208. それって

208. それって




 オレと黒崎は京都の嵐山にいる。突然振りだした雨も今は止んでいる。とりあえず目的のトロッコに乗るために駅に行く。


「空いていて良かったわね?」


「ああ」


「トロッコ楽しみね!」


 黒崎は楽しそうだ、オレ達は席に座り出発を待つ。そしていよいよ発車する。


「きゃー!凄いわ!!」


 黒崎はとても興奮しているようだ。確かに景色は綺麗で迫力もある。しばらくすると急カーブに差し掛かりトロッコが傾く。


「うぉ!?」


「大丈夫?私をしっかり掴んでて良いのよ?」


「いや、大丈夫だから……」


 そう言うと残念そうな顔をする黒崎。なんだかんだ言って楽しんでいるな……。


「ねぇ見てみて!渡月橋が見えるわ!」


 テンションが上がりっぱなしの黒崎を見て微笑ましくなる。こんなにはしゃいでいる姿は初めて見た気がする。そんな事を考えているうちに終点に着いたらしい。


「あぁ……もう終わりなのね……」


 とても名残惜しそうな表情をしている。まぁまた来ればいいだろうと思いながら、他の名所を回り、旅館に戻るために電車に乗り込む。


「あの神原君。今日は本当にありがとうね?」


 帰り道、唐突にお礼を言う黒崎。


「なんの事だ?」


「だってわざわざ私のワガママを聞いてくれたから……」


「ワガママも何も、お前と一緒に行動するんだし、オレは特に行きたいところはないからな。黒崎と一緒ならそれでいい」


 正直に思った事を伝えると、なぜか黙り込んでしまった。何かまずかっただろうか?


「それ……付き合ってるみたいね……」


 そう言われてオレはようやく自分が言った言葉の意味を理解する。確かに今の言い方だと勘違いされるかもしれない。


「いや、そういうつもりじゃなくてだな……」


 どう弁解しようか悩んでいると、黒崎はクスリと笑った。


「分かってるわよ。冗談よ」


「おい……」


「でも嬉しいわ。私も同じ気持ちだから」


 そう言って少し頬を赤く染めながら微笑む。黒崎を見て可愛いと思ってしまう。そのままお互い無言のまま時間だけが過ぎていくのだった。

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