第9話 ナンバー呼びなんて御免だから......

 配属先によって、きっと天国と地獄くらいの差が有るのでは?

 到着するまで、まだしばらく時間が有りそうだから、変な所に配属されないように、心して行動しないと!


 まだくしゃみを繰り返している少年の濡れた衣類を別の迷彩服に着替えさせると、黒装束2人を残し、私達と戦闘服男達は、外に出た。


「まだ日が沈むまで間が有るな。少しずつ進むとするか」


 そうは言っても、外に有る乗り物は、黒装束達が使っていた黒い護送車だけ。

 外は一面の荒野で、検問所以外の建物の気配すらない。


「まさか、居住区まで歩くとか......?」


「そのまさか以外に有ると思っていたのか? 居住区に着くまでの間、お前らの適正をしっかりと見極めなくてはならないからな!」


 容赦無い雰囲気の隊長。

 小柄な方は、眼鏡越しに瞳を光らせていた。


「先頭はもちろん、俺だが、お前達が歩く順番は、どうしようか? ひ弱そうな

№32598は脱落しそうだから、俺の次だな」


 美少女の事をひ弱そうって言いつつ、自分の手の届く範囲に置こうとしている......

 それは、あなたが、彼女を気に入っているからでしょうが。

 魂胆は見え見えだって!


 となると、もちろんレディファーストで、次は私かな?


「№52559も男のわりに軟弱そうに見えるし、まあ女達の間に挟んでおいた方が良さそうだな」


 えっ、美少年より、私の方が強く見られている......?


 そんな事ないでしょう?

 私だって、か弱き乙女だというのに、何だか、眼中に全く入れられてない気がするんだけど......


「そうですね、この並びが無難と思います」


 そんなわけないのに、同意するなんて!

 この小柄男は、隊長に逆らえないのか?

 それとも、眼鏡の奥で何かそう感じさせたものが有るのか知らないけど、2人とも、私を何だと思っているの?



 あ~、疲れた~!


 どれくらい歩いたのだろう?

 もうそろそろ陽が落ちる。

 

「すみません、休憩させて下さい」


 最初に根をあげたのは、美少年だった!

 彼らが思っていた通り、私より、ひ弱だったんだ......


「予想にたがわず、№32559は軟弱だったな~! よし、しゃーないから、休憩とするか」


 草原に腰を下ろした一行。

 出発前に水の入った水筒を渡されていたから、それをゴクゴク飲んだ。

 生温なまぬるいけど、喉が渇いていたから、温くても我慢できる。

 

「飲み水は大事に飲めよ。オアシスまでは、まだ1日くらいかかるからな」


 この水筒の水だけで、あと丸1日くらいもたせっていうの?

 スープは......?

 食料は......?

 

「何だ? №32541、不服そうな顔つきしてるな」


「だから、そのナンバー呼びからしてイヤなんですけど!」


 さっきも言って無視されたけど、人間扱いされてないようなナンバーなんかで呼ばれたくない!

 覚える気だって、さらさら無いし~!


「入植者を居住区まで送り届けるまでは、ナンバー呼びが義務付けられている」


「別にボイスレコーダーで録音しているわけでもないんだから、私達が言わない限りバレないんじゃないですか? 大体そんな長ったらしい5桁の数字で呼ぶなんて、回りくどいと思いませんか?」


「確かに、何か予期せぬ危険な事が有った時とか、ナンバー呼びするのは、時間のロスとも言えるな......」


 すぐ目的地に着くわけでも無いのに、今まで、そんな事をよくずっと続けて来たものだと感心してしまう。

 一体、どんな種類の薬を飲まされていたの、入植者達は?


「確かに一理有りますね。今回は、彼女の言うような感じで試してみますか?」


 小柄男も賛成した。

 残り2人の入植者達だって当然、ナンバー呼びはイヤに違いない!


 ......と思うんだけど、目覚めた後も、依然として、2人とも朦朧もうろうとしていて、私のように意見する気力も無さそう。


「まずは、お前、№32541だ! 言い出しっぺのお前から名乗るのが筋だろう」


 私は、既に、さっき名乗っていたのに、聞いてなかった方が悪いと思うんだけど!

 

 って、言いたいところだけど......

 そんな事を言ったら、それこそ、なんか最悪な所に配属されそうだから、ここは大人しく、何事も無かったかのように、もう一度名乗ろうっと。


「私は、ティアナ・アルグランです」


「姓はもう不要だ! 名のみ名乗れ! 次は、その軟弱男」


 へとへとな様子で休憩していた美少年が、自分を呼ばれたと認識し、慌てて背筋を伸ばした。


「僕は、ウェイドです」


 ウェイドっていう、名前だったんだ~!

 なんか、それっぽいかも。

 うんうん、この美少年に似合っている名前だ~!


 マデリン、プリシラ、私が1番先に名前を知る事が出来たよ~!

 ......なんて、この境遇で自慢したところで何にもならないんだけど。


「ウェイドか、軟弱男って呼び名の方がピッタリそうだけどな、ははは」


 なんか、ムカつく!

 自分はまだ名乗らず、人の呼び方で遊んでいるなんて、イヤ~な感じだ!


「そして、あと1人か、名乗れ」


 あ~っ、今までとは明らかに語気が柔らかくなっている~!

 差別も甚だしいわ、この戦闘服隊長。


「私は、リゼットです」


 儚げ美少女には、そのキレイな響きの名前がピッタリかも!


 私も、名前の響きだけは、わりとキレイなんだけどね。

 周りからは、よく名前負けって言われていた......


「これで入植者の名前は分かった。じゃあ、お前から名乗れ」


 小柄戦闘服男に命令した隊長。


「僕は、戦闘隊で頭脳班のアーロン」


 頭脳班なんだ~!

 確かに、頭が切れそうな感じだもんね~。


「俺は、戦闘隊隊長のジェイクだ!」


 入植者達に名前を知らせるのを少し躊躇っていたような感じだったけど、開き直って偉そうに言った隊長。

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