第11話 初めての野宿

「リゼットも疲れているようだし、今日は、この辺で休むとするか」


 隊長が草の上に腰を下ろした。


「えっ、ここでって? まだ宿に着いてないですけど! 宿、着くまで頑張りましょう!」


 ホントは疲れてクタクタだったけど、一刻も早く宿に向かう為と思い、元気アピールを精一杯した。


「誰が、宿に泊まるなんて言った?」


「.....って事は、まさか、野宿?」


 嘘だ!

 何かの冗談だよね?

 こんな野っ原で、夜を明かすって......


「当たり前だ! 宿なんざ、この辺にはどこにも無い!」


 当たり前って、野宿なんて、今までした事無いのに!

 

 お腹空いているだけでも苦痛なのに、その上、野宿なんて......!


 さすがに、ウェイドやリゼットだって、野宿はイヤでしょう?

 気持ちを訴えるように、2人の方を見たけど、まだ2人とも気持ちがあっちに行っちゃっている。

 

「野宿なんかしたら、野獣に襲われて食べられてしまう!」


「大丈夫だ、火は絶やさないでおく。交代で、火の当番をする事になるから、覚悟してな」


 火の当番って......?

 こんなにクタクタになるまで歩かせといて、まさか、夜もグッスリ眠らせてくれないつもり?


 第一、この2人は使いものにならないでしょう?


「火の当番するとしても、この2人は......?」


「順番を最後の方にして、まだ薬の作用続いていたら、仕方ないから、俺ら3人でまた繰り返そう」


 え~っ、私だけ、頭数に入れられている!

 しかも、この2人が使い物にならないせいで、2回順番が回って来るかも知れないって!


 最初の火起こしをするのと火の見張りの当番は、隊長からっていうのは当然だけど。


 多分、次はアーロンで、ウェイドもリゼットも回復してない状態なら、私が3番目になるはず。

 ウェイドやリゼットは、既に眠ってしまっているし、順番来ないかも知れないからいいけど、私も今のうちにさっさと寝ておかないと、後から辛くなる。


 ......とはいえ、この野原で、敷物も敷かないで、もちろん、掛け布団も無い状態で、私、どうやって眠れるんだろう?


 こんな事なら、この前、ストーンサークルの所で、ミミズなんかに怯えてないで、しっかり瞑想して予行練習しておいたり......

 ううん、前世を思い出しておくべきだった!


 これって、一体、何の修行なの?

 居住地に着くまでの配属を決める為だか何だか知らないけど、食事も抜いた上、野宿なんて、ストレスMaxになりそう!


 こんな状況なのに、何の不安も無く、寝入っている2人が羨ましい。

 恐ろしい薬かも知れないけど、こんなストレスをずっと体感しなくて済むんだったら、私もやっぱり飲んだ方が正解だったのかも。


 アーロンは、まだ多分、眠れてないけど、野宿くらい慣れっこのようで、身体の休め方をわきまえている感じ。

 私のように、初めての野宿で、戸惑って不安でいっぱいな気持ちなんて、どこにも無さそうに見える。

 

 それ以前に、まず気にした方がいいかも知れないのは、今、私以外に、意識がしっかりして起きている状態なのが、男2人って事!


 男2人に、か弱き乙女1名が、こんな何1つ遮る物の無い環境で、一夜を明かすのって、かなり危険な事じゃないの?


 2人とも、戦闘隊だし、そういう集まりって、先入観なんだけど、なんだか女縁無さそうだし、私が慰安婦扱いされやしないかと心配なんだけど!

 こんな、ただっ広い荒野で、逃げようたって逃げ切れないし、助けも呼べないし、襲われでもしたら、なすすべ無さそう!


 リゼットみたいに寝ている方が安全なのかも知れないから、さっさと寝たふりするべきなのかな?

 でも、この草がくすぐったいし、虫とか這って来そうだし、とてもじゃないけど、眠れる心境になれない!

 あんなに歩き疲れたのに。

 空きっ腹過ぎるのも、拍車をかけている感じだし。


「どうした、ティアナ? 眠れないのか?」


 あ~、話しかけられてしまった。

 無視......は出来ないよね。

 散々ガサゴソ動き回っている挙句、今さら寝たふりするのも、妙に白々しいし......


「はい......野宿は初めてで」


「まあ初日は、誰でもそんなもんかな? そのうち慣れるさ」


 えっ、私も、野宿を慣れるほど、これから体験しなきゃならないの?

 苦痛なんですけど~!


 もしかして、居住区に着いても、その地域ってだけで、実は建物は無くて、みんな日頃から野宿状態で生活している?


 そんなプライバシーの無い場所で、この先、一生、私、生きていくの?

 トイレとか、お風呂は~?


 ずっとそんなんだったら、やけっぱちっていうか、生きていく事に全く執着無くなりそう。


「青ざめた顔しているけど、大丈夫か? 野宿に慣れると言われて、お先真っ暗になった状態か?」


「錠剤の存在理由が、今までの居住区とは全く別の生活で強いられるストレスを緩和させる為だったと知っていたら、私も飲んでいたかったです!」


 今日1日の出来事が、今まで15年間生きて来た中で1番インパクト強過ぎて、心も身体もオンボロの雑巾みたいになりそう!


「まあまあそう言いなさんな! 何を隠そう、この俺も、こっちに来た時には、

怪しく思えて薬を飲んだふりして、周りの状態に合わせていたんだ! お前は、周りに合わせる事もせず、飲んでない事をバラすような単細胞さだったがな~」


 私を引き合いに出して小馬鹿にしておいて、自分は偉業を成し遂げたかのような隊長。

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