興奮を覚えるクソ変態野郎なんだ。おそらくこの場合は洗脳じゃなくて暗示で命令を受諾するように四条アザミが調整しているのだろう、と革命軍では予測している」
確かに、あの時出会った笹葉という男は大沢に殺人を強要して楽しんでいるように見えた。カツヤの言う通りとんだクソ野郎だとユウヤも思った。
「もっとも、そんな変態趣味に付き合って調整をしている四条アザミの中々のもんだがな。貴族になった四年前、アイツはまだ十二歳だった。十二歳の頃からこんな非道をやっているなんざ、精神が狂ってるとしか思えねぇ」
カツヤはそう吐き捨てると、教卓から少し離れたところにある台の方へ歩いて行った。台の上にはプロジェクターを操作する機械類が置いてある。
「何故王国の奴らが聖戦を起こそうとしているのか、それについては分からなかった。だが人から意思を奪って無理やり戦わせるなんざ、絶対にあってはならない事だ。この事態を止めるべく、真相に気づいた奴らや家族を奴隷兵にされた被害者たちで徒党を組むことにした。それが俺たち、革命軍だ」
台にたどり着いたカツヤは、慣れた手つきで機械を操作し、プロジェクターを作動させた。ユウヤの目の前に白いスクリーンが下りてくると、教室の灯りが薄暗くなり、映像が射出される。
「現在、俺たちは王都センダイを含む複数の主要都市とその周辺を襲撃している。スクリーンに映したこの地図を見てもらえば分かると思うが、俺たちは既に第七王国領土の七割以上の占領に成功している。とりわけアオモリ州、アキタ州、イワテ州、ヤマガタ州に関しては完全に占領した。しかし、王都センダイのあるミヤギ州に関しては州北部とセンダイは占領出来たが、センダイの南にあるナトリ市を含めた州南部とフクシマ州は未だ王国軍の支配下にある。国王と側近の貴族は、革命軍の情報部隊からの報告によるとフクシマ州州都フクシマを臨時の王都として防衛線を敷いている。センダイ襲撃時に王と四条アザミを落とせなかったのは痛いが俺たちは今後、このナトリ市を――」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
「ん、なんだ?」
突然話が進みだしたので、一度ユウヤはストップをかける。
「第七王国が裏で何をやっていて、どういう経緯で革命軍が結成されたのかも分かった。でもそもそも、なんでその手段が革命なの?」
「オイオイ、まさかこんな非道をやってる連中に「お願いです辞めてください」なんて言って、「はい止めます」ってなるとでも思ってんのか?」
「まさか。そこまで僕は平和ボケしてないよ。僕が言いたいのはそういうことじゃなくて、革命を起こしたところで奴隷兵にはそのまま洗脳が残る可能性があるってことだよ」
ユウヤはここまで聞いた話を整理し、疑問に思ったことをそのまま口に出した。
「革命を起こすってことは、つまり現在の国王を殺して革命軍の誰かが王になるってことでしょ。多分その過程で、四条アザミも捕縛するか殺すんだと思うんだけど……、でもそれで、奴隷兵にされた人たちが解放されることはない。だって、権能によって引き起こされた現象は、権能使いが死んでもその場に残り続けるじゃないか」
ユウヤの言っていることは、権能が当たり前の連合王国では小学生のうちに習う常識だ。例えば手のひらから水を生み出す権能使いがいるとしよう。この権能使いが生み出した水は、等級にもよるが自身の意思で消すことが出来る。しかし、水を出したまま権能使い死んだ場合、この水はその後も地上に留まり続ける。水である以上、蒸発して気体になることもあるが、それでも液体から気体になるだけで、権能使いが生み出した物質はやはり地上に残る。
この例はあくまでも物質を生み出す系統の権能の話だが、それならば洗脳といった精神操作系はどうなるのか。
「なるほど、つまり成宮の言いたいことは「四条アザミを殺しても、洗脳が解けることはない」ってことだな」
ユウヤはウンウンと頷く。
「だってそうじゃないか。革命を起こして、王が変わって、四条アザミを殺したとしても、洗脳が解けないんじゃ意味がない。捕縛したとしても素直に洗脳解除に応じるとは思わないし、そもそも精神操作系の権能使いを捕縛するには、より高位の精神操作系の権能で権能を使えないようにしないとすぐに逃げられる。革命を起こしても、根本的な問題が解決するわけじゃないよ」
熱弁するユウヤだったが、そんな様子をカツヤは感心したように見ていた。
「俺が説明を省いちまったのも悪いが、すぐそこに気づくのはさすがだな。――成宮の言う通り、革命をただ起こしたところで意味はない。いや、まったく意味がないわけではないんだがな。権能による精神操作は、王と貴族には絶対に効かないという特性がある。だから革命軍の誰かが王になって、すぐに貴族を任命すれば、王と貴族で交代しながら捕縛した四条アザミを監視し、拷問とかの何らかの手段で洗脳を解除させることもできるが……、数人しかいない王と貴族でずっと監視するのはあまりにも非効率だし、そもそも捕縛することそのものが難しいだろうな。それよりももっといい方法がある」
「もっといい方法?」
「あぁ。断罪の剣を使って、相手の権能を抹消してしまえばいい」
カツヤの言っていることが理解できず、ユウヤは思わず首を傾げる。
「まぁ、普通そういう反応になるよな。このことは俺たち革命軍がやっとの思いで見つけた事実なんだが……、お前の言う通り、権能による現象は権能使いが死んでも残り続けるが、唯一例外がある。それは「断罪の剣で権能を抹消された」ケースだ。断罪の剣に刺された場合、その権能使いが生み出した現象は権能使いから権能が消えるのと同時にこの地上からも消える」
ここまで説明されて、ユウヤはやっと納得できた。何故カツヤたち革命軍が、ほぼ無意味に思える革命を起こしたのかを。
「断罪の剣が権能使いの現象ごと消せるのは初めて知ったけど……、なるほど、つまり革命軍の目的は王の力を奪って、四条アザミを断罪の剣で刺すことで奴隷兵を洗脳から解放するところにあるのか」
「そういうことだ。というわけで話は戻るが、現在俺たち革命軍は第七王国の七割を支配している。このまま体制が整い次第、王国の南部にすぐにでも侵攻して国王と四条アザミを倒す予定だ。こっちも損耗は激しいが悠長なことは言ってられない。内政干渉を禁止する連合王国協定があるから第七王国で革命が発生しても旧北海道地域を支配する第六王国と旧関東地方を支配する第一王国は表向き干渉してこないが、国王が救援要請を出したらおしまいだ。それにニイガタに駐屯している第二王国の王国軍の動きも油断できない。少なくともあと一週間以内に、作戦を完了しなければならねぇ」
一通り説明し終わった後、カツヤは少し息を吸い込んで、意を決したようにユウヤを再度見た。
「そこでだ、成宮、お前に頼みがある。革命軍に協力してくれないか?」
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