第10話 苦痛な空きっ腹

 このガタイが良くて、俺様的な隊長の名前は、ジェイク......

 もっと厳つい名前が相応しいと思う!

 そう思いたいくらいに、傲慢な依怙贔屓えこひいき野郎だけど......


 これからしばらく隊長に従わないと、居住区着くまで、私達の命の保障は無いんだろうな。


 それにしても、この水筒の水だけって......


 もう成長止まっている隊長達と違って、私達、成長期なんだから、勘弁してよ~!

 お腹空いた......

 

「ティアナ、まだ何か文句有り気に見えるが......」


 おやっ、早速、名前で呼んで来た!

 やっぱり、ナンバー呼び、面倒だったんだ~!


「お腹空いたんですけど」


 私だけじゃなく、ウェイドもリゼットも絶対空いているはず!


 ただ、薬の効果なのか、副作用なんだかよく分からないけど、抜け状態になっているから、気付けてないだけ!


「お腹が空くのは健康な証明だ! 良かったな!」


 えっ、何、その反応は......!


 お腹空いたって言ったんだから、そこは


『そうか、そろそろ夕食時か』


 って言って、荷物から携帯食を出すところでしょう!


 荷物から......って

 あれっ......!

 隊長達の荷物も、水筒しかない!


「あの......食事は?」


「んなもん有るか!」


 ガーン!!


 オアシスまで、丸一日、本当に、この水筒の水だけで済ませるつもり?

 信じられない!!

 何なの、この劣悪過ぎる待遇は!!


「まさか、オアシスってとこまで、この水筒の水だけでもたせるって事ですか?」


「当然だ、さっき言っただろ!」


 水を大事に飲むように言われただけだと思っていた!

 食事抜きだなんて、一言も聞いてない!


「お前らだけじゃない! 俺らだって、こうして空腹に付き合ってあげているんだ! 感謝しろ!」


 はあ?

 空腹に付き合う?

 満腹に付き合ってよ~!

 

 初日そうそう、何なの~、この世界?


 今まで、1日3食、何が有ろうと規則正しく食べて生きて来たのに。

 昼ご飯も食べてないのに、夕食まで無いなんて......

 オアシス着くまでに飢え死にしそうなんだけど。


「お前の仲間達は、空腹じゃないようだな。ギャーギャー騒いでばかりいないで、少しは見習え」


 私が、こんなに落胆しているのに、ウェイドもリゼットも、無表情のまま。

 2食抜いているのに、何でもないの?

 薬のせいで、お腹空いているのも感じられない?

 空腹でこんな辛い思いするくらいだったら、私も、その錠剤とやらを飲んでおくべきだったのかも。


「隊長、薬、下さい!」


 この空腹から解放されるのなら、今からでも、薬を飲むのは遅くないかも。


「俺がそんなの持っていたら、とっくにお前に飲ませていたよ。あんな劇薬、医療班以外の者は持っていない」


 えっ、そんな出回ってない危ない薬を処方されていたの?

 空腹はイヤだけど、やっぱり飲んでなくて正解だったのかも!


「さてと、十分、休憩したし、そろそろ先を急ごう!」


 隊長が立ち上がった。

 空きっ腹なのに、まだ歩くの?

 あっ、でも、確かに、早く宿に着きたい!

 宿に着いたら、夕食に有りつける可能性も有るし!

 疲れて空きっ腹だったけど、なんか、急にヤル気満々になって来た~!


「さっさと行きますか!」


 隊長に続いて、私も立ち上がったが、他の人達のフットワークの悪い事!

 こんな状態だと、宿に着くのも遅くなってしまいそう!


「お前1人張り切っても、後の人達が追い付けないと意味が無いんだよ!」


 そう言いながら、遅い人達に歩調を合わせる隊長。

 なんか厳しいんだか、優しいんだか分からない人だな、つくづく。

 まあ、リゼットに合わせてあげたい気持ちなんだろうけど。


 空きっ腹で、先を急ぎたかったばかりに、隊長に付いて歩き出したものの、結局、歩く順番は、さっきと一緒で、私は後ろから2番目に戻された。

 まだ本調子に戻ってないウェイドとリゼットのせいで、私はいつもの半分くらいの速度でしか歩けない。

 いつになったら、この2人の薬の効果なんだか副作用のようなの、抜けるのかな?

 

「居住区には、あとどれくらいで着くんですか?」


 自分の後ろを歩いているアーロンに話しかけた。


「私語は慎んで下さい」


 私語って、質問しただけなのに......


 だって、いつまでこんな生活続けるのか、気になるじゃない。

 そりゃあ、今、抜け状態の2人は、そんな事を気にするような状態じゃないかも知れないけど、私は、正常なんだから!


 空がいつの間にか黄昏色に染まった頃、隊長が、リゼットの歩調を見て声をかけた。


「大丈夫か?」


「はい、何とかですが......」


 小鳥のさえずりのようなか細い声で答えたリゼット。 

 あの容姿で、あの声は違反だと思う!


 だって、男3人の心配そうな眼差し一身に浴びてるし。

 私だって、あの容姿で、あんな声出したら、皆の同情票を集められそうだけど、残念ながら、両方とも私には備わっていないから、彼らの眼中に入らない。

 

 眼中に入らないからといって、ここから逃げられるというわけでもなく、こんな何一つ障害物の無い草っ原で逃げようとしたって、すぐに見つかって、銃で撃たれておしまい。


 なんか、つくづく報われない感じだよね、私って......

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