第17話 犠牲者

「あの…自分は真人です、葉月真人。」


空気を読んで、真人は挙手をしながら一歩前にでる。



「では、そちらは学君ですね?」


そう言いながらメモをしている蔵末、やはり事前に調べてきているようだ。



「では自己紹介もすんだことですし、立ち話もなんですから中へどうぞ。」


そう言うと蔵末はパトカーのドアを開く。


二人は警戒しながらも言われるがまま、乗り込んだ。


普通なら授業の時間を潰しての今なので、喜ぶべき時間なのだが気が気でない。



「さてとなにから話しましょうか…。」


パトカーの中、話す事がたくさんあるのか、蔵末は手帳を眺め続けている。



「あの順番に話してくださって構いませんよ?」


「いや、話は一つなんですがショッキングな内容なのでね…特に学さんには。」


自分に振られると思っていなかったため、油断していた学。


けれども呼び出しの理由は真人よりも学に関わっていたようだ。



「…単刀直入でいいです。」


焦れったさと内容を早く知りたい思いが溢れ出る…しかし、正直に言えば怖かった。



「わかりました、では単刀直入に…昨日の夕方頃、安藤哲哉さんが何者かに殺害されました。」


「え…?」


単刀直入に友人の死を告げられた学は、頭の中ではまだ理解できておらず、呆然としていた。


学が一番衝撃を受けるであろうから学だけに関する話と始めたのだろう。


しかし、葬式会場で会ったばかりである真人にとっても、衝撃は大きかった。



「昨日、この学校の近くの路地裏で発見されまして死因は出血多量によるものかと。」


パトカーの中は静まり返ってしまっている。



だが…


「嘘だ!嘘だぁぁ!!!」


突然、その均衡を破るように抑えていた感情が溢れ出し動揺を隠せない学。


学にとって哲哉の存在は今の真人、いやそれ以上の存在だったのかもしれない。



「落ち着け!!落ち着け学!!」


真人は必死に学を落ち着かせようとするが学は混乱したままだ。


このままでは無駄だと思った真人は大きく息を吸った。



「今お前が落ち着かなくて、誰が仇を討つんだよ!!」


その怒鳴り声を聞いた学は、ハッと我に返り理性を取り戻すと、ようやく落ち着きを見せた。



「ごめん…でもあいつは、あいつは確かに口は悪かったがホントはいいやつで、あの葬式も自由参加で…。」


自由参加にも関わらず葬式に参加していた哲哉は、実は友達思いのいいやつだったようだ。



「学さんの気持ちもわかりますが今は真人さんの言うとおりです、必ず犯人を探しだしましょう。」


言われなくても、そうするつもりだと学は心に誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る