第6話 動揺

そんな時間が止まったように感じていた最中、バタンと玄関の扉の開く音。


「ただいまぁ!今日は部活なかったんだぁ、夕食すぐに作るね!」


本来、今の時間はいないはずの真人の妹、葉月 舞(はづき まい)が帰宅したのである。


肩までのふんわりとした黒のショートボブが似合う天真爛漫な明るい性格で、葉月家の家事は彼女がだいたい担当している。



「…ってお兄ちゃん、どうしたの?」


そんな彼女だが、今は親よりも長い時間一緒にいるだけあって、兄の異常にはいち早く察知していた。



「…おかえり、いや何もないけど?」


不安そうに見つめる妹を見た真人は、心配させたくないため放心状態から無理に笑ってみせる。


しかし、とぼけた口振りとは裏腹に、知らぬ間に目には涙が溜まっていた。



「!!…ちょっと風呂入ってくるよ!!」


「ちょっとお兄ちゃん!!まだ夕方だよ!?」


自分でも予想外だった涙を、妹に見られたくないため風呂場へと向かった真人。


明らかに不自然な兄を見て、舞は違和感を感じつつあえて触れないでおこうと決意する。



その後、真人は涙が止まるまで湯船に浸かり、上がったあとは舞に心配させないよう笑顔で振る舞った。


夕食も食欲はないものの半ば強引に詰め込み、明日が早いからと言って早くに寝床につくのだった。


舞を心配させずに一人になるには、それが一番手っ取り早かったからである。


しかし結局、一睡もできなかったのは言うまでもない。



翌日、


「おはよっ真人、今日は元気ねーじゃん。」


「あぁ学か、昨日ちょっとな…。」


窓の方を見て、虚ろな目をしている真人に学は声をかける。



「…上山のことか?」


「!!…やっぱりお前も見てたんだな。」


いつもと変わらぬ素振りだった学がニュースであったとはいえ、事件について知っていたことに驚く。



「俺も昨日テレビ付けたら丁度、報道やっててさ…上山はなんでバスに乗ってたんだろうな。」


「?…帰宅中とかじゃないのか?通学路みたいな。」


今まで家に帰宅途中の事故だと思っていたが、学の疑問からしてどうやら違うようである。



「いや乗ってたバスは上山の家とは逆の方向なんだよ、まぁどこかに向かう途中だったのかな?」


「…じゃあ上山は帰宅途中じゃなく、どこかへ向かう際にたまたま事故に?」


本人に聞くのが一番早いものの、その本人はもういない、真人達からすれば、どこへ行こうとしていたのかはわからないまま、その答えは迷宮入りである。



「あ…そう言えば今朝、中学校の担任から電話掛かってきてさ?葬式の出席についてだったんだが、親御さんなら何か知ってるかもよ?」


もしも、上山が一度帰宅してから出かけたのであれば、親に行き先を告げていてもおかしくはない。


そのことについて葬式の際に可能な範囲で親に聞いてみようと学は提案する。



「…俺って行っても大丈夫かな?」


「?…同じクラスじゃなかったからか?むしろ行かなきゃダメだろ、間違い探しのライバル同士だろ?」


不安を抱く真人をよそに学は出席したほうが上山も喜ぶと考えている。



「まぁ、詳しい日程がわかりしだい知らせるから、その時に一緒に行こうぜ」


「…ありがとう、学。」


こうして二人は上山真希の葬式に出席することにした。





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