文はうきうきと その2

問2 一段落くらいで、動きのある出来事か強烈な感情(喜び・恐れ・悲しみなど)を抱いている人物を一人描写する。


 私は喜びにとまどい、おののいていた。目の前に、昔憧れて止まなかった人がいたからだ。

 その人は、最近通い始めたボイストレーニングのスタジオに突如現れ、共にレッスンを受けていた。初めは見間違いか、それとも似た人物なのかと思ったが、先生が「○○さん」と名前を呼んだので本人だと確信した。

 そこは都心から私鉄で一駅ほどだったが、わりと閑静な街だった。生徒同士がレッスン中に話す事はできなかったが、私は驚きと興奮でろくに口も聞けずにいた。その日はそれで終わったが、次のレッスンにも彼はまた姿を現した。

 まだ時間まで少し間があったので、休憩室のような場所のカウンターの一番端に座っていた。彼は一時期とても人気があった番組のレギュラーで、私はそれをたまたま見るようになってファンになり、彼が出演するイベントの時は地元ならもちろん、都会で開催しても何かと理由をつけて上京したり、グッズをひと通り買い集めたりする程には夢中だった。

 その憧れの人が、わずか数メートル先にいるなんて。私は話しかけようかどうしようかと、胸を高鳴らせながらその後ろ姿をじっと見つめていた。


 了

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