第4話 おまじない
「はぁ……」
ひとしきりの営みの後、2人で息をはずませながらうつろな視線を交わす。どちらともなく手を伸ばし、指を絡め微笑み合った。
「ねぇ、孝行」
「何?」
「ここ……」
私は右胸のふくらみに触れる。
「ここにキスマークつけて」
「え? なんで?」
「印つけてほしい。私は孝行だけのものだって」
「つけなくても、聡美は僕の妻だよ?」
「……二度と、あんな怖い夢見たくないから。おまじないみたいなもの」
「わかった」
孝行の唇が、私の胸に触れる。温かく包まれた後に、キュッと引っ張られる感触。やがて唇が離れると、そこには濃紅色の印が刻まれていた。
「これでいい?」
「ん」
「ほら、風邪ひくからそろそろシャワー浴びておいで」
孝行に促され、私はバスルームへと向かう。汗を洗い流した後、私は洗面室の鏡の前に立った。鏡の中には、満たされた表情の私がいる。右胸には、先ほどつけてもらった愛の証がくっきりと残っていた。
「ふふ……」
思わず笑いながら、指先でそっと触れる。そしてもう一度鏡を見た時だった。
「ひっ!?」
思わず息を飲む。鏡の中の私が、恨めし気な眼差しをこちらに向けていた。
「どうした?」
私の声に気づき、孝行が駆けつけてくる。
「あ、あれ……!」
私は鏡を指さす。だがそこには、裸身の私しか映っていない。
「虫でもいた?」
「ううん……」
私は孝行の胸に寄りかかり息をつく。
「なんでもない、見間違いだったみたい」
「そっか。ならいいけど……」
「……」
「こら、聡美はシャワー浴びたんだろ? 僕はまだ汗まみれだから、離れなさい」
「離れたくない」
「我がまま言わないでパジャマ着て、先に寝室戻って。僕もシャワー浴びたら行くから」
「うん……」
私は孝行から手を離す。バスルームへと消えてゆく孝行を見送り、もう一度鏡を見た。そこには困惑した表情の裸の私がいるばかり。
(光の加減で見えた錯覚だったのかな)
「あ……」
右胸につけられた濃紅色の印が目に入る。その瞬間、なんとなくほっとした気持ちになった。
(孝行の愛してくれた印……)
自然と口角が上がる。
(効果のあるおまじないね)
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