第6話 実在人物
孝行の口から出た名に、飛び上がりそうになる。
「ゆうと、って……?」
「うん。このイラスト、僕の昔の同僚の雄斗って奴にすごく似てたから」
(同僚……)
「ほら、これ」
孝行の差し出すスマホをのぞき込む。画像の中にいたのは、まぎれもなく夢の中の夫、雄斗だった。
(なんで……? どういうこと!?)
「ほ、本当。よく似てる……。現実にいるんだ、こんな人……」
声が震えそうになるのを懸命に抑えつつ、私は努めて何気ない風を装う。
「あれ? 聡美、こいつと会ったことあったっけ?」
「ないよ! 一度も」
「だよね」
孝行が笑いながら、スマホをテーブルに置く。
「前に、雄斗がめちゃくちゃ酔っぱらって店で寝てしまった時、ウチに連れて帰ろうとしたことはあったけど。連れて帰ってもいいかどうか聡美にメッセージ送ったのに、風呂にでも入ってたのか返事来なくてさ。そうこうしているうちに目を覚ましたから、雄斗には普通に自分ん家に帰ってもらったんだ」
「……そんなことあったんだ」
つまり、雄斗は実在していて、私と出会う可能性もあったということ?
「でも、昔の同僚って? 今はいないの?」
「今、やつは本社だよ。アイツすごい技術者でさ、大きな新規プロジェクトのリーダー任命されて連れてかれたんだ。ちなみにあいつが酔いつぶれたのは、それの送別会の時」
「へー……」
「全く、天は二物を与えずなんて嘘だよ。雄斗はすごい技術持ってる上、実家も相当の金持ちでさ。それに……」
「……」
「この絵みたいに、もろ聡美好みのルックスなんだよ。あの日、やっぱりウチに連れて来なくて正解だったかも」
「!」
「聡美が心変わりしてしまう危険性があったからね」
「それはない!」
反射的に強い口調になってしまい、すぐにハッとなる。孝行が驚いた顔で私を見ていた。
「え? 何? そんな大声出して……」
「あ、いや、だって……」
私は軽くこぶしを握り、ポコンと孝行の胸を叩く。
「酷いよ。私がそんな、浮気するみたいに……」
「ごめんごめん」
孝行の手が私の頭に触れる。優しくなでられるたび、心の底からじわりととろけそうになる心地よい指先。やはり私の愛はこの人にあると実感した。
「それにしても似てるなぁ」
笑いながら、孝行は私のイラストを手に取る。その様子を、私は落ち着かない気持ちで見つめていた。
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