第3話 適合者と不適合者

「うん、でもね......」


 言葉を濁したプリシラ。

 どうして、同意してくれないの?

 友達の私が、ここから追い出されてしまうかも知れないのに......


「前世の記憶が蘇らない人々は、道徳性が欠ける危険人物が多いみたいなの。だから、この平和な星に争い事とか勃発して、秩序が保たれなくなってしまうのは困るじゃない。その不適因子を早い段階で取り除かなきゃならないのよ」


 道徳性が欠ける危険人物?

 不適因子?

 

 前世の記憶が蘇ってない私を前にして、そんな事を言う、プリシラ?


 今までは一緒に遊んでいたけど、3日後からは、私は危険人物で不適因子だから、当然、友達ではなく排除される存在になるの?


 2人にとって、私は、それまでの期間限定のお友達だったってこと?


「あっ、ティアナが、イコールそれとなんて言ってないわよ」


 取って付けたように、慌てて付け足したマデリン。

 そんな風に後から弁解しても、もう手遅れなくらい、既に私は傷付いたのだけど......

 の彼女達は、自分達には無関係と思って、そういう私の感情なんて、配慮してくれないの?


 私達3人、いつも一緒だった......

 夢を語り合っていたじゃない?


 16歳の成人式が過ぎたら、やっと男性と交流出来る年齢になるから、誰が一番早く婚約者となる男性を見付けられるかって、楽しみにしていた。


 2年前、私達3人して、まだ会話すらして無い、遠目から見ているだけの同じ美少年に一目惚れした。

 16歳の成人式以降、誰が最初に彼に近付いて仲良くなれるかって、妄想し合っていたじゃない?


 その憧れの成人式を迎える1年前に、急にこんな無理難題を押し付けられて、それをクリアしなかったら、私は、もうここに存在する事すら出来なくなるなんて!

 

 私だって、このまま2人と一緒に成人式を迎えるのをずっと心待ちにしていたのに!

 当たり前に迎えられると思っていた大事な行事が、どうして、私だけ、こんなにも遠ざかってしまった?


 どうして、プリシラもマデリンも、何も言わず、そんな顔して私を見つめて来るの?

 どうして、2人とも、これは悪い冗談だって笑ってくれないの?

 

 このままじゃあ、私、本当に3日後、絶望的な大きな節目を迎えるのを避けられなそうだよ......


 不穏な空気を残したままマデリンやプリシラにさよならした。

 重い足で帰宅すると、いつも通り、ママが夕食の準備をしていた。


「ただいま」


「お帰り、ティアナ! 何だか元気無いけど、学校で何か有った?」


 ママは、学校で何か悩み事を抱えているのではと心配したみたい。

 学校は、何も問題無いし、成績も何とか標準を維持している。

 問題は学校ではないの......


「ううん、学校は楽しくて、勉強も付いて行ってるよ。ただ......明々後日、私、15歳になるんだけど......」


 ママは、一体どういうつもりでいるのだろう?


 私が、もうすぐ15歳になるのに、前世の記憶が思い出せない事は、気付いていて、少しは気にしてくれている?


「えっ、もう15歳になるの、ティアナ? まだまだ先と思っていたのに、早いものね! 成人式は16歳だけど、15歳って、色んな分岐点の大切な年だから」


 感慨深そうに話してくるママ。


 色んな分岐点の大切な年......!


 さっき、マデリン達に言われるまで、私は15歳という年が、自分にとってこれほどまでに大きな節目になるなんて、全く想像もしてなかった!


 大事なのは、その1年後の16歳の成人式だけ、としか頭に無かった。

 

 今や、そんな悠長に成人式を迎えるどころの話じゃない!


 私は明々後日しあさってまでに思い出せなかったら、楽しみにしていた成人式に出席出来る資格すら剥奪されてしまう!


 一体、前世の記憶って何?


 遺伝で、思い出しやすい体質とか有るの?

 例え遺伝だとしても......我が家では、そんな前世の記憶の事なんて、誰も触れて来なかったけど、ここに家族で住んでいるという事は、ママもパパも、ちゃんと15歳までに前世の記憶を蘇らせていたはず。

 

「ママは、前世の記憶って、何歳で思い出したの?」


「あら、そういう事が気になっていたの? 私は、遅かったわ。13歳くらいだったから。私が遅かった事も有るし、ティアナにプレッシャーがかかるといけないと思って、我が家ではその事に口出ししてなかったわ。でも、一応聞いておくけど、ティアナはもちろん、前世の記憶をもう思い出しているのでしょう?」


 当然の如くママが尋ねて来た。


 どうして、誕生日3日前にして、今さら大した事でも無いように、そんな大事な話をママは、のうのうと確認してくる事が出来るの?


「ママ、どうすればいい? 私、まだ思い出してないの! あと3日で15歳なのに、私、まだ前世の記憶が思い出せないの!」


 暢気に構えていたママの表情が、突如、凍ったように動かなくなった。

 少し経過してから、信じられない口調で尋ねてきた。


「噓でしょう、ティアナ? あなた、まだ思い出してなかったの......?」


「前世の記憶の件だって、さっき、マデリンとプリシラに初めて知らされた。今までずっと、そんな事、全然知らないでいたのに! いきなり言われても、頭が付いていけないよ、私」


「てっきり、とっくに思い出していて、他の人達には話したくないような前世だったから、何も言ってくれないのだとばかり思っていたわ! 私達も、娘がそんな心境なら、無理強いして聞き出すなんて事はしたくなかったし......」


 その大多数にとっては当然の事が、タイムリミットである15歳の誕生日を目前に控えても、出来ていなかった私って......?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る