第14話
第14話〜
会場は段々と不穏な空気へ変わっていく。
その理由はもちろん、二人の貴族が睨み合い、己の信念のために一歩も譲らないからだ。
そうして、始まった断罪パーティーはいよいよ終わりを迎えようとしていた。
「ぐぬぬ...誰だって探求者の遺品など武器だと予想ができるではないか! そんなことよりも貴族になったばかりで調子にのりすぎだこの若造め!」
「それでは、この遺品はリリィーから先帝様へと渡していただきます。リリィーは俺と主従関係にありますので、俺の命令したこと以外は絶対にすることができません。これならば、アクノ男爵も安心できるでしょう」
「それならば、奴隷に予め命令しておくこともできる! やはり貴様は信用できない」
「待て! アクノ男爵の言い分も然り、しかし、今は彼の者が主催じゃ。少し控えておれ」
突如、話に割入った先帝様が仲裁する。
しかし、アクノ男爵ときたら、その減らず口は確かなものだった。
「では先帝様、どうか私に遺品の検査をさせて頂きたく存じ上げます! そうすれば、私の心も落ち着きましょう」
そう言って、アクノ男爵はニヤリと笑い、俺らから遺品を取り上げるつもりらしい。
その図々しさからか、それとも別の理由かは分からないが、俺の堪忍袋もそろそろ限界だった。
「はあー...こっちが下手に出てやってるんだから、いい加減そのくさい口を閉じろ!!」
そうボソッと呟いた声で、あたりは瞬く間に静まり返る。
そして、俺の怒りはどうやら恐怖を振りまくようで、辺りにいた人々が怯えるようにこちらを見ている。
「なっ! なんだと、所詮は教養のない平民上がりの若造が、本物の貴族であるこの私に向かって...」
「あんたもいい加減自分の罪を認めたらどうだ?」
「ええい、両者とも落ち着くのだ。まずヨグよ、何があったのか一から説明するのだ」
「はい、先帝様。私達が回収した探求者の遺品は英雄獣使いとその夫の短刀使いのものであると確認出来ました」
「なんと! 獣使いと短刀使いとは、一時期王都で名の知れていた二人組か。いつからか、消息を絶ったと聞いておったが、よもや死んでしまうとは...」
「それだけではありません。獣使いは英雄になっておりました」
「英雄だと!? ヨグ説明せい!」
「はい、まずは私のステータス画面をご覧下さい。一部のみ映し出し、皆様に見てもらいます」
そう言ってステータス画面を表示し、獣使いの記憶を継いでいることを知らしめる。
記憶がこの世界に残せるのは英雄のみ、これは誰もが知っている周知の事実だった。
そして俺のステータス画面を見るや否や、先帝様も察していた。
獣使いが英雄だとわかっていたら、国からの扱いも変わっていただろう。
しかし、その地位も名誉も富すらも捨ててまで、守らなきゃいけなかったものが彼女にはあった。
そう産まれたばかりのアイラちゃんだった。
もし獣使い、アイラちゃんの母親が英雄として世間に出ていたら、もちろんアイラちゃんにも、その期待の眼差しが向けられるだろう。
しかし、それではアイラちゃんの自由はなくなり、国の殺戮兵器のように扱われてしまう。
それを恐れた両親は、ただの探求者を演じ、その実力を隠していた。
だが、神様も意地悪なもので、どこからかその情報を聞きつけ現れたのがアクノ男爵だった。
二人の前にさっそうと姿を表すと、英雄であることを国にばらすと脅迫し、二人に無理難題な依頼を強制させたのだった。
最初は二人とも結果を残していたが、依頼の難易度はどんどんと高くなっていく一方だった。
そうして、あのダンジョンに住むモンスターを討伐しろと依頼が出され。
そして、精神も肉体も疲労しきっていた二人は、そのまま力尽きてしまったのだった。
「これが英雄獣使いの最後です。そしてこれを隠蔽したのもアクノ男爵あなたですね」
「ぐ、ぐぬぬ、平民上がりがどれだけ私を愚弄すれば気が済むのだ! それに私は生涯をかけて、この労力を国に費やしたのだ!
そんな私とたった数日前に貴族なったお前など! 誰が信用するものか!!」
「私のステータス画面を見ても、まだそのように言うのですね。これは救いようのない人だな」
「貴様ああぁぁ!!」
怒りが頂点に達したアクノ男爵は、腰に帯剣していた剣を抜き、こちらに斬りかかってくる。
しかし、俺は避ける気などさらさらなく、また返り討ちにする気もなかった。
そして、アクノ男爵が振り下げた剣は、俺に届く前に弾かれる。
俺も一瞬驚いたが、彼女らしいといえば彼女らしい行いだった。
「ヨグ様を傷つけるやつは...絶対に許さない......絶対に」
狂った愛が解放されました。
値+???
リリィーに剣を弾かれた男爵は、その場に膝を着いた。
彼女は物凄い殺気を放ち、手足はサラマンダー特有の火を纏っていた。
その彼女の姿は、まさに騎士そのものだった。
凛とした姿勢で立ち、大きな盾を構え、そして彼女の背中は大きく、立派に見えた。
すると、アクノ男爵は勝てないと断念したのか、リリィーに向かって暴言を言い放つ。
「奴隷ごときが舐めやがって、それにサラマンダーだと? ははは、古都では貴様らサラマンダー族など悪魔同然だろう」
その暴言にリリィーは、冷静に言い返した。
「別に私は周りの人間がどう思おうと気にしません。だって私にはヨグ様がいます。ヨグ様が私を愛してくれる限り、私は何もいらない」
「黙れ、獣風情が! 貴様らなどの色恋に価値などないわ! どうせ貴様は体目的で買われたに決まっている!」
「そうですか、ヨグ様が望むならこの体も心も捧げましょう。だってヨグ様が望むことが私の喜びであり、私の望むことだからです」
そう言いきったリリィーは、ドヤ顔をする。
すると辺りにいた貴族たちは俺の方に視線を移す。
だが勘違いしないでほしい。
俺はリリィーは好きだが、そういう風には見ていない。
どちらかと言えば、家族に近いだろう。
しかし、そんなことを心の中で叫んでも、周囲の評価は変わりはしなかった。
今度、リリィーに発言には気をつけるよう、言っておこう。
すると、アクノ男爵は、話し合いが無理だと踏んだのか、今度は先帝様へと縋り付いた。
「先帝様! やはりこのような者を貴族にしたのは間違いです!」
そう鼻高々にアクノ男爵は言い放った。
しかし、アクノ男爵はまだ気づいていなかったのだろう。
自分の置かれている立場を。
「そうか...ではアクノよ、問おう。貴族が仕える主人を裏切った場合は、どんな刑が執行されるかのぉ?」
「はい! あの者たちは主人を裏切っただけでなく、高貴な私に向かって、罵詈雑言や暴力行為を致しました。なので...刑は死刑でございます!」
「そうかそうか、ではそのような横暴を働いた
先帝様が命令を下すと、辺りにいた衛兵たちが、俺たちの周りを取り囲んだ。
そして、衛兵たちは一斉に飛びかかり、その男を取り押さえた。
「な、なぜ私を取り押さえているのだ!? 罪を犯したのはあの者たちだぞ! 先帝様これは一体なにを!」
アクノ男爵は焦った表情をし、その場に這いつくばっていた。
しかし、男爵の懇願も虚しく、先帝様の顔には怒りが顕になっていた。
「おかしいのぉ。先程そなたが申したではないか? 貴族が仕える主人を裏切れば、どうなるかをのぉ」
「いや、ですから、それはこの平民上がりのっ...」
「だまれい!!!!」
先帝と言えど元は王、その怒りは誰もが身震いする気迫があった。
そして、先帝様は手に持っていた杖を地面にむかって強く突き、立ち上がった。
その姿からは、まさに王者の風格を感じる。
「そなたは私の顔に泥を塗るだけでは飽き足らず。現王、すなわち我が息子の顔にまで泥を塗ると言うのであれば、もう容赦せぬ!」
「そんな!? 私はこの一生をかけて王に忠誠を誓っております! 決して裏切ってなど!」
「では問おう。なぜ獣使いが英雄だと報告しなかった」
「それは...それは......」
アクノ男爵は答えられないだろう。
なぜなら彼は、自分の評価をあげるためだけに、獣使いを利用したに過ぎないからだ。
そんな、カモがネギを背負って現れたとなれば、私利私欲の強い男爵は喜んで飛びつくだろう。
そう、仕える主人の関係を崩してまで得たものの代償は、さぞかし大きいだろう。
そして、先帝様はついにアクノ男爵に向かって判決を下した。
「アクノよ、答えられぬのであろう。もうよい、そなたの信用は地に落ちた。衛兵よ、その罪人を牢へ閉じ込めておけ!」
そう言われた、アクノ男爵は何も言わずに、ただ衛兵たちによって引きずられていった。
そして、先帝様はため息を吐き、元いた王座へと腰掛ける。
すると、今度は俺たちに向かって、先帝様が話し出す。
「はあー、そなたが現れてからの日々は、退屈せずいいものだ。それでは次にヨグ、そなたに問おう」
「はい、なんなりと!」
「そなたは、平民と貴族の壁を壊してくれると、私個人は思っておる。だからこそ、心配もあるというもの。ヨグよ、そなたは何を
「...」
俺はすぐに答えられなかった。
なぜなら、心から望むものなど考えたことがなかったからだ。
今までは、その場で必要なものが必ずあった。
だが今や、家族のようなニーズヘッグやリリィーがいるし、ましてや、お金には困っていない。
よくよく考えてみたが、これといって欲しいものもない。
俺が黙り込んでいると、先帝様も何かを察したようにこう言った。
「そうか、そなたは心から望むものがないのか。確かに私利私欲は時には大罪となる。しかし、無欲がいいとも思えぬ。そなたは私に会った時から、その才能をひけらかすことも、自慢することもなかった。時に私も最初は謙虚で良いと思っていた。だがそれは本当は心から望むものがないからではないか?」
「...いいえ、私は今の生活に満足しております。それに、もう少しで学園にも通わせてもらえるとのことですので、欲しいものも、いずれは見つかると思います」
そう答えると、先帝様も少し納得いかない表情をしていたが、諦めて話を進めた。
その後、アクノ男爵は地下の牢屋へと幽閉され、ことの重大さから、パーティも一度お開きになった。
そして、俺とリリィーは宿に戻り休息を取る。
その間にギルド長が事件の詳細を、先帝様を含む古都の大臣たちに説明していると、知らせが届いた。
俺も行った方が良いと思ったが、ギルド長にはその行動がわかっていたらしく、その場で待機を命じられた。
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