第15話 異動
「けれど、どうやら今のままではいかないようなんだ。」
先ほどの言葉の後に、蔵末はそう続ける。
二人にはどこか物悲しげな表情に見えていた。
「どうかしたんですか?」
その様子を見て、垣本が不安そうに問いかける。
「簡潔に言う…朱雅、お前の異動命令が出た。」
「え?茜が!?」
「私ですか!?」
問いかけているのが垣本だったので、朱雅は自分だと思っていなかったのか、動揺している。
「喜ぶべき事なんだぞ?お前の腕を評価しての移動なんだ。」
「…。」
喜ばしきことだとは彼女にも理解できている、しかし朱雅は黙り込んでいた。
「…私はいいですよ?いいですけど、こちらを真弓一人に任せることが心配なんです。」
「なっ…私だってねぇ!!」
まるで垣本のせいで気持ちよく旅立てないと言っているような朱雅の発言に、垣本は黙っていられないようだ。
「なぁんてね、実は離れたくないし真弓にも一応期待はしてるのよ?」
「一応って…もう。」
けれどもすぐさま話した本音を聞いて、やり切れない思いのまま垣本は落ち着く。
強がりを言っても共に切磋琢磨した仲、永遠ではなくとも別れは辛いようだ。
「まぁ、株でも上げて真弓よりも頼りがいのある私になって帰ってくるわ、だから真弓は蔵末さんの護衛頼んだわよ。」
「…わかったわ、元気でね。」
こうして朱雅は、今後の一班の成長や自身の成長のために頼みを引き受け、旅立つのだった。
「蔵末さん、今さらですけど断る事は無理だったんですか?茜が困らせまいと無理してた姿が…。」
命令とはいえ、自分で行ってくると言ったとはいえ、明らかに朱雅は無理をしていた。
それは尊敬している蔵末を困らせまいと考えたうえでの素直さだと垣本はわかっていた。
「あぁ、どうしてこんなにも移動が急なのか正直こちらもわからないんだ…班長として申し訳なく思うばかりだ。」
蔵末自身も理解していたが、上からの命令と無理をしているとはいえ、賛成である本人の意見を取り入れるしかなかったのだ。
「…けれど、任されたからには私も二人分くらい頑張りますから!!」
「こちらも成長して帰ってくる朱雅に恥ずかしくないようにしないとなって、うちには岩瀬やほかの皆がいるだろ!?...ん?」
そんな決意の矢先に、蔵末の携帯は何かを告げるために光っていた。
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