第7話 あちら側の居住区へ

 両親とは、絶対に再会出来る!!


 この別れは、決して永遠ではない!!


 どんなに長くなったとしても、5年の別れという覚悟だけで、その時は家を後にした。


 私を迎えに来たのは、目だけが見えている黒装束に身を包んだ、得体の知れない身体の大きな男性2名。

 私の左右の腕を組んで、フロントガラス以外は窓が付いてない黒い車の後部座席へと導いた。


「乗れ!」


 何の選択肢も与えられてない状況にムカついたけど、今、彼らに歯向かっても無駄な事は分かっていたから、大人しく従った。


 こんな状況で逃げたりしたら、多分、銃で撃たれて死ぬだけ。

 あちらの世界に連れていかれるのは、私の望みではないけど、死ぬのは、もっとイヤ!

 私は、5年以内に前世を思い出して、ここに戻るんだから!


 外から見たのと違和感の無い、殺風景な黒い車内。

 硬いシートに座り、私はどれくらいの距離を移動させられるのだろう?


 車窓からの景色も望めず、揺れに身を任せているうちに、私は、しばらく寝入ってしまっていたらしい。


 ドアが開き、男性の声で、ハッと我に返った。


「降りろ!」

 

 乗った時も命令口調だったが、着いた時もそれは変わらなかった。

 どうして、こんな言われ方をされなきゃならないのだろう?

 まるで、私は、何か悪い行いをしたような犯罪者扱い。


 降りると、ただっ広い荒野に、検問所のような小さなレンガの建物が有り、黒装束の男2人に、私の両側で腕を取って連れて行かれた。


「№32541を連行しました」


 えっ、私の事を......ナンバー呼び?

 

「ご苦労だった。これで今期の入植者3名が揃ったな」


 黒装束よりも偉い立場のような、戦闘服姿の大柄な男性と、その部下のような少し小柄な男性がいた。


 という立場なんだ、私。

 3名って言ってた!

 他に2人いる!

 私1人じゃなくて良かった~!


「入植者室から、先に着いた2人を呼んで来てくれ」


「了解しました!」


 戦闘服男に指示され、黒装束2人は出て行った。

 黒装束達は持っていたか確認出来なかったけど、戦闘服男達は、銃を所持しているのが見える。

 この戦闘服の2人には警戒しとかないと!


 検問所の近くには、それ以外の建物など無かった。

 ここで、何らかのチェックをされ、問題が無かった場合、先に進める事になるのかな?


 もしも、何か問題が発生した場合は、今までいた居住区にも戻れず、あちらの居住区にも行けないまま、まさか、ここで殺処分されてしまう?


 私、人間だし......

 まさか、そんな家畜みたいな扱いはされるわけないよね......?


「№32541、体調はどうだ?」


 もしかして、その番号って、私に聞いている?

 

「その№呼び、イヤなんですけど! 私には、ティアナって名前がちゃんと有るのに! その№で、これから呼ばれ続ける事になるんですか?」


 大体、そんな5桁の数字なんて、急に覚えられない。


「俺に向かって、言い返すとは! さては、お前、錠剤を飲んでないな!」


 錠剤とは......?


「錠剤って、何のことですか?」


「召喚状と同封してあったはずだ! 注意書きしてあったはずだぞ! なぜ、従わなかった?」


 召喚状に同封?

 そもそも私、召喚状自体、目も通してなかったんだった......


「迷彩服に気を取られて、召喚状は開封するの忘れてました」


「ここに連行される事でパニックになったり、自暴自棄になったりするやからも多いが、そのたぐいか?」


 私の事を急に、要注意人物を見るような目付きになる大柄な方の戦闘服男。


「いえ、迷彩服が思ったより気に入ってしまって、召喚状の存在を忘れていただけです」


 戦闘服男2人が爆笑した。


「そうか、迷彩服が気に入ったか! それは何よりだ!」


 笑って済ませてもらって良かった......


 それにしても、錠剤って何?

 それを飲むと、今の私のようではない状態になるって事?

 そんな怪しげな薬をどうして飲まされなきゃならないの......?


 少しすると、黒装束2人が、迷彩服姿の男1人と女1人を連れて戻った。


 2人とも、グッタリして、頭をうな垂れていた。

 錠剤を飲むと、ああいう状態になってしまうんだ!

 それなら、飲んでなくて大正解だった~!


「№32559と№32598を連れて参りました」


 やっぱり、この2人も№呼びだ。

 私も確か5桁の始まりから3桁は325だった。

 きっと2人とも15歳になりたてで、同じ誕生日なはずだから、番号も近いのかも知れない。


 男1人に女1人だったんだ!

 男2人じゃなくて良かった~!

 黒装束も戦闘服も男だし、男が圧倒的多数で、女がごく少数の世界だったらイヤだから。


 でも、あちらの居住区にいる前世を思い出せなかった人達って、もしかして、遺伝的に男が多い可能性も有るよね。

 危険因子とか野蛮っていうと、女より男を連想しやすいし。

 

 この少女、私や友達なんかより、ずっと華奢で従順そうに見えるのに、それでも、あちらの世界の住人になってしまうんだ。


 この少年はどうなんだろう?

 そんな凶暴そうな感じしないけど......

 えっ、頭を下げていて、顔がよく分からないけど、もしかして、この少年は......?


「№32559、いい加減、目を覚ませ!」


 戦闘服男が、少年の背中を叩くと、痛さでのけ反って、顔を上げた。


 やっぱり、そうだ......!

 間違いない!!


 マデリンやプリシラと私の3人揃って、一目惚れした美少年が、今、私の目の前にいる!


 だったら、も全然悪くない!!

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