第8話

第8話〜火蜥蜴サラマンダーと英雄墓







〜古都の外側-獣のダンジョン〜


あの後、はぐれ屋からリリィーの武器を買った俺達はすぐにダンジョンへと向かった。


リリィーは大盾を背負い、真紅に輝くアーマーと足首くらいのブーツを身につけていた。


またアーマーは素早さを重視するためか、お腹辺りにはアーマーがついていなかった。


しかし、リリィー本人はそこまで恥ずかしそうにしてないが、俺は目のやり場に困っていた。


そして現在、ダンジョン内へと侵入し、辺りに気をつけながら徐々に進んでいる。

すると先導していたリリィーが曲がり角の手前で、突如動きを止めた。


「ヨグ様、前方に坑道コウモリがいます」


そう言われ、俺はリリィーの傍にある岩陰から、ひょこっと頭を出し、前方を見てみた。

すると、そこには大鷹くらいのコウモリが天井にぶら下がっており、しかもそれは一匹ではなかった。


「なにあれキモイ!!」


小声でそう言うと、リリィーは何を察したのか盾を構え始める。

どうやら、戦闘になるらしい。

俺も槍へと変形しているニーズヘッグを構えて、リリィーの後ろへと着く。

そして、次の瞬間...。


「行きます!!」


リリィーがそう言いながらモンスターまでの距離を一気に縮めていく。

だが、奴らはまだこちらに気づいていないようだった。

幸い、暗いダンジョン内のおかげでこちらへの認識が遅れているのだろう。


そんな中、俺もリリィーの後ろにピッタリと着き、距離を縮めた。


「ギ、ギギギ...」


さすがに相手もこちらの存在に気づいたがもう遅かった。

こちらと、あちらまでの距離はもう半歩程しかない。


「ウーーーーー!!」


リリィーはその大きな盾を思いっきり振り上げた渾身の一撃は、コウモリごと吹き飛ばす程の威力だった。

そして、残りの一匹のコウモリは仲間がやられたとわかり、逃げ出そうとしていた。


意外と頭のキレるやつのようだ。


だが、後々仲間を連れてこられては面倒なので始末しておくに限る。


竜槍ドラゴン投擲ブレス!!」


俺の手から放たれた槍はコウモリが逃げるよりも先にやつの頭を貫いた。

辺りには肉片が飛び散るが、直ぐに灰のよなものへと変わっていく。


「戦闘終了です、ヨグ様」


「了解! じゃあ、被害報告!」


「外傷共にありません!」


「そうか、よくやったよリリィー」


そう言いながら頭を撫でてやる。

もう見なれた光景だが彼女はいつでも喜んでくれるからまたしたくなってしまう。


値+40.0


それはそうと、コウモリからアイテムと経験値が得られたようだ。

経験値はニーズヘッグのお陰で二倍となりそれはパーティにも適応されるそうだ。


しかし、この間の戦闘でレベル1になっている俺はこの程度では上がらないらしい。


それと、同様にレベル60もあるリリィーなんかは上がるはずもないのだ。


次にアイテムだ。


入手アイテム

「獣の肉」×2

「坑道コウモリの翼」×4


「獣の肉」

説明 それは獣の匂いのする肉。加工すれば色んなものに代用できるが、このままでは使えない。しかし、昔の人々はこの肉によって進化したのだろう。


「坑道コウモリの翼」

説明 ダンジョンの入口付近に生息する坑道コウモリの翼。この翼は軽くそして、強固なため武具に用いられることが多い。

しかし、打撃や炎などには弱いため装備などに使う場合は注意が必要だ。


入手アイテムはざっとこんな感じだった。

しかし、不思議にもモンスターは倒すと経験値やアイテムへと変わり他のものは灰へと変わってしまう。


まるでよくあるRPGゲームのようだ。


そして、俺達は先へ先へと進み一際大きなエリアへと辿り着いた。

そこは不思議にもモンスターの気配がなく、空気が澄んでいた。


「なんか...他の場所とは違うな。なんと言うかー、モンスターの気配とか殺気が全くない気がする」


(マスター!!!)


突然ニーズヘッグの声が脳内へと響き渡る。

俺は急遽その場で停止するが、リリィーは気づかずに歩き続けていた。


ザバーーーーーーーーン!!!!


「きゃあ!!!!!!」


突如地面が割れると同時にリリィーの体が宙へと舞い上がったように見えたものの、しかし、実際はその逆で彼女は舞い上がったのではなく、落ちていこうとしているのだ。


そんな時、彼女の横顔が目に映り俺の頭の中ではある記憶が砂嵐のごとく再生された。


「いや...嫌だ! ってくれ!! いていかないでくれ!! リリィー...リリィぃぃぃ!!!」


その記憶は俺のものではなく、しかし、かつて経験したもののようだった。

俺は無意識のうちに、必死になって彼女の伸ばした手を掴もうと前へと走り出したが、もう寸のところでつかみ損ねてしまう。


「ああ、ま《・》た《・》だ。リリィー...待って...くれ...」


もはや目の前にいた大切な人は、もうそこには居ない。

何度も、何度でも見返しても、そこにはなかった。


すると、ある感情だけがその場で湧き出てくる。


自分への嫌悪感、不甲斐なさ、怒り...。


それは、自分への負の感情だった。


「リリィー...待っててな。すぐに...迎えに行くから......」


頭の中には耳鳴りのような音が聞こえてくる。

まるで、自分の体なのに自分ではなくなったかのように思えてくる。


そして、心に空いた穴を埋めるようにリリィーの落ちていった地割れへと足を出す。


「マスター! 一度停止してください。聞こえますか! マスター!!」


再び聞こえてきたニーズヘッグの声は、頭の中ではなく直接耳へと伝わってくる。

その瞬間、意識がふと我に帰ってくる。


「今、リリィーが下にいるんだ。俺が助けなきゃ、俺が....」


「落ち着いてくださいマスター! リリィー様は現在地下へと落ちましたが生命反応は消えておりません」


「あ、ああ、リリィー生きているのか...じゃあすぐにでも助けに」


「だから落ち着いて私の指示に従ってください。まずリリィー様は現在ダンジョンの奥底へと落ちて行きその場から動いておりません。おそらくですが落ちた衝撃で気絶したのでしょう。そうなれば安全なルートを確保した上でリリィー様を助けた方が確実です」


「でも見た感じじゃこのダンジョンはここで行き止まりだぞ」


「確かに見た目だけではそうでしょう。しかし私のマッピング技術を使えば隠された道などすぐにでも見つかります。ではマップを見ていただけますか」


そう言って、ニーズヘッグは目の前にマップを表示させる。

すると、瓦礫が積もった場所がいくつもあり、そのうちどれかが、地下へと通じる道だった。


「マスターはその方向に向かって瓦礫を駆除し、そしてダンジョンの奥へと進みましょう」


「ああ、待ってろよリリィー...すぐに助けるから...」


そう言って、俺は槍を構えると瓦礫が積もっている方向へ力いっぱい投げつける。


竜槍ドラゴン投擲ブレス!!!!」


〜古都の外側ー獣のダンジョンの最奥〜


真っ暗な闇の中、それは深い深い渦のようで嫌な雰囲気を醸し出す。



私は何故...ここにいるのだろう...。



そんな素朴な疑問は今に始まったことじゃなかった。

最初は家族に捨てられたあの時、次に奴隷として寒い牢屋で旅をしたあの時、そして今...。


私は寒くて暗い場所が似合うのだろうか。


寒くて寂しくて...虚しくて...。


でも...でも...もしあのが私を助けようとしてくれているなら...なんて考える必要もないか。


どうせ私は捨てられる。


だってそれが私の人生であり、逃げられぬ運命に違いないからだ。

私の心はどこかで泣いていた。


「リリィー、リリィー!」


そんな時、どこか遠くの方から私の名前を呼んでいる声が聞こえてくる。


それは私を呼ぶ声。


私がまた一番聞きたかった助けの声。

ああ、私はまだ生きなければいけない。


だって...。


あのが私を呼んでいる、私を必要だと思ってくれているから。


そうだ、だからこんな暗い場所になんて私は必要ない。

私はまだ生きていなきゃいけないんだ。

あの太陽・・でいたいから。


「邪魔をッ......するなああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!」


EXスキルが解放されました。


EX 希望もなく、明日もなく、ただ火山の如く: 体に炎を纏い全て焼き尽くす太陽と化す。


そう叫ぶと同時に暗い闇は揺れ動き出し、私の体からは淡い黄色の炎が現れ、辺り一帯を飲み込み、浄化していった。


闇は灰へと帰し、辺りには真っ白な世界に、ただただ燃え広がる自分の姿だけが映し出される。


その世界は、まるで美しい湖に映し出されたオーロラを眺めているようにも見える。


「これで...笑ってくれるかな......」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして、目が覚める。

辺りには私が落ちてきたと言わんばかりに岩や石ころが転がっており、真上にはぽっかりと穴が空いていた。

また不幸中の幸いと言えば、怪我などは一つもなく済んでいることであろう。


「行かなきゃ...」


私は立ち上がると同時に、服に付着した砂を振り払う。

そして、目の前に続く道へと一歩また一歩と進んで行く。

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