第8話 不在
「ごめんな真人、あいつは口は悪いが良い奴なんだ。」
「…わかってる、それより始まるぞ。」
その言葉通り、到着してまもなく葬式が執り行われる。
上山の遺影の周りは多くの花が飾られ、木魚の音とお経の声が聞こえている。
出席者は五十人以上は来ており、泣き崩れる者や黙祷を捧げる者、縁がないのか無表情の者、友人との再会目当てで来ているなど様々だった。
しかし、真人が話そうとしている肝心の両親が親族の席にいない。
「あれ?おかしいな、上山の親がいないぞ?」
学はそう言って辺りを見渡す、自分の子供の葬式にこない親は滅多にいないはずだが…。
しかし、結局親を見つけることができず、しばらくして葬式は終わってしまう。
「じゃあな、おふたりさん。」
終わった終わったと言いたそうな態度で哲哉は帰って行く。
「じゃあな哲哉。」
「しかし何で来なかったんだろう…他の用事があったとしても最優先はこっちだよな。」
真人は、やはり親がいなかった事が気にくわないのかブツブツと呟いている。
「じゃあさ、明日にでも直接親に聞けばいいんじゃないか?上山のこと聞くんだろ?」
「え!?…住所知ってんのか?」
真人の問いかけにグッと親指を立てる学。
だが…この時の彼の記憶はうろ覚えで結局、明確な地図をなんとか描き終えた頃には会場の来客者は自分達だけになっていた。
「学の奴…思い出してくれたのはありがたいが遅くなっちまったな。」
家に帰ると当然のことながら明かりが消えていた。
妹はどうやら先に寝たようである。
真人も疲れたのか、やるべき事を済ませ、その日はいつもより早く寝室に向かった。
しかし、しばらくは葬式の事が気がかりで眠る事ができない。
(上山の親が葬式に来なかったのは、やっぱり何か用があったから?いや、どんな用があろうとも我が子の葬式を二人共出席しないとかあるか?)
早く眠ろうとしたのにも関わらず、そんな考えが頭の中を駆け巡り、結局眠ったのは鳥のさえずりのする明け方だった。
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