その3


 カフェから出たユウヤとカツヤはその後、かねての約束通り結局ゲームセンターへ立ち寄って存分に遊んだ。


「んぁぁ~、すっきりした」


 背伸びをしながらゲームセンターから出てくるカツヤだが、ゾンビを倒す系のシューティングゲームでユウヤに一度も勝てなかった。


「相変わらずゲーム強いよな、ユウヤって。俺と遊ぶ時以外一切ゲームしないのに何でそんなに強いわけ?」


「カツヤに何度もやらされたらいつの間にか覚えただけだよ。というかはっきり言ってカツヤが弱すぎるだけだよ」


「おっ、言ったな⁉」


「いくらでも言うよ。他の友達と来た時だって毎回最下位じゃないか」


 ユウヤ以外にも友人を引き連れてゲームセンターに来るカツヤだが、それでも毎回ビリだ。世の中には大してゲームが強くなくてもゲームが好きと言う人種が一定数おり、カツヤもその手の人だ。


「なんで俺ってこんなにゲーム弱いんだ……。将棋とかチェスなら負けなしなのに」


「ゲーム違いだね」


 アーケード街を通る二人。すでにうっすらと空は暗くなりつつあり、人通りも増え始めている。


 しかし、そんな人通りの多いアーケードでも、ビルの隙間という人目に付きづらい場所がある。特に理由はなかったがビルの隙間をユウヤがちらっと見ると、人影が見えた。


「どうかしたのか?」


 不思議そうにカツヤが尋ねる。


「いや、なんかあの裏路地に人影が見えて」


 そう言われてカツヤも路地を除くと、そこには柄の悪そうな三人組が、男子高校生の胸倉をつかんでいた。


「うわぁ~、カツアゲじゃん。今のご時世早々見かけないぜ、あんなテンプレなの」


「いやそんなこと言ってる場合じゃ……。あれ? あの男子高校生、もしかして大沢おおさわ君じゃない?」


「大沢? 誰だっけ?」


「同じクラスで黒縁の眼鏡をかけてて、大人しめの」


「あぁ、いたね、そうそう、オオサワクン」


「いやそれ絶対覚えてないでしょ」


 カツヤはみじんも覚えていないが、ユウヤは覚えている。よく話すという程仲良くはないが、クラスでたまに話す。大人しいが話してみると気さくで優しい人だ。


「とにかく、まずは助けなきゃ」


 ユウヤが考えるよりも先に現場へ突入しようとするが、カツヤがユウヤの肩を掴んで止める。


「待て待て待て待て、そこは普通憲兵隊を呼ぶだろ」


 憲兵隊とは第七王国の治安維持を行う警察組織である。こういったもめ事は当事者が権能を使って暴れ出すことが多いため、対権能者鎮圧の訓練を受けた憲兵隊を呼ぶのが一般市民の常識である。


「てかなんで俺が成宮を止めてんだよ。普通こういうのは性格的に逆だろ。――全く、なんでこう、お前は天然そうな見た目して喧嘩っ早いんだ」


 カツヤは困ったようにユウヤを見てはいるが、その実ユウヤのこういった、間違ったことを許せない質を気に入っていた。


「喧嘩っ早いだなんてそんな。単純に憲兵隊を呼んでいる余裕なんてなさそうだから」


 ユウヤに言われてカツヤはカツアゲの現場を再度見てみると、胸倉をつかんでいる男の右手にはこぶし大の石が握られていた。


「あ~……。しゃーない、同じクラスのよしみで助けてやるか」


 カツヤがそう言うと、何やらあたりを見渡して適当な空き缶を見つける。すると、、胸倉をつかんでいる男の右手をめがけて


「痛ってぇなァァァ!」


 見事に男の手に命中した空き缶は、そのまま地面には落下せず、カツヤの右横に戻ってきた。


 カツヤはそのまま裏路地へと入っていく。


「あ、ちょっ、カツヤ!」


 慌ててユウヤも後を追った。


「なんだおめえら? 邪魔する気か? ンァア?」


 カンをぶつけられた男が、カツヤに向かって吠える。しかしカツヤはびくともしない。


「ハハハ、うるせえよカスども。今時こんな裏路地でテンプレートなカツアゲしやがって。脳みそスポンジかなんかで出来てんじゃねぇのか? あ、そっか、スポンジで出来てるから人間様の言ってる言葉なんて理解できないよな、ゴメンゴメン」


 笑いながら煽るカツヤに対し、男はブチ切れる。


「舐めてんじゃねえぞクソガキが!」


「キョウヤさん、やっちまいやしょうや! キョウヤさんの権能でぶち殺しちまいやしょう!」


 するとキョウヤと呼ばれた男が、ニヤっと笑う。


「あーあ、お前ら、半殺し確定な」


 男がそう言うと、突如男の掌から石が一個生み出され、宙に浮いた。


「見ろ‼ これが俺の「生み出した石を自由自在に操る権能」だ! 人をぶっ殺すには十分な威力を持った二級の権能さ! それよォ!」


 男の掛け声で三つの石が飛んでくる。しかしカツヤに石が当たることはなかった。カツヤにあたる直前、石は力を失ったかのように地面へ落ちた。


「これが二級⁉ バカ言ってんじゃねえよ。こんなん四級に決まってんだろ」


「なッ⁉」


 男が慄く。しかしすぐにまた新しい石を一つ生み出した。


「あぁ~なるほど、そういうわけね。お前のその権能、「こぶし大の石を一個生み出す」ってもんだろ。そして生み出した石を後ろにいる風力系の権能使いで浮かせていると。張り子の虎みてぇに自分の権能を高く見せてるってわけか、しょーもな」


「テ、テメェ、何故それを⁉」


「そこの後ろの奴、石を凝視しすぎなんだよ。風力系の権能使いってのは念力系と同じで等級が低いと権能を作用させる空間を凝視して集中しないといけねぇから、一点を見すぎちまうんだ。最初は念力系だと思ったが、こっちに石が飛んでくるときに風も感じたから風力系で間違いないな。そっちも四級か良くて精々三級か」


 流ちょうに相手の権能を解説するカツヤ。三人の男たちに、もはやカツヤを侮る様子はない。


「さて、ではお前がさっき自称した二級についてだが、ホンモノってやつを見せてやろう」


 カツヤがそう言うと、裏路地にあった室外機が三つほど、ギシギシと音を立てて宙に浮いた。


「なっ……、コイツ、まさか本当に二級⁉」


 男たちが驚くが、カツヤはその様子を鼻で笑う。


「行け」


 カツヤの一言で、宙に浮いた三つの室外機が男三人めがけて吹っ飛ばされる。男たちの胴体に鈍い音を立てながら突き刺さった。


「ウゥ……」


 三人の男たちがうめき声をあげる。その隙にカツヤとユウヤは、カツアゲをされていた大沢に駆け寄った。


「大沢君、大丈夫⁉」


 ユウヤが声をかけると、大沢はずれていた黒メガネを右手で直した。


「大丈夫だよ、殴られる寸前で助けてもらったから」


 人の良いニコニコした笑みを大沢が浮かべていると、先ほどの三人組の一人がよろよろと立ち上がる。


「クソが!」


 やぶれかぶれの拳がユウヤの顔面を襲う。しかし、ユウヤはその拳を完全に振り切る前に左手で止め、殴りかかって来た男に優しく微笑む。


「ま、まさかあんたの等級も二きゅ――アァァァァ‼」


 男が最後まで言い切る前に、悲鳴を上げて倒れた。


「いやまさか。僕は君たちと同じ四級の「手で触れた物体をちょっとだけ凍らせる」、ただそれだけの権能だよ。食べ物を冷凍食品みたいにする程度だけど、でも冷たさを調整すれば、こんな風に凍傷を起こすくらいは出来るよ」


 笑顔で自身の権能を説明するユウヤだが、そんな様子を面白すぎて堪らないといった顔でカツヤが見ていた。


「相変わらず笑顔でとんでもないことするよな、成宮って。サイコパスだろ」


「いやだなぁ、壁に取り付けられた室外機を三つも無理やり引きはがして人体にぶつけるような人に言われたくないよ」


 のんきにお互いを罵り合う二人だったが、二人が入ってきた裏路地の入口にいつの間にか人だかりが出来ていた。


「やっべ、このままじゃ憲兵隊来るじゃん。この状況じゃ後々俺らも怒られっぞ。――逃げるか‼」


 カツヤがスッと立ち上がって走り出す。


「だってさ、大沢君。大丈夫? 走れそう?」


「う、うん、大丈夫」


 ユウヤに差し伸べられた手をつかんで起き上がると、大沢はカツヤとユウヤの後を追って裏路地の奥へと走り出した。

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