その3
「なんでカツヤがここに……?」
カツヤはふっと鼻で笑う。
「そりゃ、理由なんて一つしかないだろ。――俺が、この革命を起こした革命軍のリーダーだからだよ」
革命軍のリーダー。その言葉を聞いた瞬間、ユウヤは右手をカツヤに向かって構えた。
「……カツヤ、この状況、ちゃんと説明してくれるんだよね? 大沢君のあの状況を見てしまったからには、きっと何か事情があって革命を起こしたんだってのは理解している。それでも、大勢の人がこの戦いに巻き込まれたんだ。惨い亡くなり方をした遺体も僕は見ている。だから、もし革命を起こした理由がくだらないものだったのなら、僕は――」
ユウヤは初めて強大な権能を使ったあの時のことを思い出し、集中する。すると右腕の横に、影のようにぼんやりとした大きな灰色の手が現れた。それと呼応するように背後にも無数の氷塊がいつの間にか形成されており、宙に浮いていた。自分が決意すればこの氷塊が凄まじい速度でカツヤの元に飛んでいくことを、ユウヤは確信した。
「そうだよな、お前はそういう奴だ。普段はふわふわと風船みたいな性格をしているが、こういう道理が曲がったことに対しては人一倍怒る奴だ。自分の住んでいる街が、国が、攻撃を受けたと知れば、お前は絶対に首謀者を許さない。――だが、俺には俺の道理と、そして信念を持って今回の革命を起こした。俺が何故ここにいるのか、説明させてほしい。もし説明に納得できないというのであれば……」
カツヤも右手をユウヤに構えた。
「戦うしかない」
刹那、ユウヤとカツヤの視線が強く交じり合った。近くにいた宝田はスーツの懐に手を入れ臨戦態勢を整えていたが、高校生とは思えない二人の迫力に冷や汗が止まらなかった。カツヤもユウヤも、互いに高い等級の権能だ。もしこの場で戦闘が起きれば大惨事になりかねない。宝田一人の力では、止めることは難しいだろう。
しかし、宝田の懸念は杞憂で終わった。ユウヤはそっと右腕を下ろすと、灰色の手と氷塊がまるでそこに最初から何もなかったかのように消えた。
「分かった。とにかくまずは、今何が起きているのか説明してほしい」
「もちろんだ。とりあえず、こっちまで来いよ。こんなに遠くちゃ話もまともに出来ないだろ」
カツヤに促され、ユウヤは教室の前方へ進む。最前列の机の前に来ると、そのまま椅子ではなく机の上に座った。下品かもしれないが、いざという時に椅子に座っていては机が邪魔で反応できないかもしれない。
「……まぁ、警戒されるのは仕方がないんだが」
机の上に座ったユウヤを見て、カツヤはため息をついた。
「カツヤの説明で、僕が警戒しなくてもいいようになることを祈ってるよ」
ユウヤは辛辣な表情で、カツヤを見つめた。
「そうだな。全部俺の説明次第ってことだ。生憎国語は得意じゃないんだが――、ちゃんと説明するよ、俺たちが革命を起こした理由を」
そう言うとユウヤは教卓から飛び降り、
「さて、何から話すべきか……。やはり、本当に最初から話すべきだろうな。事の始まりは、強化の儀にある。強化の儀っていうのは知っての通り現在の第七王国国王が持つ「権能を強化する」権能を使って、個々人の権能を最大で二級まで強化する儀式の事だ。国王が先代から王の力を引き継いで即位して以降、この王国では数十年に渡って行われてきた。本来権能が発現してから死ぬまでずっと変わらない等級が上昇するというこの儀式は、良くも悪くも権能が根底にあるこの社会で、低等級の奴らからすれば奇跡に等しい。――だが、その奇跡には不可解な点があった」
「不可解な点?」
「あぁ。不可解と言うよりは不自然と言った方が正しいのかもしれないが。成宮は強化の儀を受けた奴らがその後、どうしているか知っているか?」
カツヤに問われ、記憶をたどる。すぐさまドキュメンタリーで紹介していたことを思い出した。
「王国軍に入隊する人が多いっていうのは聞いたことあるけど」
「そうだな。強化の儀を受けた奴は国王への感謝から王国軍かあるいは憲兵隊に入隊して熱心に国王へ奉仕するようになる」
王国軍と憲兵隊は、ともに国王陛下直属の組織という位置づけになっている。ちなみに治安維持を目的とする憲兵隊と違って王国軍は王国の軍事を担っており、志願者
数でいえばこちらの方が多い。
「そりゃ、今までずっとコンプレックスだった権能の低さが解消されたんだ。国王に盲信するようになるのは理解できる。だが、いくら何でもおかしいだろ。――強化の儀を受けた奴全員が、例外なく入隊するなんて」
「ぜ、全員が⁉」
それはいくら何でもあり得ないとユウヤは思った。学生ならともかく、社会人ならばすでに働いている人がほとんどだ。例外なく全員というのは、こういった人たちがわざわざすでに得ている仕事を辞してまで入隊していることを意味する。あまりにも不自然だ。
「より正確には四年前から現在までにかけて強化の儀を受けた奴が、だがな。それに言動もおかしくなっている。今まで大して国王に忠誠を誓っていなかった奴がまるで性格が変わったように熱心なロイヤリストに大変身、四六時中「国王陛下万歳」って話すようになるなんて、不気味すぎるだろ」
説明しながらカツヤは教卓の上で指をトントン鳴らしていた。
「しかも行方不明者まで出始める始末だ。俺と同じようにこの事態はおかしいと思った奴らで調べたところ、最悪の事態が判明した。――強化の儀は、権能を強化するだけでなく、自我を縛って国家の言いなりとなる「奴隷」を作る儀式だったんだ」
「奴隷……?」
突然出て来た「奴隷」という単語に、ユウヤは理解が追い付かず硬直する。しかし、あの時ユウヤが見た大沢の姿が、カツヤの言葉を否定しようとする自分を抑え込んでいた。
「俺だって最初は信じられなかったさ。だが、これは紛れもない事実だ。王国の奴らは自我を縛った奴隷の兵士、通称「奴隷兵」を使って、第一王国と第二王国に聖戦を仕掛けるつもりだ」
聖戦、という言葉に衝撃が走る。革命の起きた第二王国が第八王国へとした暴虐と過ちを、今度は第七王国が行おうとしているなど、信じられなかった。
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