第12話

第12話~火蜥蜴サラマンダーと鏡












ギルドリーダーにより部屋に案内された俺たちはダンジョン内で起きたことを隠さずに話した。

すると話を聞いたギルドリーダーは険しい表情している。

ふと信用されないだろうと俺は思ったので持って帰ってきたアイテムを見せる。

しかしそれでも、ギルドリーダーは浮かない顔をしていた。


「やはり信用できないか。俺たちも嘘はついていないんだが」


「いや別に君たちを信用どうこうの話ではなくなってきてね。この問題は僕たち探求者ギルドだけじゃ荷が重い事実なんだよ。それに事件と関係があるかもしれないからね」


「あの事件?」


「君たちは知らないだろうけど、探求者なら誰でも知ってる事件があるんだ。

実はもう二、三年前になるんだけど、凄腕の探求者二人が行方不明になる事故が起きたんだ。

しかも、その二人は国直属の探求者で、一人は獣使いの女性、もう一人は短刀使いの男性だ。まあ、ここまでは普通に探求者なら起こり得ることなんだ。

だけど、ある貴族が捜索隊を打ち切って、事件は未解決のままなんだ。それに、その時の依頼だって難易度も高いものじゃなかったから余計怪しいんだ」


俺はその話を聞いてすぐにアイラの両親だと勘づく。

それに、今回のあの黒い獣だって普通じゃない。


「もしかしてだがはぐれ屋のアイラっていう少女が同じような話をしていたが関係あるか?」


「ちょっと待って!? 君たちあのはぐれ屋に行ったのか!」


「確かにあそこは人を寄せ付けない雰囲気だったけど、ある人から勧められて行ってみたんだ。それにリリィーの持っている大盾もあそこのものだ」


「そうなのか...うん、決めた。はぐれ屋が信用した君たちなら僕のことを話しても良さそうだ」


そう言ってギルドリーダーは立ち上がると、魔法を詠唱し発動させる。

そして、みるみる姿形が変わっていき、先程までは人間だったが今ではエルフのような長い耳とイメージ通りの長い金髪があらわになる。


「改めて自己紹介をしておこう。僕はギルドリーダーじゃなくて王都直轄の探求者ギルド長、エルフ族のバン・バテンノだよ。よろしくね、ヨグ君とリリィー君」


先程までとは違いまさに生き生きとした彼を見て驚きが隠せなかった。

それに、王都直轄のギルド長ということは探求者ギルドの最高責任者といっても過言ではない。

リリィーは彼の様子を伺っているが、あまり驚いてはない様子だった。

そして話を戻すが彼、バン・バテンノギルド長はなぜ王都ではなくこの古都に滞在しているのかと言うと、先程話していた事件を解決するためらしい。


それでいて、彼はこの事件が事故ではなく、殺害だと睨んでいたらしく、アイラの言っていた貴族が犯人なのではと疑った。

だが証拠がなく、手詰まりの状態だったらしい。

そこへ俺たちがダンジョンの隠し通路を見つけだし、それを見事突破し、戦利品も持って帰ってきている。

そして、その戦利品こそ、この事件の手がかりであり、証拠だったのだ。


「まず君たちの倒した黒い獣はおそらく獣使いの女性の相棒だと思う。獣使いの獣は主人を守るためならなんだってするからね。そして、一番の証拠がリリィー君の持っている首飾りと短刀だよ。それはあの二人の私物に間違いない。首飾りに傷はないけど、何故か茶色い付着物がついている。また短刀の方は柄の部分しかないが、刃の部分は折れてどこかいったんだろうね。だから、あのダンジョンを探せば証拠は...」


「待ってくれギルド長、もうひとつ黒い獣を撃破した時に貰ったものがあるんだ」


「ん? でも黒い獣からはアイテムがドロップしなかったって聞いたけど」


「いや、話すべきか悩んでいたんだ。でもアイラちゃんのためにもこの事件は早めに解決させたいんだ」


そう言って俺はポケットにしまってあったアイテム取り出しテーブルへとおいた。


「こ、これって...まさか!」


「はい、ダンジョン突破時得た獣使いの記憶っていうアイテムです」


「...そうか、彼女は英雄になったのか......」


「英雄?」


「ヨグ君、英雄になった者が死ぬと、その死体からは英雄の魂、言わば生きがいや、能力といったものがすべて詰め込まれた丸い石になるんだ。これを見たのは初めてだけど、彼女が英雄として生きていたことの証明さ。それに、彼女の死を認めたくなかった獣が、あのダンジョンで守り続けていたんだよ」


「じゃあ、これはアイラの母親のものなのか」


「そうなるね。それじゃあヨグ君、君は選ばれた人間だ。この石を握り潰して彼女を弔ってあげてください」


「いやこれはアイラちゃんに渡すべきでは!」


「ダメなんだよ。このアイテムは選ばれた者にしか触れられない。僕が触ろとしても...ほら! こんな風に通り抜けて、触れないんだ。だから、君が選ばれたんだ彼女に。そして、その意志を継ぐのも君なんだよヨグ君。さあ、今ここで彼女の意志を継いで、この事件に終止符を打ってほしい」


石を砕くことにより、この石に閉じ込められた意志が解放され、彼女は弔われるだろう。

しかし、それは英雄として、本当の意味での死である。

ギルド長の目はいつもなく切なそうで、それでいて安心したような目だった。

これは予想に過ぎないが、ギルド長はあの二人に深い縁のある関係なんだろう。

だから、これは彼のためでも、アイラちゃんのためでもあるんだと思い、俺はテーブルからアイテムを手に取る。


そして...。


「俺がやらなきゃいけないんだ...」


そして手に乗せられた石(意志)を盛大に砕いてやった。

すると砕かれた破片から激しい光が発せられ辺りが見えなくなる。


「う...う......」


少しずつ目を開けると先程までいた部屋ではなく、別の場所に立っていた。


「なんだろう...この感覚は初めてじゃない気がする」


フワフワと浮かんでいるよで沈んでいるような感覚。

また頭痛が起こり視界が歪んで見えるほどの痛みが生じる。

そんな場所に囚われて俺は頭がおかしくなりそうだった。


「やめろ...ヤメロ......やめっ...!!!!」


必死になって、もがいている俺の目の前には、一枚の大きな鏡が現れる。

そして、その鏡からは誰かの声が聞こえてきた。


「かえ...して......」


鏡の奥からは微かだが、女性の声が聞こえてくるのだった。


「かえして...」


「返せって言われても、俺はあんたに返せるものなんて何も無いぞ!」


「かえ...」


すると、女性の声は途中で途切れる。

そして、瞬きをすると目の前には女性らしき姿が見える。


「誰なんだ...お前は誰なんだよ!」


「見つけてくれて...あり......がとう」


「おい待てよ!今なんてっ...」


「最後にお願い...あの子を......お願い...します」


その言葉を最後に地面が崩れ、俺は現実の世界へと帰ってくる。

目が覚めると景色は少し揺らいでいるが、意識はちゃんとしていた。

目の前にはリリィーが涙目になりながらも、必死に俺の名を呼んでいる。


「ヨグ様! ヨグ様!!!」


「ああ、済まない。もう大丈夫だよリリィー...」


「ほんとですか!? 急にヨグ様が倒れてしまって私どうすればいいかわからなくて...」


涙目のリリィーの頭をなでて、落ち着かせてあげた。


「そういえばギルドマスターはどこ行ったんだ?」


「ヨグ様が急に倒れたので慌ててどこかに走って行ってしまいました」


「そっかー...それでリリィーさんはいつまで抱き着いているんですかね」


「へ? ...おわわわわっ! ごめんなさいヨグ様。私に抱き着かれても嬉しくないでしょうし...」


「そんなことはないよ。だってリリィーに抱き着かれると暖かいからね」


「えへへ...ヨグ様が望むならいつでも」


リリィーが喋っている途中で遮るようにギルドマスターが部屋に戻ってきた。

ギルドマスターの顔には汗が滴り、息も上がっている。

またその手にはぎっしりとポーションが握られておりかなり重そうにしていた。


「ああヨグ君気が付いたのか! よかった...」


「それで一体なにが起きたんですが?」


「君があれを砕いた途端、物凄い光が目の前に現れたんだ。そうしたら、君が泡を吹いて倒れるものだから、驚いちゃってね。僕も英雄の魂を継ぐ瞬間は初めて見たけど、こうなるとは予想できなかった。それに、文献にはケガをしたまま継ぐ行為をすると、四肢が爆散するって書いてあったから、そうなっても大丈夫なように、エリクサーを用意したんだ。まあ、もういらないみたいだけど」


「なにそれ怖い」


「まあ、この話は終わりにして引継ぎは成功したのかい?」


「ええ、これを見てもらえば」


そう言って見せたのはステータスの一部だった。


レベル1/2up

獲得獣使いの記憶


「そうか、君は彼女の記憶をちゃんと持っているようだね」


「はい...」


そして、俺は話し始めたのだった。

それは、獣使い、いわばアイラちゃんの母親の記憶を。

その残酷で美しい一生を。


~数時間後~


「そうか...彼女はそれで死んでしまったのか」


そう言って悔しそうに涙を流すギルド長。

それもそうだろう。

なんて言ったって、彼女は国の悪事を隠蔽するために、殺されたようなものだったからだ。

すると、ギルドマスターは立ち上がるとこういった。


「ヨグ君、君は試験でよい成績を残した者として、国に申請する。その時、先帝様に挨拶をするパーティが開かれるだろうから、その時にあの男を断罪しよう」


その声はどこか優しく、また怒りに満ちていた。

そして、俺はギルドマスターの手を取り、強く握る。


「ええ、この豚貴族に地獄を見せてやりますよ」

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