第6話 頑張った成果は......

 私なりに、思いつく限り頑張ったつもりだった!


 ミミズと出くわさなければ、ストーンサークルで瞑想して、前世を思い出していたかも知れなかった。


 ママも良いインスピレーションを受け取れるよう、胃腸に負担をかけない食事をずっと用意してくれていた。

 アッサリした夕食は、早目に食べていたせいか、お腹空いて眠れなくて、夢も見たのか、見てないのか覚えてもいない。


 学校の往復でも、プリシラやマデリンが懸命に応援してくれて、アドバイスもしてくれていた。

 2人の前でも気持ちは焦っていたけど、深呼吸やリラックスを心がけて、極力平常心を保ち続けようとしていた。


 それなのに、時間は私に手加減してくれる事なんてちっとも無くて、こんな事を2回ずつ繰り返しているうちに、誕生日になってしまっていた。


「ハッピーバースデーって、言わない方がいい、ティアナ?」


 朝起きて、私と目が合った瞬間に、不安そうな顔で尋ねてきたママ。


 そう......

 ついに今朝も、前世の記憶はおろか、夢見すら覚えてない朝を迎えてしまっていた私。


「うん、これから全然ハッピーなんて思えない1日になりそうだもん。5年以内に思い出せなかったら、私、二度と家族にも友達にも会えなくなるし......」


 15歳の私の誕生日がどうなるのか、家族も、私の周りの誰も前例が無いから分からないままだったけど.......

 そんな事を考えさせられる間も無く、朝1番で私宛の郵便物が届いた。


 中には、黑い紙の召喚状と迷彩服が入っていた。


 迷彩服......って?

 私は......軍隊にでも加入させられるのだろうか?


「こんなのが届くなんて......もう事実として受け入れるしか無いのね」


 すっかり諦めるような口調になったママ。

 ママもパパも落ち込んで寡黙になってしまったけど、取り敢えず、着替えて見ると、意外にも迷彩服が似合っていて、何だか新鮮に感じられた!


「どう、これ?」


「まるで、あつらえた様に似合っているわよ! 今まで気付かなかったけど、ティアナは、こういう粗野なのが、案外似合うのかも知れないわね!」


 慰めようとして褒めてくれているのか、そもそも本気で言っているのかも分からないけど、一応、私が気落ちしないように気遣ってくれているママ。

 

 これから私が向かう、には、毎日この迷彩服を身に付けている見知らぬ人々ばかりが暮らしている。

 自分が今まで住んできた、とは全く違う暮らしが待つ場所......


「ティアナに似合う衣服だったのが、せめてもの救いだな」


 仕事を休んだパパもママも、今生の別れのような潤んだ目を私に向けてくるから、やっぱり切なくなる。

 私、本当に、まもなく両親と、もしかしたら永遠の別れを迎える事になるかも知れないんだ......

 

 ドアベルが鳴って、まさかもうお迎えかと思い、ドキドキしながらドアを開けると、プリシラとマデリンが瞳を潤ませ立っていた。


「ティアナ、その面白い服は何?」


 泣き笑いしているようなマデリン。


「召喚状と同梱されていた服なんだけど、案外、似合うでしょ?」


 もう開き直って、笑うしかなかった。


「召喚状、とうとうそんな段階になっていたの......?」


 信じられない様子のプリシラ。


 私だって、こんな現実、信じたくない!

 信じたくないけど、もう、逃げられないんだって、雰囲気から伝わって来る。


「最後に会いに来てくれてありがとう! 私、あちらの居住区に行って、2人のような気の合う友達が見付かるか分からないけど、とにかく頑張る!」


「5年間の猶予期間が有るんだから、また再会できる事を楽しみにしてるよ、ティアナ!」


「絶対、それまでに前世の記憶を思い出してね! 私、毎日祈っているから!」


 マデリンとプリシラが、私の手を握りながら言った。


 こんな大好きな友達と離れて、優しい両親とも離れて、私、本当に未知の世界に1人で行くんだ。


 ホントは行きたくない!

 ここにずっと残っていたいんだけど......

 空気がもうその方向に位置付けられているのを周りからひしひしと感じられる。


「もしも、ここに戻れないような事になったとしても、2人の事、忘れない! 私、召喚される様子を2人に見られたくないから、もう戻ってね。わざわざ来てくれてありがとう!」


「うん、そうだよね。ティアナの気持ち分かる」


「分かったよ、もうお別れにしようね、ティアナ」


 納得してくれるプリシラとマデリン。


「今までずっと、どんな時も一緒に過ごしてくれて、ありがとう! もし戻って来られたら、また一緒に楽しもうね!」


 2人が泣き崩れた顔してくるから、私は、泣きたくなかったのに......もらい泣きせずにいられなかった。

 ホントは、2人に同情されないように、澄ました顔してお別れするつもりだったのに。


「良い友達がいてくれて良かったわね、ティアナ」


「うん、私、友達にも、両親にも恵まれていた! 本当に幸せだった! こんな失う時になってしか気付けなくて遅過ぎたけど、ママの事もパパの事も、本当に感謝し尽くせないくらい感謝してる! 今まで、ワガママ聞いてくれたり、愛情を注いでくれてありがとう!」


 マデリンやプリシラがいた時からの涙がずっと止まらず、泣き顔でお別れしたくなかったのに、グシャグシャに崩れた泣き顔からなかなか戻れなかった。


 そんな時に、無情にも最後のドアベルが鳴った。

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