第33話 自覚

 リゼットに男性棟での別行動を希望されたのは予想外だったけど、確かに、その方が無難かも知れない。


「そうだよね、2人でいるより1人の方が目に付き難いかもね」


 でも、目に付き難いっていうのは、私だけかも。

 単独行動したところで、私と違って、リゼットはその美貌で悪目立ちしてしまうだろうから。


「それに、単独行動している方が時間の節約になるわ! 私は、早く戻って、美容の為に睡眠時間はしっかりとキープしたいから!」


 そうなんだ......

 リゼットって、思ったより色々考えている人だった!


 恋の為なら、まっしぐらってわけでも無く、ちゃんと自分らしくいられる為の時間とかも大切にして、周りに振り回されない。

 なんか、一緒にいると、リゼットの意外なところ色々と見えて来た。


「うん、睡眠は大事! ちゃんと眠れていないと、また私、弾を外してしまいそうだし......」


 思いの外しっかり者だったリゼットを私も見習わないと!


「行きは一緒に来たけど、先に終わった方がもう一方を待っていると、人目に付いて怪しまれそうよね? だから、目的を果たした時点で、各自、女性棟に戻りましょう」


 またしても、リゼットの言う通り!


 どっちが先に戻れるか分からないけど、私は極力さっさと切り上げて、一刻も早く自分の部屋に戻りたい!!


 リゼットは、どうなのかな?

 あんな事を言っていても、隊長の部屋に長居したいって気持ちも有るんじゃないのかな?


 リゼットと別れて、私は3棟の3階3号室を目指した。

 こんな分かりやすく数字が並んでいるんだから、きっと分かりやすい位置に有るはず!

 誰かに聞いたり、まごついていたら、周りから怪しまれて、変に注目されてしまいかねない。


 どこで誰に見られているか分からないから、凛として、男性棟の男達にあなどられないように動かないと!


 方向音痴の私だから、迷いそうかもと心配だったけど......

 男性棟の部屋割りは分かりやすくて、スイスイと歩き進めていくうちにエリックの部屋まで着いていた。

 

 3棟の3階の3号室

 ここがエリックの部屋......


 今までの居住地では私の年齢だと、男性に近付く事すら許されてなかったし、こっち来てからも、男の人の部屋に1人で訪問するなんて初めての事!


 う~っ、緊張する~!!

 

 ドアの前で1回、大きく深呼吸してから、ノックした。


「ティアナです」


「どうぞ~!」


 待っていましたとばかりに、すぐにエリックの返事がして、ドアが開けられた。

 

 大丈夫だよね、ルームメイトがいるはずだもん!

 

 ルームメイトってどんな人だろう?

 エリックの部屋の中に、恐る恐る足を踏み入れると、意外にもアーロンが椅子に座っていた!


「アーロンもいたんですね!」


 てっきり別のチームの知らない人がルームメイトとしていると思っていた。


「僕は、エリックのルームメイトだから、当然ここにいるよ」


 アーロンが、私が警戒している気持ちが伝わって面白がっているように、笑いながら言った。

 相変わらず、何考えてるんだか、イヤな感じの人!


「エリック、傷の具合はどうですか?」


「ああ、傷ね。それは、大した事無いよ」


 でしょうね、見た感じからしてそうだったもん!

 だったら、こんな所まで、呼び出さないでよ!


「それより、待ちくたびれて、眠くなって来たから、早く終わらせよう」


「えっ......?」


 終わらせよう......って、何を?


 つい怪訝そうな気持ちが顔に出てしまったせいか、またアーロンが堪え切れないように笑い出した。


「君も、隊長並みに言葉足りないよ、エリック! ティアナが不審者を見るような目付きしている」


 不審者って......?

 私、そんな目付きしてるように見えてしまっているんだ!

 

「ホントだ、悪い、悪い! ティアナにここまで来てもらったのは、今日の射撃について確かめたかったからなんだ」


「えっ、だから、さっき、大した事無いって......」


 何なの?

 大した事無いのか、それともしんどいのかどっちなの?


「百発百中という前評判だったわりに、今回は僕のかすり傷だったからまだ良かったものの、危なっかしい状態だったからね。その原因は何だったのか、さっさと状況判断していかないと。今回みたいに、そうそう練習で外されていたら、僕の身がもたないよ~!」


 なるほど、エリックが私を呼んだ理由は、それとは......

 まさか、仕事の延長上で呼び出されたとは思わなかった!


 軽そうに見えて、意外と正論も言って来る人なんだ。


「確かに、私も、外した原因を自分で把握しておいた方が、同じ過ちを繰り返さないで済むから助かる」


 あんまりミスってばかりいたら、戦闘隊員から除隊させられそうだし。

 原因追求は大事!


「僕は、隊長に指示された通りに動くのがやっとで、ティアナの方まではよく見てなかったんだけど、アーロンは、どう思う、今回の事?」


 隊長もだけど、エリックもやっぱり、アーロンを頼っているんだ。

 この2人って上下関係というか、先輩後輩とか有るのか、同期なのか、どっちなんだろ?


「ティアナは、今回の事は、何かいつもと違う状況だったという自覚が有った?」


 そんないきなり私に振って来る?

 私より、アーロンの意見の方を聞かれていたんじゃなかったの?

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