第9話 上山家

次の日。


「ふぁぁ~眠い、昨日は結局三時過ぎてたからな」


放課後、真人はさっそく学から貰った上山家の住所を頼りに自転車を走らせている。


ちなみに学は今日、用事があるとのことで行けないことを申し訳なさそうに伝えてきた。



「何からどうやって話せばいいんだよ…学はまだしも、俺のことは親は多分知らないだろうし。」


募る不安、だが足を止めることはなく周りの景色はだんだんと木々や田畑が増え、田舎のような風景に変わり始めた。


地図を見ると目的地はこの付近のようである。



「む?…一軒家、あれか?」


その時、前方にポツリと現れた一軒家。


どうやら地図を見たところ、ここが上山の家らしい。


「ここが上山の…」


目的地には到着したが、昨日のことや自分のことをどう説明すればいいのかわからず、ここに来て躊躇いが発生し、しばらくインターホンは押せなかった。


けれども押さなければ何も始まらず、来た意味さえもなくなってしまう。


それに昨夜のような眠れぬ夜は御免だと、自身を奮い立たせるしか方法がなく、こうなれば奇跡を信じてインターホンを押すしかなかった。



ピンポーン


インターホンの音が家の中で静かに鳴り響く。


しかし…誰も出てくる気配はなく、むしろ物音ひとつ聞こえず人の気配も感じない。



「留守なのか?」


もう一度、インターホンを押して見るが結果は同じだった。



「はぁ…ここまで来た意味なしか、出直そう。」


そう言って、溜め息混じりに去ろうとした時だった。



「どなた?」


背後からの突然の声。



恐る恐る振り向くと、そこには、どこか上山と似た女性が立っていた。


今、帰ってきたところなのか手にはスーパーの袋をぶら下げている。



「あ、あの…上山真希さんのお母さんでしょうか?」


今、緊張で頭の中が真っ白な真人にしては冷静な質問。



「…はい、そうですけどあなたは?」


その言葉を聞いて、すこし安心した真人。



「いきなりですみません、自分は葉月真人と申します」


「…葉月真人?もしかして、うちの子とよく試合してた子?ふふ、もし貴方なら真希の言ってた通りの子ね」


上山真希に自分がどのように言われていたのかはわからないが、母親が自分のことを知っていたことは今はありがたかった。

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