第34話 仮説

 弾を命中させられなかった原因をいきなり尋ねられても、どう答えてよいのやら......


「それが、エリックに弾が当たったショックが大き過ぎて、その前の状況が吹っ飛んでしまって、よく覚えてないの......」


 私が言うと、エリックはやむを得ない様子で頷いたが、アーロンがまた何か含んでいるような笑みを浮かべていた。


「そうか、ティアナは自覚が無かったんだな」


「自覚......?」


 何なの?

 この、全て自分はお見通しです的なアーロンの態度。


「アーロン、知っているなら、さっさと言えよ! そうやって、いつまでも人をもてあそぶような感じで1人で楽しむのは無しだ!」


 エリックもやっぱり、アーロンに対して、そういうイラつくような感情を持っていたんだ!


「失礼! ティアナが自分で気付いていたのかどうかを知りたかっただけなんだ。ティアナは、誤射の時、隊長とリゼットが会話していたのは、耳に入っていたのかな?」


 えっ、アーロンにそんな事を聞かれるなんて思ってなかった!


 確かに、あの時は、リゼットと隊長の声が耳に入って来ていた......


「それは、聴こえていましたけど......私、違いますから! そんな2人にヤキモチ妬いていたわけじゃないですから!」


 そこは、ハッキリと断言しておかないと、私がただのヤキモチ焼きの出来損ない人間みたいじゃない!


「僕は、そんなヤキモチ妬いてまでとは言ってないけど......」


 私が、慌てて否定した事で、アーロンが余計に面白がって笑う。


「何だって、そりゃあ聞き捨てならないな! ティアナは、リゼットと隊長にヤキモチ妬いていたって? それで、弾を外したのか!」


 エリックまで、その話に加わって大きくなる。


「だから、私は、ヤキモチなんて妬いてないです!!」


「なんだかんだ言っても、やっぱり、ペア同士には割り込めないんだな~」


 どうして、その話いつまでも引き摺るの!

 こうなった原因は、笑っているアーロンに有るんだから!

 アーロンを思いっきり睨み付けてやった!


「別に、悪気が有って言ったわけじゃないんだ。僕は、ただ確認したかっただけだから。つまり、ティアナは、2人の会話が気になって、射撃に集中出来なかったのも有るし、隊長もまたリゼットの方を向いていて、ティアナの射撃を目で追ってなかったせいという可能性も有る。今のところ、どっちが原因なのか分からないし、そのどっちも原因なのかも知れない」


 アーロンは、むやみやたらと意地悪な事を言って笑っているだけじゃなく、ちゃんと見るところを見ていて、今後の為に指摘しているんだ......


 何だか、頭に来る事も有るけど、やっぱりアーロンには頭が上がらない。


「なるほどね~。集中に欠けた事でモチロン、せっかくの腕前も台無しになるのは当然そうだけど、それだけじゃなく、ペアという以上、隊長の方もただ横にいるだけで有効ではなく、ティアナの方を向いていなくてはならないんだ。少なくとも、射撃の時だけは」


 少なくともって......

 確かに、隊長に、それ以外の時もずっと注視されているのは、ごめんだけど。


「その仮説が成り立つのか、明日、実験してみようか?」


 アーロンが、エリックを見て提案して来た。


「いやいや、もう勘弁してもらいたい! 今度はかすり傷なんかで済まなくなりそうだから!」


「私も、極力、周囲に気を奪われないようにしますから、エリックをもうターゲットにするのは止めて欲しいです!」


 私もエリックに加勢すると、またアーロンが謎の笑みを浮かべる。


「ふーん、ティアナが、そんなに必死にエリックを庇うとはね。そういえば、エリックってウェイドに外見が似ているからな」


「えっ、アーロン、何、勝手に決め付けているんですか!」

 

 慌てて否定したが、エリックの耳にも当然届いていた。


「ウェイドって、誰だ?」


「そんな、別に誰でもないです!」


 もう、その話題には触れたくない!


「ウェイドは、ティアナと同期の入植者だよ。ティアナのお気に入りの!」


 アーロン、そんな余計な事まで言わなくていいのに!


「それは、もう過去の話で、今は全く関係無いです!」


「それなら、今は?」


 エリックが身を乗り出して来た。


「エリックって、人のものに手を出すのが趣味なだけなのに、そうやって、思わせぶりな行動に出るのは、どうかと思います!」


 エリックの期待を裏切るような言葉で返した。


「さすがは、ティアナだね~! 他の大多数の女達と違ってエリックになびかないところ、いいな~!」


 アーロンが珍しく褒めて来ているの?


「2人とも、辛辣だな~!」


 ウェイドで懲りたから、もう私、顔だけの男には落ちない事にしたもん!


「そういうティアナだから、最後の質問には迷わず答えられそうだね。心理テストみたいなものだけど、動物は何がいるか分からないような無人島に2人で残されるとしたら、隊長、エリック、誰といたい?」


「アーロン、自分は入れないのかよ?」


 確かに、隊長かエリックか2人しか選択肢が無いなんて......


「僕も入れてもいいけど、ティアナは最初っから僕を選ぶ事無いのは分かっているし、それなのに尋ねるのは、無意味と思ってね」

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