第6話
第6話〜
ーーーーーーーーーーーーーー
〜古都の内側-探求者ギルド〜
昼食を終えた俺とリリィーは服屋に服を取りに行き、そしてエルラさんに言われた通り探索者ギルドに訪れていた。
そこは大きな石造りの建物で、広場の眼のつきやすい場所にあった。
また人の入れ替わりも激しく、すぐに探索者ギルドだと分かった。
さらに外に溢れ出た人達を見る限りほとんどの奴が歴戦の猛者のように筋肉を身につけ、大きく屈強な装備を着ている。
「リリィー、ここは怖い人も多いかもしれない。だから俺からあまり離れるなよ」
「はい! ヨグ様......えへへ」
値+1.5
俺がそういうとリリィーはぴったりとくっついて離れないように手を両手で握ってくる。
するとリリィーの体温が直につたわり、俺の心臓の鼓動はどんどんスピードを上げ行く。
他にもリリィーに抱き着かれてあれやこれがあたっているのもあるが、何よりもリリィーは無意識に恋人つなぎをしてくる。
前世では絶対になかった経験のせいでそういう耐性はゼロに等しい。
そして、俺とリリィーは探求者ギルドの中へと入っていった。
〜古都の内側-探求者ギルドの受付場〜
探求者ギルドの中へ入ると、そこは先程の石造りとは異なって木造のオシャレなカフェにいる気分だった。
中の様子に目を奪われていると、いかにも柄の悪そうなグループがこちらを見て何やらニヤニヤ笑っていた。
俺は嫌な予感を風の知らせのように感じたため、急いで受付嬢の元へと向かった。
「あら珍しい、新しいお客さんなんてここ数ヶ月見てないわ...」
ボソリと受付嬢が呟く。
しかしその場は聞き取れなかったため俺は話を進めることにした。
「俺達は探求者になりたくてここへ来たんだが...登録にはなにか手続きが必要か?」
「では初めてのご利用ですね。この紙に必要なことを記入していただいてあとは簡単な試験がございます。試験の内容はこの街からすぐ近くにあるダンジョン内のモンスターの討伐になっております」
「モンスター討伐!? いきなりキツいのが来たな...。まあいいや、それでモンスターって言うのはなんでもいいのか?」
「はい、軍隊コウモリやゴブリンなどの低レベルのもので構いませんよ。あとあまりダンジョンの奥には進まないようにお願いします。ダンジョンの深層は危険ですので」
そして俺とリリィーは渡された紙に各自の情報を書いていく。
記入しているうちに、ふと気づいたのだが俺は何故か字が読めるし書けるのでこれも神様からの特典と言うやつなのだろか。
まあ、今はそうとしか思えない。
そしてリリィーの方に俺は目をやる。
すると彼女も自分で字を読みそして字を書いていた。
彼女は俺が思っている以上にとても優秀だった。
それなのにどうして奴隷になったのだろうと気になったが、本人が話さない限りは、こちらから聞いてはいけないと心に決めているため悶々とする。
刻一刻(こくいっこく)と時間は過ぎていくが、俺は記入し終わってもその感情は一向に消えることがなく、また変な妄想ばかりが俺の脳内をよぎっていく。
ふと、俺の服の裾を引っ張られる感覚が背中から伝わってくる。
その瞬間、俺は現実の循環へと戻され、目の前の視界が鮮やかなものへと戻っていった。
「ヨグ様ぁ! ヨグ様ぁぁ!!...」
「あ、ああ済まないリリィー、少しぼーっとしてた。それでどうかしたのか?」
「いえ、そのさっきヨグ様を呼ぶ人がいたのですがヨグ様は気付いていらっしゃらなかったので...」
値+2.5
俺はリリィーにそう言われ、辺りを見渡してみる。
すると先ほどの受付嬢がこちらに向かって手招きをしていたのだ。
俺とリリィーは記入した紙を片手にそちらへと向かった。
すると紙は回収され、今度は他の部屋へと案内される。
案内されたのは、面会などで使われていそうな綺麗な部屋で、ソファーがテーブルを囲むようなかたちとなっている。
「ではこちらに座って少々お待ちください。少ししますとギルドリーダーがここに来て試験内容の詳しい説明をいたしますので」
俺が頷くと受付嬢は早々に部屋を出ていく。
するとドアが閉まった瞬間から部屋には沈黙の空気がぶわっと現れ、俺とリリィーを飲み込んでいく。
それに抗うようにリリィーはこちらを見ると俺の手を握ってくる。
手のひらからはリリィーの体温が伝わり、会話がなくとも俺の心は安らいでいった。
「えへへ、なんか手を握っていると胸の奥の方がぽわわーってなりますねヨグ様」
「うん...なんかありがとリリィー」
「いえ、私でよければいつでもヨグ様のおそばにいますから」
先ほどの空気など記憶からなくなってしまったと思えるほど今は暖かった。
しかし、そんな時間は長くは続かないようだ。
突然ドアが三回ノックされドアが開けられる。
するとリリィーはびっくりしたのか手を引っ込め、ドアの方に目を向けた。
中へ入ってきたのは中年くらいの男だった。
「失礼するよ、君達が今回の探究者志願者でいいかな?」
「ああ、俺達が今回の志願者で間違いない」
「それじゃあ改めてよろしくね。一応僕はこのギルドのギルドリーダーを務めている者だよ。なにか困ったことがあったら何でも聞いてくれ」
「先程試験があると聞いたんだが、あまり拘束期間が長くなるものは困ってしまうんだ」
「そこは安心してくれていいよ。でも試験内容はこの王都から一番近くにあるダンジョンのモンスターの討伐なんだけど君達は強そうだからダンジョンの一層までのモンスターを倒してきてほしい」
「さっきの受付嬢は何でもいいと言っていたんだが」
「まあ、君達を見込んで少し内容を変えさせてもらうよ。ああでも、その分の報酬と、倒したモンスターによってはCランクからスタートできるように手配するよ」
「質問なんだがランクが上がると何があるんだ?」
「えーっと、Eランクと、Dランクじゃ待遇にそこまでの差はないんだけどね。Cランクからは、国公認の探究者として特別な依頼や報酬、そして探究者から除名されなくなるんだ。元々は一か月の間に、依頼のノルマを達成できなければ除名処分になるのだけど、Cランクは適応されないんだ。だから、年中無休で探究者を続けれるってわけさ!」
「そうか! ...全然凄さがわからないけどランクが高いに越したことはないことはわかった。それじゃあ早速、ダンジョンとやらにいくかな」
俺はそう言って、席を立ち上ろうとするとギルドリーダーが俺の腕を掴んでくる。
「待った、君達まさかとは思うけど準備もしないでダンジョンに潜ろうとしてないよね」
「準備? ああ、武器ならこのニーズヘッ...いやこの槍があるから大丈夫だ」
「いやいやいや、ダンジョンは何が起こるかわかない場所だよ。それに一度攻略されたダンジョンと言っても慢心してたら長くはもたないよ。それが上級で活躍する探究者の基本だからね」
「こう言ってるけどどうするニーズヘック」
(はいマスター! もちろん私がいますので、マスターに傷一つつけさせることはありません。ですが従者であるリリィー様も、今はいますので準備はした方がよいかと)
「わかった。それじゃあギルドリーダー、どこか準備に必要な物を買える店を知っているか?」
「うーん、そうだね...一応ギルドでダンジョンに必要な物は買えるけど武器や武具は取り扱ってないんだよ。だからそちらのお嬢さんの武器は武器屋街(・・・・)で見繕ってほしいかな」
「たしかにリリィーがいくら強いからって素手じゃ心もとないか。それじゃあリリィー、武器を買いに行くか。それに武器屋って一度は行ってみたかったしな」
「い、いえ!! ヨグ様、私に武器は必要ないといいますか...上手く扱えないといいますか...」
リリィーはそう言いながら少し暗い表情を見せ、武器を必要とはしなかった。
彼女がここまで嫌がるのは初めてでなにか後ろめたいことがあるのか、それともリリィーの過去がなにか関係しているのかはわからない。
しかし万が一俺と彼女が離れ離れになり、彼女一人で戦闘にでもなれば最悪の事態になりかねない。
それだけは避けなければいけないため、俺は彼女の手を取り武器屋へと向かった。
~古都の内側‐武器屋街~
俺達はギルドリーダーの言っていた武器屋街へと訪れていた。
そこでは鉄と熱気で溢れており、どこへ行っても、鉄独特な匂いが鼻腔を刺激する。
また腕利きの武器職人達が多く、その力量は完成した武器の艶や輝きを見れば一目瞭然だ。
そのため探究者達の多くがこの武器屋街で武器を購入するらしい。
「ほえ~、どこ行っても鉄を打つ音がする...さすが武器屋街だな。でもこれだけ良い武器屋が多いと、どこで買ったらいいかわからないや」
俺がそういいながらダラダラと歩いていると、突然お腹のあたりに強い衝撃が走り俺は倒れ込む。
すると、目の前には俺にぶつかり跳ね返っている少年?の姿があった。
「イテテ、ぶつかってしまってすまない。そちらは大丈夫...?」
「...ッ!」
少年?は何もなかったかのように立ち上がり速やかにその場を去ろうと走り出そうとする。
しかし少年?のいき先にはリリィーが立ちはだかっていた。
「待ちなさいっ! ヨグ様から盗んだ物を返してください!」
「チッ...」
リリィーがそう言っていたので俺は自分の腰にぶら下げていた財布(袋)がないことに気付く。
どうやらこの少年?がぶつかった際に、俺の財布を盗んでいたのをリリィーは見逃さなかったらしい。
もちろん、盗みはよくないことだがこの少年?の技術も凄く、またリリィーの動体視力も人間を遥かに超えているらしい。
俺は盗まれたことよりも二人の凄さに感服しているとリリィーが珍しく声を荒げる。
「いい加減に返してください! これ以上いっても聞かないのならお前を...」
リリィーは爪を立てて少年?を威嚇する。
すると少年?はその圧に耐えきれなかったのか、しびれを切らしてその場に袋を投げ捨てると、足早に逃げていった。
その様子を見て気に食わなさそうにしていたリリィーだが、袋を拾い上げて、俺の方へと持ってくると、すでに笑顔になっていた。
「あ、ありがとうなリリィー、俺じゃあのまま袋ごと取られてたよ。それにしてもよく気付いたな」
「えへへー、ヨグ様のお役に立てたなら嬉しいです!」
リリィーの頭を優しく撫でてやるとまるで犬のように擦り寄ってきた。
値+30.0
パチパチパチ...。
するとどこからか拍手をする音が聞こえてくる。
「ん?」
「いやー、お見事ですな旦那...」
その怪しげな声の主はただの一般通行人の男だった。
しかし、この男からは異様なオーラを漂わせている。
リリィーもこの男を見るなり警戒して俺を守るように前へと立ち塞がる。
本当は俺が守るべきなのだが俺は動けずにいた。
「どうも私は、この街で商いを営んでいる者でして、今日は...そう、良いものを見ましたよ」
「良いもの? 俺とあの少年がぶつかったことか?」
「それはよくあることなのですよ。なんせあの少女(・・)はここらでは結構な有名人でして。よく新参者を見つけては盗みを働くので、今日もまたかと、思っておりました。それも一度も失敗しなかったあの少女が諦める姿は初めてですよ。それにそこの彼女さんもお美しい」
「ヨグ様の...彼女!? ...はうぅ...えへへー」
「えっ! リリィー、どうしたんだ! 急に顔が赤い...まさか熱が!」
「あははは、あなたも罪な人だ。それでは面白いものを見せて貰えましたしなにか悩みはありませんか。私はここらには詳しい方ですから」
「それは助かる! ちょうど今どの武器屋がいいかわからなくて困ってたんだよ」
「武器ですか、うーむ...あっ! いい所がございますよ。ここの道を真っ直ぐと進んだところにはぐれ屋と言う武器屋があるのですがそこが良いものを売っていると聞きましたよ」
そう男が言うとかなり奥の方にある古い小屋のようなものに指を指している。
その小屋の周りには建物はなく、それに建物も整備もされているとは思えなかった。
それどころか人がいるかも怪しい限りだった。
「本当にあの場所でいいんだよな? 別にあんたを疑ってる訳じゃないんだが...」
「まあ、なんと言えばいいでしょうか...。腕は確かなのですが、あそこの店主は少し変わり者でしてね」
「わかった、じゃあ一度行ってみないとな」
「はい、そうしてくれると嬉しいです。ではまたどこかで」
「あっ、おいあんた名前は!!」
「ふふ、私はウィル商会のウィルキン・ボーデンでございます」
「俺はヨグ・ランスロットだ。それじゃあなウィルキン!」
「ええ、またどこかで会えましたら...。それまではご贔屓に。」
俺は紳士な男に一礼しその場を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます