第5話
第5話〜
~サラマンダーの街~
私はサラマンダー族の夫婦のもとに産まれた三人目の子どもでした。
また私の家族は代々戦士の家系で、母も父も有名な戦士と謳われていました。
姉上や兄上に至っては親を超える天才といわれていました。
そんな中、私は産まれてすぐに病気が見つかり、体が弱く吐血症もひどかったのです。
そのため戦士になるどころか武器を握るので精一杯な状況でした。
もちろん最初は母も父も私を鍛えようとしましたが私が十を超えるころにはもうあきらめていたようです。
それは、私が奴隷商に売られる一年前のことでした。
急きょ家族全員が集められ家族会議が開かれました。
私はその日から外出禁止や家の家事全般を強制され、食事は一日に一食のみとなり、家族として扱ってもらえなくなりました。
しかし、どれも耐えられない程ではありませんでした。
なによりも耐えられなかったのが姉上や兄上からの虐めでした。
私が朝起きて兄上に鉢合わせようものなら兄上は私に暴力を振るようになり、姉上は私の好きだった本を燃やして私が泣くのを見て楽しそうにしていました。
もちろん母や父は見て見ぬふりをして私を助ける人なんて誰一人いませんでした。
そして虐めじみたことは段々エスカレートしていきました。
私は毎日殴られ、腕や体を焼かれ火傷痕が痛々しく残ることも多くなりました。
痛みに耐える日々の中で涙は枯れ果ててしまい、いつの日か私は死を求めるようになりました。
しかしいざ死を目の前にすると最後の一歩が踏み出せず枯れたはずの涙が溢れてくるのです。
誰でもいいから私をここから解放してください。
誰か...ダレカ...。
そうして半年が経った頃でした。
私は父に呼ばれ恐る恐る父の部屋へと向かいました。
部屋に入るとそこには真剣な表情で座る父がいました。
私は息をのみながらも父の目の前に立つ。
すると父は低い声でこう言い放つ。
「突然呼んですまないなリリィー、実はお前に見合いの話が来ている。相手は大金持ちの息子で独身だが今年で三十五を過ぎるそうだ。これなら...]
「い、いやです父上! 私はまだ十一歳になったばかりです。それに好きでもない相手と結婚なんて!」
「話を聞きなさいリリィー! これ以上家の恥になりたくないのだろ!!」
「はい......ごめんなさい父上」
「だがお前がどうしてもいやだと言うのならべつに構わん。私もこの見合いは内容がふざけすぎていると知っているからな。それにお前とて私の一人娘なのだ」
「ほんとうですか父上!」
私は嬉しかった。
それは父が初めて私に向かって言った誉め言葉だったからだ。
いつもの父は「家の恥になるな」とだけ言ってそれ以外は無害だった。
しかし今の父からはどこかさみしさや悲しさを感じさせる弱弱しい姿に見えた。
すると父は続けて真剣な顔に戻り話し始める。
「だがなリリィー、母さん達にはお前が嫁ぐと言ってある。もしお前が嫁がなければ虐めはひどくなるだろうからな。だからお前には奴隷商に売ることにする」
「えっ...]
「今日はお前の意志を聞きたかっただけだ、そして今お前は嫁ぐことを拒んだ。ならお前がすこしでもこの家のためになるためだ、許せ」
「...わ、わかりました」
そこで父との会話は終わり、部屋から出ると現実に戻ったように唐突に涙が零れ落ちる。
その涙は悲しみでも憎しみでもなく色々な感情が入り混じったものだった。
私が売られるまでの数日は姉上や兄上からの虐めもなくなり、昔のような平穏な日々が続いた。
そして私はついに奴隷商に売られました。
当日は夜遅くに私と父だけが人出の少ない路地裏へと行きました。
そこには奴隷商が馬車を用意して待っていました。
奴隷商は父と少し会話した後、大きな馬車に私を乗せると多額のお金を父に渡し、そのまま出発し私は長い間街々をめぐりました。
馬車の中には他にも売られた子ども達がいましたが皆顔の表情は暗く体もやせ細っていました。
奴隷商は私よりも先に体の悪い子達を売りに出し、私は外見だけは綺麗だったので中々売りには出されませんでした。
そんな日々を送っていると売られていった子達は幸せになったのかとか、私はどんな主人に買われるのだろうとふと思うようになりました。
それは期待と願いの合わり希望のようなものでした。
しかし売られていった子たちが本当に幸せかはわかりません、ですが幸せになりたいのは皆同じはずです。
たとえ私の買ってくれる主人がどんな人であろうと私を愛(・)してくれるなら何でもいい、そう願っていつか来るその日を待ち続けました。
そのまま私が奴隷商に売られてから半年ほどが経ちました。
そしてついに私は売りに出されました。
その日の朝、奴隷商は街に着くとあからさまにウキウキと、喜ばしそうに私を冷たい檻から出してくれました。
何といってもここは古都と言って世俗を離れた大貴族達が沢山いるそうです。
奴隷商は私が高額で取引できると考えたのでしょう。
その期待を背負ったままついにその日の夜、私は奴隷商の合図と同時にステージへと立たされました。
私が登場すると朝の期待とは裏腹に貴族たちの表情は引きつっているように見えました。
また、それだけでなくひそひそと噂を話し、根も葉もないことを言い放っていました。
貴族達の表情は私の家族から向けられるものに近いものを感じて、私は我慢できず涙が出てきてしまいました。
ここまで来てもなお、私は必要とされず、私は愛されず、どれだけ無力なんだろうと思い知らせれる。
その頃、奴隷商の顔も羨望から焦燥へと変わり果て何とかして買ってもらおうと必死に言葉を並べています。
しかし誰も手を挙げません。
ああ、私って必要ないのかなぁ...ああ、だれかに愛されたかったなぁ...ああ、生まれてこなければよかったなぁ。
私の心の奥底にあった何かが壊れたような音がどこからともなく聞こえた気がしました。
希望も夢も明日も見失っていく。
どんどん深い暗闇に落ちていくような無力感に浸っていると、辺りがざわざわとし始めました。
次はどんな仕打ちをされるのだろうか...。
そう思いながらも、私が顔を上げて前を向くと、そこには辺りの貴族達よりもうんと若い男性が手を挙げ微笑んでいました。
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~奴隷市場の内側₋ステージの裏側~
俺はサラマンダーの少女を受け取るためにステージの裏側へと案内されていた。
そして裏へと向かい暖簾のような布を捲るとそこには先ほどのサラマンダーの少女と奴隷商の姿があった。
「いやぁー、お客様いいお買い物をしましたねぇ」
「一応狙ってはいたしな。それよりも今回が初めて参加したからわからないんだがサラマンダーは毎回あんな感じなのか?」
「いえいえ、サラマンダーはかなり重宝される種族でございます。時に前回の売買では十八億ドラをたたき出したのもサラマンダーでございます」
「それはすごいな、まさかとは思うが今更売らないとは言わないよな」
「もちろんでございます、我々の業界では信用が第一ですからね。もし買い手が決まっても商品を出さないと噂が広がればうちは終わりですから。なので今回はお客様が得をして我々の考えが甘かったということです」
「そうか、じゃあはい...百万ドラだ」
「お預かりいたします。では今から数えてまいりますのでしばらくお待ちください」
そう言って奴隷は奥の部屋に向かった。
また奥には数人かかりでお金を数えている姿がチラリと見えた。
大量の札束が重なっており、奴隷の売買とはそれだけ大きな金が動くものなのだと学んだ。
今回が初めての参加となったがどうやら俺は運がよかったようだ。
俺が呑気に待っているとサラマンダーの少女がじっと見つめてくる視線を感じる。
少し恥ずかしく思えたがもし俺が少女と同じ立場なら同じことをしただろう。
何といっても今後自分の主人となり一生をともにするのだから。
俺は少女の方に目を向けると少女はハッとした表情となり俺から目をそらす。
そして今度は少女が恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
正直めちゃくちゃ可愛い。
「お待たせしましたお客様、お金は丁度百万ドラありましたのでお会計と契約を施して終わりでございます」
「契約?」
「特殊な道具が必要となりますのでご案内いたします」
そう言われ連れていかれた部屋に入るとそこは薄暗くそしてなぜか寒かった。
「ではまず主人と奴隷の契約ですが主人の情報を奴隷に刻みます。すると奴隷はお客様に逆らえなくなり命令に従順となります」
「それは後から解除とか可能なのか?」
「はい、拘束の度合いはステータスで行えます。ですが拘束の解除はあまりお勧めできません。それで怪我をさせられたり最悪殺害されたこともありますのでよく注意してお使いください」
「わかった。それで俺は何をすればいいんだ」
「そこに回復のポーションとナイフがございます。お客様には少々お手数をおかけしますがナイフで少し皮膚を傷つけ血をこのお皿に垂らしてください。血は一滴で十分でございます」
俺は奴隷商に言われた通りナイフを手に持ち反対の親指に向けるが手が震えてくる。
とても不思議だと思った。
前世では何も考えずともドラゴンになるためならいくらでも体を傷つけていたのに一度きりの転生で少なからずリセットされた感情があるらしい。
しかしこれもこのサラマンダーの少女を手に入れるためだ。
そう覚悟を決め俺は少し切って一滴血を皿に垂らした。
「ありがとうございますお客様、大切に使わせていただきます。それではそこの回復のポーションを...ん!? もう傷口が治ってますね...貴方は一体...」
「まあ、生まれてから森暮らしだったから傷とかには強いんだ」
「さすがは自然の力ですな。おっと長話はここまでにしてそれではこの少女に契約を施しますのでお待ちください」
そう言うと奴隷商人は先程俺の血が入った皿に青白いネバネバした液体を加え混ぜると液体の色が紫へと変わる。
そして筆のような物を液体に付けそれを少女の舌へと運び、少女は恐る恐るその液体を舐めた。
突如、少女は息が荒くなり苦しそうに悶え始める。
「う、ウガああああああああぁぁぁ!!!」
少女はその場に倒れ込み赤い涙を垂らし始める。
すると俺のステータス画面に少女のステータスが追加された。
名前 リリィー
レベル60
スキル
技量A+:触れている物の扱いが上手になる
耐久力B:耐久力45+
鷹の目:遠くまで見えるようになる
裏切られた者:信仰-100
狂〇た○:?????
EX なし
HP2600/2600
MP200/200
筋力137
持久力400
耐性力40(+45)/85
知力79
信仰力ー100
運力99
どうやらサラマンダーの少女の名はリリィーと言うらしい。
俺はしばらくの間リリィーのステータスを眺めていたが特に変わった点はなく、レベルもかなり高いので戦闘面でも特に問題なさそうだった。
しかし問題なのは彼女の内面の方だ。
彼女は一体どんな過去があったのかは未だわからないがステータスにある通り何かに裏切られたのだろう。
それが友人であれ、恋人であれ、家族であれ、彼女の心を開くことは難しそうだ。
奴隷商が一枚の布を彼女に渡すとさっさとどこかへ行ってしまう。
その布は厚手でかなり良質であるため防寒具代わりにできそうだった。
どうやら奴隷商という職業柄にとらわれすぎて悪いイメージだったが、その姿を見て子の旅たちを祝福する親のようにも見えたのだ。
そして俺は彼女の手を握り外へと出たのだった。
~古都内部‐奴隷市場の目の前~
外へと出た俺達だったが相変わらず寒かった。
しかし彼女が握っている右手だけはとても暖かくてじんわりとしていた。
すると俺の寒そうな姿を見て心配したのか彼女はよりその手を強く握りしめてくる。
小さい手なのにその力は強く、そして心を落ち着かせる。
そして会話のないまま外へと出てしまったが先ほどの行動で分かったことがある。
それは、彼女は意外にも心を開いてくれているようだった。
彼女に握られた手に温度を感じながら俺はとりあえず宿を目指して歩き始める。
しかし一向に会話が出来ずにいる自分に情けなく思えてくる。
有名人に会いに行っていざ話せると思うと何も出てこなくなるアレに近い。
「あの...」
痺れを切らしたのか彼女が必至な表情でこちらを見ていた。
初めて彼女と目が合った瞬間だった。
「ああ、すまない。やっぱりいきなり手を握られるのは嫌だったよな」
「いえ...とても、とてもうれしかったです。で、でもご主人様!」
「ヨグ=ランスロットだ、ヨグでいいよ」
「で、ではヨグ様はなぜ私を買われたのですか。周りの人達はみんな私を見て嫌な顔をして...私なんてどこにも取柄なんてないですし...」
「はぁ~そういうことね。簡単だな話だよ! 俺は君が好きだから、一目惚れ? うーん違うなー、何て言っていいかわからないや」
「はにゃ!? す、好きですか!? わわわわ、私が好きっているのは...それは、どういう...」
「え、そのままの意味だけど?」
「そのままの意味!? じゃあヨグ様は、その、私自身が好きってことですか?」
「そういうことかな、なんかそういわれてみれば恥ずかしくなってきた。じゃ、じゃあとりあえずこれからよろしくねリリィー」
「は、はい! ヨグ様ぁ!!」
彼女が初めて見せた笑顔には計り知れないほどの幸福感を感じた。
また彼女の眼の奥には海よりも深いなにかがあるようにも見えたのだった。
狂〇た〇の値が解放しました...。
値+0.05
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~古都の内側₋高級宿の小部屋~
あの後俺達は宿へと戻ると疲れていたのかすぐに寝てしまった。
そして翌日目が覚めると清々しい朝を迎えられた。
「うぁあ...にゃむにゃむ...」
起きたすぐは目の視点が合わずぼんやりとしている。
そんな中、俺は昨日の夜はとても寒かったことを思い出す。
そしてようやく意識がはっきりとしてきて視点も戻り始めた頃に俺は布団にある違和感を覚えた。
それは、とても暖かくそして少し硬いものだった。
恐る恐る布団を捲(めく)ると、そこには気持ちよさそうに寝ているリリィーの姿があった。
しかし、よくよく見てみると彼女は布っ切れ一枚も着ておらず、言わば素っ裸の状態だった。
「ちょ、ちょっとリリィーさん!? なぜ俺の布団にいるんですかね! しかも服はどうしたのぉおおお!」
リリィーは寝ぼけているのか俺の声に反応して思いっきり抱き着いてくる。
「まじてヤバイ。ちょっとリリィー! リリィー! 起きて、ほら起きて!」
必死にリリィーを起こそうとしたが彼女は中々起きてはくれなかった。
俺が悪戦苦闘を強いられている中、ドアがノックされる。
トントントン!
「はーい! どなたですかぁ?今ちょっと出られなっ!」
「エルラだ。少し伝えることがあるので入るぞ」
「ちょ、ちょっと待っ!!!」
突然ドアが開き入ってきたエルラさんは何枚かの紙を手にし、そちらを見ていたが面を上げこちらに目をやる。
すると一瞬黙り込んで何も言わなかったが急激に顔を赤くして盛大に...。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
叫んだ。
「はにゃ!? どうかされましたかヨグ様!」
この状況を作り出した根源が今目を覚ましたようだ。
さすがにエルラさんのあの声を聞いて飛び起きないものはいないだろう。
それくらいの大声で叫んだエルラさんは続けさまに誤解をしていく。
「ななな、なにを破廉恥な! 貴殿もそういうことをするなら鍵くらいかけたらどうなんだ!? い、いや待て? これは止めるべきなのか? そうだ! 止めるべきだな!!」
「エルラさん落ち着いてください! 第一にいかがわしいことは一切してませんよ!! リリィーが寝ぼけてるだけで...それに昨日までは彼女も服(布)を着てました!」
「え?...」
---------
俺はエルラさんの誤解を解こうと説明をし始めてはや五分程。
彼女はとても頑固だったが言い換えれば意志の強さでもあるためある意味では感心できる程だった。
「...申し訳ないヨグ殿、私の早とちりだったようだ」
「はあ、はあ、わかって...くれたならいいです」
「はっ! そう言えばヨグ殿に伝えることがあったのだった。えーっとこの紙に...これだ、受け取って欲しい」
そう言ってエルラさんが渡してきた紙には竜騎兵育成学園編入書と書かれていた。
「これは?」
「ヨグ殿が今度から通う竜騎兵育成学園の書類だ。それと二週間後に編入試験があるはずだ。だからその間は王都を満喫するといい」
そう言ってエルラさんは部屋から出ていこうとするが俺が止める。
「待ってエルラさん!!」
「ん? なにか聞きたいことでもあったのか?」
「えーっと、身分証明書のようなものを作りたいのですが...なにか方法はありますか?できればお金稼ぎとレベル上げを両立できればなおよいのですが」
「そうだな...ヨグ殿なら探求者ギルドがおすすめできるぞ!」
「探求者ギルド?」
「ああ、探求者ギルドは未開の大地やダンジョン攻略を主軸とした集団なんだがモンスターを倒したりすればかなりお金が入ると聞いているし、レベル上げも兼ねるならかなり効率がいい」
「そうなんですね、じゃあちょっと見に行って見ます」
「そうか、では私は失礼するよ」
そう言ってエルラさんは部屋から出ていった。
その後再び部屋には静かな朝の清々しさが戻ってきた。
ぎゅるるるるる!
「はう!」
リリィーのお腹かが鳴ると同時に真っ赤に赤面しながらお腹を抑えていた。
どうやらお腹が減ったいるようだ。
しかしリリィーは何故か「ごめんなさい」と謝り出す。
「謝ることじゃないよリリィー、お腹はみんな減るもんだからね。それに俺もそろそろお腹減って来たしどこか食べに行こうよ!」
「は、はい...ヨグ様」
ーーーーーーーーーーーーーー
〜王都の内側-繁華街〜
俺とリリィーは着替えを済ませ繁華街へと来ていた。
もちろん繁華街へ来たのは腹ごしらえのこともあるがリリィーの服やその他諸々を買い揃えるためだ。
そして最初に入った店は服屋だった。
中に入るとそこは沢山の布が巻かれた状態で置かれておりいかにも服屋を想像させる店内だった。
「いらっしゃいませお客さん! ...それと可愛いお嬢さん。それで今日は何をお探しで?」
「実は彼女の服を買いに来たんだ。彼女はサラマンダー族だから普通の服じゃ尻尾が出せないし鱗で服がダメになってしまうんだ」
「そうですか...ではお時間いただけるならすぐにでも特注で作りますよ」
「じゃあ頼もうかな」
「では見た目はどうしますか?」
「そうだなー...リリィーはなにか希望とかある?」
「わ、私はヨグ様が選んでくれたものならなんでも構いません」
「じゃあ尻尾が出せて耐久性に優れたものでいいかな。あ、あと見た目は赤を基調として欲しいかな。リリィーの鱗は赤いからね」
「ではお昼過ぎくらいにまたお越しください。その時にお値段も決まりますのでそれではお任せ下さい」
俺は店主に一礼をして店を出た。
リリィーの服が出来上がるまでまだまだ時間があるのでこのうちに食事をしようと店を見て行くが、どこもかしこも奴隷入出禁止だの亜人獣人お断りだのと書かれた看板が多くの店に置いてある。
俺は諦めずにリリィーと一緒に食事を取れる店を探した。
そうすることはや十分...。
すると店を探している途中でリリィーが立ち止まる。
「ヨグ様...私のことはいいのでヨグ様だけでも食事をしてきて欲しいです...。私なんかのためにご主人様であるヨグ様にこれ以上迷惑になりたくありません...」
「迷惑? 迷惑じゃないよリリィー、それにリリィーはもっとわがままになってもいいくらいだと思うけどね。あと俺はリリィーと一緒にご飯が食べたい。なんて言ったってリリィーは俺の初めての家族(・・)だから」
「でも私がいるとどこのお店にも入れませんし、私が我慢すればいい...」
「嫌だね...」
「今なんて...?」
「リリィーが我慢すればいい話なんてないよ、俺は誰よりも君を大切にしたいと思ってる。それに俺は家族が差別されるのは一番嫌いなんだ...だから...だから...母さ...ん!」
俺は過去の記憶が蘇り猛烈な怒りを思い出す。
しかしハッとした瞬間、リリィーの顔が浮かび上がる。
「ヨグ...様...?」
「くッ...!!」
俺は負の感情を押し殺しながらリリィーの手を強く握り少し小走りで歩いていく。
すると繁華街の末端にある角っこの店には誰も人があらず先程の看板もない。
その店の名はボロボロになり見えなくなっているが外装から予測するにレストランのような感じだった。
しかし中へと入るとそこには物静かで漫画喫茶のような感覚にとらわれる。
そして席へと着くと店の奥から女性が一人出てくる。
「あらお客さん!? 何日ぶりかしらね〜」
「いきなり来て悪いがメニューはあるのか? それともお任せ方式かな? どちらにせよお腹がペコペコでな」
「そりゃあ大変だね、メニューはお子様ランチと日替わりランチのふたつがありますがどうなされます?」
「じゃあ両方一セットずつで頼む」
「あいよ...日替わり1お子様1よ」
その後食事がテーブルに運ばれてくる。
人がいないこともあってか頼んでから三分ほどで出てきた。
しかも手抜きではなくちゃんとバランスの考えられており手が込んでいた。
まず日替わりランチにはハンバーグとサラダが同じさらに盛り合わせてありその横にスープとパンが添えられている。
またお子様ランチには小さめのハンバーグが3つにオムライス、そしてコンスープのようなものが確認できた。
「じゃあリリィー、手を合わせて...」
「こ、こうですか?」
リリィーは手をぎこちなく見よう見まねで合わせている。
「いただきます!」
「い、いただきます...」
俺が食べ始めるとリリィーは恥ずかしそうに1口オムライスを口へと入れる。
すると美味しかったのかまた一口、また一口とちゃんと食べてくれているようで俺も嬉しいかった。
そしてこの何も会話がなく黙々と食べてるこの空気も何よりも楽しい時間でもある。
また美味しそうに頬張るリリィーの姿はとても可愛らしかった。
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