第10話 矛盾

「お茶です、どうぞ。」


「あっ…どうも。」


立ち話もなんですからといった自然な流れで家の中にはいった真人。


上山母はお茶を置くと机を挟んだ真人の正面に座る。



「今日はどんな用事かしら?」


上山母の言葉。


単刀直入に言ってもいいのか、それとも上山のことを伏せながら話していくべきか真人は考えた。


その結果、娘の死を触れるのは出来るだけ避けるべきだと判断したのか少しずつ話していくことにした。



「少し前に、この近くでバスと乗用車の事故があったこと…知ってますか?」


「はい、ニュースでもしていたので…それがどうかしましたか?」


上山のことがあったのにとぼけているのか、それとも忘れたい過去として触れないのか、いろいろな思考が頭の中で駆け巡る。


真人は話を続けた。



「ではその事故で一人お亡くなりになられ、昨夜お葬式があったことも知っていますか?」


上山のお母さんは顔色ひとつ変えず問いかけに答える。


「えぇ、知ってますよ?お葬式が昨夜だったとは知りませんでしたけど。」


(なぜ?まるで上山ではない別人のことを話すように…我が子の葬式を知らないわけがない。やはり過去として忘れようと?)


心の中では疑問が溢れ出す。



「…たとえ知らなくても誰かに聞いてでも、あなたは葬式に行くべきでした!!」


あまりの矛盾、からかわれているような発言が真人を刺激し、冷静さを失い少々怒鳴り声になる。



しかし…


「その態度を見たところ、あなたは行ったんですか…フフフ。」



急に笑みを浮かべ、そう言い放つ上山の母。



(なんだ…?あの笑み。あの葬式に行っちゃいけない何かがあったのか?)


意味深な表情に困惑を隠しきれない真人。



「いえ、あまり気になさらず?亡くなったのなら行くのが当然ですよね。」


さっきの笑みから普通に戻った上山母だが何かがあるようで真人は気になっては仕方ない。



「…いえ、こちらも怒鳴り声をあげてすみません、でもなぜ?何らかの手段を取ってでも行こうとしなかったんですか?。」


自分を落ち着かせ冷静に戻る真人。



「…行く必要がないと思ったから、それが理由ではいけませんか?」


先ほどの発言に続き真人にとって親としては許せない発言が続く。


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