第2話 キラキラ魔石公園の危機とパンピーの反撃
俺の「アホちゃうか…」という呟きは、
会議室に響き渡った。
ピコピコとそろばんを弾いていた 魔石院の役人どもは、一瞬動きを止めた。
冷血なる金子の冷たい視線が、
ゆっくりと俺に突き刺さる。
「…何か、ご意見でも?」
金子の声は、氷のように冷たかった。
他の町の代表者たちは、俺を見てはっと息を呑み、そして慌てて目を逸らす。
まさに「触らぬ神に祟りなし」
といった雰囲気や。
「意見も何も、あんたら、
何を言うとるか分かっとるんか?」
俺は、努めて冷静に、しかし内心は怒りに震えながら言った。
「『きらきら魔石公園』はな、
ただの遊具がある場所ちゃうねん。
あそこは、この町の、いや、この国の未来を担う子供らが、初めて友達と出会い、
初めて転んで、初めて立ち上がる場所や。
数字で測れるもんちゃうねんぞ!」
金子は、少しだけ首を傾げた。その仕草が、
まるで俺の言葉を理解できない機械のようで、
さらに腹が立った。
「申し訳ございませんが、私どもは感情的な要素を予算編成に組み込むことはできません。
あくまで、効率性と収益性、そして財政規律に
基づき、判断を下しております」
「効率性? 収益性? ふざけるな!」
俺は立ち上がった。もう、座ってられへんかった。
「あんたら、この国の何を見てるんや?
毎日、子供らの笑い声が聞こえる公園を、
魔石貯蔵庫にしたら、一体何が生まれるんや?
金か? 金儲けか? そんなに金が大事か!」
会議室の空気は、凍り付いた。
金子の表情は変わらなかったが、
彼の後ろに控えていた役人たちは、
明らかに動揺しているのが分かった。
「パンピーさん、落ち着いてください!」
どこかの町の代表が、小声で俺をなだめよう
としたが、もう止まらへん。
「あんたら、魔石のグラム単価を上げたり、
歯の詰め物の値段まで管理したり、
災害の修繕費は出せへんのに、一体誰のために仕事しとんねん! 国民のためちゃうんか!?」
金子は、ゆっくりと口を開いた。
「我々は、国の財政を守る責務を負っております。無駄な支出をなくし、効率的な運営を行うことが、結果として国民の皆様の利益に繋がるものと信じております」
「無駄な支出やと!? 子供らの笑顔が、無駄な支出なんか!? 災害で壊れた看板や、枯れる寸前の畑が、無駄な支出なんか!?」
俺は、魚屋の源さんや八百屋のおばちゃん
の言葉を思い出し、胸が熱くなった。
俺の店の魔石冷蔵庫のことも。
「あんたらは、数字しか見てへん。
人の暮らしも、人の気持ちも、
何も見てへんやないか! あんたらがやってるのは、
ただの数字遊びや!」
金子の目が、初めてギラリと光った。感情がこもった、初めての反応やった。
「…不愉快な言葉ですね。我々の仕事は、
高度な専門知識に基づいた、厳格な予算管理です。感情論で語られるべきものではありません」
「感情論で語られへんかったら、何で語るんや!
予算管理の前に、人の心を管理せぇ!」
俺は、もう我慢の限界やった。どうにでもなれ、
と思った。
「あんたら、魔石院の役人どもは、
国民に選ばれたこともないくせに、この国の全てを牛耳ってる。まるで、この国の魔石の精霊にでも
なったつもりか? でもな、
精霊は人の心を理解するもんや!
あんたらは、ただの数字の亡者や!」
その瞬間、会議室に沈黙が訪れた。
役人どもは、顔を青ざめさせ、
金子は微動だにしなかった。
しかし、その瞳の奥には、
確かな怒りの炎が宿っているのが見えた。
衝撃の提案と意外な援軍
「…ふむ」
金子は、突然、不気味な笑みを浮かべた。
「では、山本殿。貴殿は、
その『感情』とやらで、この国の財政を健全に保つことができるとでもおっしゃるのですか?」
金子の挑発に、俺は一瞬言葉を失った。
たしかに、感情だけでどうこうできる問題
じゃない。
「…それは…」
「我々は、現実を見ています。
財政が破綻すれば、この国は立ち行かなくなる。
その結果、最も苦しむのは、国民の皆様なのです。我々は、その痛みを最小限に抑えるために、
日々努力している」
金子の言葉は、妙に説得力があった。
彼らが言っていること自体は、
間違っていない。しかし、
そのやり方があまりにも、あまりにも…
その時、会議室のドアが静かに開いた。
そこに立っていたのは、俺と同じように
疲れた顔をした、しかしどこか気品のある
年配の女性だった。
彼女は、ゆっくりと会議室に入ってきて、
金子に向かって深く頭を下げた。
「失礼いたします、金子総務部長。
わたくし、隣町から参りました、教育委員会の…」
その女性の顔を見て、俺は驚いた。
彼女は、俺の孫が通っている保育園の園長先生
やないか!
以前、保育園の運動会で、挨拶に来ていたのを覚えている。
「…ああ、藤田先生。何か?」
金子の声には、なぜか少しだけ、
いつもより丁寧な響きがあった。
「はい。実は、わたくしどもも、
今回の『きらきら魔石公園』の閉鎖の件で、
同様の懸念を抱いております。
公園は、子供たちの成長にとって
不可欠な場所です。そこでの遊びは、
体力だけでなく、社会性や創造性を育む上でも、
非常に重要な役割を果たします」
藤田先生は、落ち着いた声で、しかし強い意志をもって語った。
「確かに、維持管理費用はかかります。
しかし、子供たちが健全に育つことで、
将来的にこの国に還元される無形の価値は、
計り知れないものがあります。
それを、数字だけで切り捨てるのは、
あまりにも短絡的ではないでしょうか?」
金子は、腕を組み、藤田先生の言葉をじっと
聞いていた。彼の顔には、微かに、
ほんの微かに、困惑の色が浮かんでいた。
「…しかし、藤田先生。財政規律は…」
金子が言いかけると、藤田先生はさらに続けた。
「もちろん、それは理解しております。
そこで、わたくしども教育委員会では、
この公園を維持するための新たな
提案をさせて頂きたく、参上いたしました」
藤田先生は、カバンから一枚の書類を取り出し、
金子に手渡した。金子は、その書類に目を通し、
その表情が徐々に変わっていくのが分かった。
驚き、そして、何かを考えるような顔になった。
俺は、藤田先生の登場に、
希望の光を見た気がした。
一人で突っ走るだけでなく、
理解してくれる人が、他にもいる。
そして、この状況を打開できるかもしれない、
具体的な提案がある。
この国は、魔石院の布告が全てかもしれない。
でも、この国の未来を担う子供たちの笑顔を、
俺たちは守りたい。そして、そのために、
俺は、この数字の亡者どもに、
どこまで食い下がれるだろうか。
俺の戦いは、まだ始まったばかりやった。
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