第15話 思いがけない適性

 あれっ、目が慣れた?


 違う!

 名前忘れたけど、一番近い衛星からの光だ!

 さっきまでの雲が切れて、明るい光が差し込んでいる。


 日中の日差しに比べたら、全然足りないけど、周りの状況を把握出来るのは有難い。


「衛星ウルクスが満ちている状態に感謝だな」


 火起こしに集中して欲しいのに、夜空を見上げた隊長。


 ウルクス.....

 あの近くて大きな衛星は、そんな名前だったんだ。

 

 ウルクスのおかげで、隊長の場所が分かる。

 やっぱり、耳で感じた通り、さっき、私が見張り番していた火の位置だ。


 そして、ウルクスの光は、隊長と銃を持っている私とアーロンだけではなく、隊長を狙っているオオカミ達の姿も見せてくれた。

 

「ガルルルル」


「隊長、危ない!」


「お前が撃つんだ! せっかくだから、俺とアーロンは、ティアナのお手並み拝見とするか」


 何を暢気に構えているの、隊長?

 正気?

 ホントに、襲いかかろうとしているのに!

 私、素人しろうとなのに......


「バン!」

 

 扱った事の無い重い銃なのに、反射的に撃つと、奇跡的に命中した!


 これって、ビギナーズラック......?


 苦しそうにお腹を見せて倒れたオオカミ。

 

「初めてにしては、なかなか良い腕してるな、ティアナ」


「隊長、オオカミは1匹だけじゃないですから、早く火を!」


「ガルルルル」


 1匹仲間が撃たれて倒れているというのに、尚も隊長を狙うオオカミ達。


「ティアナ、俺達の戦闘服は防弾加工されて有るから、際どいところでも躊躇せずに撃て」


 防弾加工されているとは......

 私達のはただの迷彩服なのに......

 ズルイな、自分達だけ助かろうとしていて!


「戦闘服から出ている、頭と手足以外は大丈夫って事ですか? 分かりました」


「わざと出ている部分、狙うなよ!」

 

「わざとではないけど、私は所詮、初心者ですから、一発当てたくらいで期待しないで下さい」


 故意では無くても、運悪く当たってしまった時の為に、一応言っておいた方が無難だよね?

 警戒しつつ今にも、飛びかかろうとしているオオカミを狙った。


「バーン!」


 えっ、嘘!

 またもや命中って!


 私、もしかして、銃撃戦に向いている逸材なのでは......?


「お前、スゴイな~! 2発とも、オオカミを仕留めるとは!」


「僕も一応、ティアナが外した時用に、待機してましたが......僕は、必要無いみたいですね」


 隊長もアーロンも予想外の私の腕前に驚きを隠せない。

 

「まだ分かんないです! たまたま、2発とも、オオカミが当てやすい位置にいてくれただけかも知れないので」


 そうそうビギナーズラックが続くとは思えない。

 仲間が2匹とも即死し、残りのオオカミ達は怯えだし、それ以上襲いかかろうとする様子は無くなり立往生していた。

 そうこうしているうちに、隊長が火を復活させた。

 火が目に入るや否や、オオカミ達が、一斉に退散した。


 もう大丈夫!


「隊長、良かったですね、無事で!」


 2発とも命中させ上機嫌で、火に近付いた。


「無事も何も、お前な~! 火が消えて無かったら、こんな騒動にはならなかった! この愚か者が! 火を絶やすとは何事だ!」


 オオカミに狙われた隊長を救った事で褒められるかと思ったのに、火を消した事で大目玉食らった。


「だって、暖かいし、安心すると、人って眠くならないですか? 今日一日、色々有り過ぎて、私は疲れていたんです!」


 褒められるつもりが怒られて、ついカチンとなって言い返してしまった。


「隊長相手に大口叩けるとは、なかなかだね~、ティアナ。銃の腕前もなかなかだったけど。ですよね、隊長?」


 仲裁に入ろうとしているのか、私をたしなめようとしているのか、アーロンが私と隊長に割り込んで来た。


「まあ、たまたまかも知れないが、腕は悪くないようだな。戦闘隊入りの可能性も有りそうだ」


「戦闘隊! そんな物騒な事を仕事にしているような隊には加わりたくないです! もちろん、私の意思って反映されるんですよね?」


 勝手に配属される前に、自分の気持ちは伝えておかねば!


「本人の希望など聞き入れていたらキリが無い! 人によって適性は様々だから、それぞれに合った場所に配属されなければ意味が無いからな! その為の適性審査期間がこうして定められているんだ!」


「配属先って、適性と希望が一致しない事って多いんですか?」


「ティアナの場合はどうだか分からないが、一致する方が、よっぽど稀だよ」


 頭脳班のアーロンが言うのだから、そうなのだろう。


「そんな~!」


 この先に進むの、ますます憂鬱になって来た~!


「俺みたいに一致した場合は、それこそ勝ち組だ~!」


 はいはい、ど~ぞ勝手に自慢して下さい、勝ち組さんは!


 適性なんて、糞くらえ。

 そんな事になるくらいなら、わざと、弾を外していた!


「ちなみに、ティアナは、どこに配属されるのを希望している?」


 聞かれた所で、私が返答出来ると思っているのか、この隊長は?

 大体、私は、どういう配属先があるのかも知らないんだから。

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