第13話

第13話〜火蜥蜴サラマンダーと断罪パーティー







〜古都の内側‐宿屋〜



あの後ギルドマスターと別れた俺とリリィーは、一度宿屋に戻り一日の疲れを癒していた。

すると、リリィーは湯で体を拭くために服を脱ぎ始める。

体にあった生傷などはきれいさっぱりなくなり、純白な肌はまさに美と言っても過言ではない。


そんな、リリィーの美しさに見惚れていると、彼女は俺に見られていると気づき顔が赤くなる。


「ヨグ様もしよかったらなんですが、お身体をお拭きしましょうか?」


そう言ってモジモジとしているリリィーを見ていると、なぜだかイケナイことをしているかのように感じてくる。

しかし、そんなことを考えている間にリリィーの顔は真っ赤に染まり、限界を迎えていた。


「ありがとうリリィー、でも俺は大丈夫だからリリィーはもう寝ててもいいよ」


「ですよね...私なんかがヨグ様のお体に触れるなんておこがましかったですよね...」


「いやそういう訳じゃないけど...じゃあやっぱりリリィーにお願いしようかな」


「じゃ、じゃあ準備しますね!」


リリィーはとても嬉しそうに尻尾を振りながらお湯を汲みに行く。

その間に、俺は上半身の服を脱ぎ捨て待っていた。

そして、リリィーは戻ってくると同時に俺を直視する。


「ではヨグ様、失礼致します」


そう言ってリリィーは布をお湯に浸し、余分な水分を絞り出す。

そして、その暖かい布を俺の背中へと当てると、ゆっくりと手を動かし出す。


「...」


「......」


お互い何も話さず、気まずい雰囲気になってしまう。

でもリリィーの手はしっかりと背中で感じることができる。

彼女の手からは暖かさだけでなく、安心感や家族の温もりといったものが滲み出ており、次第に眠くなってしまう。


「あ、あのヨグ様...」


「どうしたのリリィー?」


「えっと、その...私......」


リリィーはなにかを言おうとしたが、再び黙り込んでしまう。

でもそれでいいのだ。そう今はそれでいい。

彼女が話したくないのならそれはそれ、話したくなったなら話せばいい。


俺はそう思い、気ままに待つことにした。

それは耳をそらすわけでも、彼女から遠ざかろうとしているわけではなく、家族だからこそ分かり合えるものが、そこにはあるのだった。


その後、体を拭き終わりあとは就寝だけという時だった。

俺とリリィーは部屋の灯りを消し、狭いベッドへ横になる。

するとリリィーの顔が今までにないくらい近くにあり、その赤い瞳は夜なるとまるで宝石のように美しくなるのだった。


また、リリィーの小さな吐息が俺の鼻先を刺激するかのように通り抜けていく。

すると、夜風が窓の隙間から通ってきて、肩からお腹へとかけて冷やしていき、俺は少し肌寒く身震いをした。


「ヨグ...様......」


リリィーは俺の方にもそもそと寄ってきて、抱き枕のように抱きついてきた。

最初はリリィーが恥ずかしい思いをするのはと思い、彼女から離れようと思ったが、彼女の目には涙が流れ落ちている。

どうやら悪い夢でも見ているのか、その表情は儚げで苦しそうだった。


「リリィー...」


俺はリリィーを強く抱き締めた。

彼女はサラマンダーなので硬そうな鱗が手や足についているものの、意外と体は柔らかくふんわりしていた。

彼女の表情は次第に良くなり、ぐっすりと寝付けていた。


しかし、俺の方は色々と問題だらけであった。


何故かと言うと、彼女に抱きつかれるのはいいが、俺の胸辺りにアブナイ感触が伝わっており、理性という名の獣が暴走しかけていた。

そんな時、リリィーの顔を見ると、途端にその暴走は収まり、逆に保護欲が出てくる。


そうなれば賢者タイムは終わりを迎える。

そして、彼女の体温はすこぶる暖かく、あまり寝付けなさそうだった俺も、すぐに寝ることができた。


〜翌朝〜


ちゅんちゅんと鳥の鳴き声が窓越しに伝わってくる。

目を開けるとあたりは明るく、朝の脱力感を満喫できた。


俺が背伸びのために起き上がると、かたわらにはリリィーがベッタリとくっついており、未だに眠そうだった。

そんな眠そうなリリィーに向かって、朝の挨拶をする。


「ふぁあ〜あ、おはようリリィー。昨日はよく眠れたかな」


「うーん...んっ? ......ヨグしゃまのニオイ...むにゃむにゃ」


「まったく、リリィーは朝から可愛いなあ!」


寝ぼけているから大丈夫と思い、リリィーをぎゅううっと抱きしめている。

すると、さすがの彼女も目を覚ましたようだった。


「あ、おはよっ...うん? へっ!? よ、ヨグ様!? どどど、どうしたのですか! 私にだだだ、抱き付きたかったのですか!?」


「リリィーは暖かいなあ〜。って! ごめんごめんリリィー!!」


「別にヨグ様が望むならいくらでも...なんならその続きも...」


「いや、そのリリィーが昨日の夜に抱きついてきたから、そのノリで...ほんとごめん」


「だだだ、大丈夫です。なんならご馳走様です!」


値+???


どうやらリリィーは嫌がってなかったので俺は安堵する。

いくら主人とは言え、女の子の体に無断で触れるのは良くないことだ。


もしこれがきっかけで、リリィーに嫌われでもしたら死ぬと思う。

なので、今度からはリリィーからするまではしないと心に誓った。


そして、ドタバタな朝を送りつつ、昼になるとついに断罪という名のパーティーが行われようとしていた。


〜古都の内側‐王城〜


そして翌日、ついにこの時が来てしまった。

俺とリリィーは大きな扉を前に、着慣れない服を着て、待機していた。

もちろん、隣にはドレス姿のリリィーがいる。

彼女は真っ赤なドレスに身を包み、薄めの化粧だけでいつもにまして宝石のルビーのようであった。


「リリィー、いつもに増して緊張してるね」


「はい、私こういう場所は初めてですから、ヨグ様に迷惑がかからないといいのですが」


「迷惑どころか、役に立ちすぎてるくらいだよ。それにリリィーのドレス姿は、本当に綺麗だから変な人に声かけられそうで心配だよ」


「綺麗なんて...そんな......えへ」


値+???


リリィーも緊張から解放されたみたいで、不安もなくなった。

すると、一人の使用人が近寄ってきて「準備が整いました」と言ってきた。

そして、俺たちは扉の前へと足を運んだ。


「それじゃあ、リリィー行こうか...」


そう言って、リリィーに手を差し伸べる。

すると、リリィーは差し伸べた手を取り俺の横へと引っ付いた。

そして、使用人に合図がてら会釈をすると、扉を開けてくれた。


眩しいくらいの豪華な部屋が、目の前には広がっていた。

豪華なカーペットを中心に、両脇には多くの貴族や名のある商人達が拍手喝采を送ってくれていた。

また、その中にははぐれ屋のグレイと、アイラちゃんの姿もあった。


ドワーフのグレイには似つかわしくないタキシード風の正装を着ており、アイラちゃんも綺麗なドレス姿になっている。

なぜ彼らがここにいるかと言うと、表上では功績を挙げた探求者の武器を作ったことで呼ばれていた。


しかし、実際は彼らに本当の事実を伝えるために招いたのだ。

そして、俺とリリィーは先帝様の前まで進み、再びあの騎士の誓いを意味するポーズをする。


「この度はこのような催しを開いていただき、誠に感謝しております先帝様」


「なにそなたも貴族となった以上は我らの子同然。して、今回の活躍は素晴らしいものと聞いた。しかも、ギルド長直々に賞賛するとなると、探求者としての才は確か。そなたへの期待もこれからどんどん膨らむのぉ」


「はっ! ありがたき幸せ」


「む? そう思えばこの数日でそなたも変わったものだな。初めて会った時より、はるかに貴族としての振る舞いをわきまえておる。それも才能か、またはそなたの努力か。どちらにせよ、この度のダンジョンの発見、攻略は見事であった。そして、そこのリリィー嬢のことも知っておる。そなたも良き活躍であった」


「は、はい!」


リリィーも少し緊張気味になっていたが、無事に挨拶が終わった。

そして、ここからが勝負所なのだ。

先帝様に事実を話し、この場であの貴族の罪を断罪するために。


「時間が惜しいので手短だが、そなたらの冒険譚を聞かしてくれ」


「はい、先帝様。私とリリィーは探求者になるために...」


俺はダンジョン攻略をこと細かく先帝様に話した。

もちろん、周りでは大勢の名のある者たちが聞いている。

そして、話が後半になるにつれて、だんだん一人の男が青ざめていった。


そう、その男こそアイラちゃんの両親を奪った、アクノ・ショーギョーだった。


「...そして私たちは黒い獣を討伐し、ダンジョンクリアの報酬と、ある探求者の遺品を回収してまいりました。また、ここでその遺品を先帝様へ拝見してもらいとうございます」


「待て待て待て待てええええええええええい!!」


一人の貴族が声を荒げて、こちらを指さし怒り心頭であった。


「そのような無礼は、いくらなんでも許されぬぞ!」


「静まれアクノ男爵、今は神聖な場ぞ」


「しかし先帝様! この野蛮な猿はあろうことか遺品を献上すると言って、その武器で襲うつもりかも知れません! どうか憲兵を!」


突如狂った表情で怒鳴る男爵に対して、先帝様や周りにいた人々は皆驚き、困惑した表情を浮かべていた。

どうやらこの男は遺品を見られれば、自分の立場がどうなるか位はわかっているのだろう。

しかし、先程の発言を逆手に取ってやろう。


「失礼ながら申し上げますが、なぜ男爵様はい遺品が武器だとわかったのですか? 遺品は私とリリィー、そしてギルド長しか知らないはずですが?」


「なっ!...」


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