第49話 最終話

こうして普段の夏休みに入った。俺もアン子もバイトに勤しんでいる。


「チョコバナナフラペチーノ、お待たせしました~257番の方!」

「注文135番の方~!


「わたしよ」


「すみれかぁ。忙しい時に限って来るよな」


「いつ来ようが客の勝手でしょ。まあ頑張りなさい」


「ありがとうございました~」


アン子は後輩の2人に熱心に指導する役になっていた。


アン子へのいじめがないよう、俺はちょくちょく顔をだして首の骨を鳴らした。


そうして夏休みは、バイトもあったりして一気に過ぎていった。


「だるいわー」


俺は夏休みの宿題をたんまりやって、疲れまくっていた。自転車の時にぶつけた傷も、日焼けをはがすと同時に消えていった。


夏休みが終わって初登校の早朝、俺が玄関の扉をあけると、定位置にアン子が立っている。


「おす」


「行くのん」


そうやっていつもの日常がはじまっていた。


「パラオは楽しかったよなぁ」


「あれは、短い夢を見た感覚なの。後はバイトでいそがしかったのん」


「そうだな。俺もパラオの後、ぎっしりシフトを入れられていたからな」


「大変だったん…」


「もう学校いきたくないぜ俺は」


「留年だけは防いてほしいのん…」


「バイトなんだけど多分辞めると思う」


アン子がびっくりしている。


「その分、勉強したり遊んだりして、またバイトしたくなったら違うブザバで働けるからな」


「ウチは当分の間は続けていくのん。体力もそんなにかからないの」


「そっか。アン子は好きにしたらいいさ」


そんな事を言ってる内に校門前に辿り着いた。そこへ1台のベンツが乗り付けてくる。出てくるのは当然すみれだった。


「あら奇遇ね」


「あれからすみれは何してたんだ?」


「まあダラダラしてたわ。その代わりホットヨガとか通って体調は回復したわね」


すみれは俺の近くまで来てささやくように言った。


「まだあきらめてないからね」


「ったく…」


そう言ってすみれは校門へとかけていった。まいったなぁ。アン子はキョトンとしている。


クラスに入ると、日焼けしたやつ、髪をそめたやつ、色んな変化が起こっていて笑ってしまう。


皆それぞれの夏休みを楽しんだんだろう。まだ先生が来るまで時間があったので、隣のすみれがいるクラスに顔をだしてみた。


案の定、皆に囲まれながら、


「すみれさんはどこいったんですか?」


「どうしてうちの美容院にきてくれなかたんすかぁ?」


まだ高校1年だ。時が経てば俺以外の誰かが好きになっていくだろう。女は普通そんなもんだ。


でもアン子は違う。いちずで、まっすぐだ。芯の部分からして違うように思えた。親と一緒にいる時間より長くアン子と一緒にいるんだから。


でもすみれはまだわからない。少ししか付き合っていないからなんだろうけど…。



すみれのクラスから離れ、俺の教室に戻った。


「すみれ、元気なのん?」


俺は両手をあげ、


「ああ。相変わらずだったよ」


「そう。良かったの」


俺は慌てて書いた宿題を点検していた。特に日記は急いて書いたのでペラペラとページをめくりながら調べる。


漢字ドリルも、写生も持ってきている。


でもグァムとパラオにいった4日分のは日記に詳細に書いた。楽しかった宿題はここの日記だけだ。


何分か確認してると、ふと思った。


そうだ、冬休みもどこかに行けばいいんじゃないか?それも完全にすみれの資金力に頼る形にはなってしまうが、スキーかスノボでもいいな。


「アン子は冬休みも旅行したいか?」


恐る恐る訊ねてみると、


「もちろんなのん!」


気持ちの良い答えが返ってくる。


「アン子はスキーかスノボやったことあるのか?」


「ないのん…でもスノボはオリンピックで見て楽しそうだったん!」


「俺もスノボに興味深々だ。こりゃ決まりだな。」


楽しみは別に夏だけじゃない。冬だって楽しいこと満載だ!


ボード選びなんかワクワクしてくるぞ。


そう考えるとこの暑い日も何とかしのげるような気がしていた。


早くすみれに伝えたかった。ラブ度数がまだその時まで続いていたら、の話だが。


1限を終えた2人は、すみれにその事を伝えると、


「私はスキー派だからスキーするけど、スノボならスノボでいいわよ」


結構あっさり了承してくれた。また新たな楽しさが増えた!


そう考えると、


「アン子、やっぱり俺冬までバイトするわ。冬休みも遊べる用の金作りだ」


「いいと思うのん。続ける事で気づく事があったりするのんなー」


アン子が、なかなか深い言葉を言ってくる。


「そうだな。とにかくお金貯めて色々必要なもの買うわ!」


「そうなのん!ウチも貯金たまってきてるん!」


「俺も少し貯金はあるぜ!親にも渡してるのもあるけど、もっとためないとな!」


「ウチも母さんにお金渡してるのん!」


そう言いながら俺たちの教室へ戻っていった。


今日の授業は昼もなく終わった。


「キョースケ、ウチお弁当作って来たのん」


「いいぜ、腹減ってるし!」


すみれが駆け寄ってくる。


「キョースケ、お弁当食べるわよね?」


「も、もちろんだとも!」


俺はいつも通り、お弁当✖2個をたいらげた。


「いい食いっぷりなのん!」


「さすがね」


すみれも納得の食いっぷりだった。


「そうだ、今日の夜、盆踊りがあって、露店も沢山あるんだ。色々あって遅れたけど、やる事になったらしい。3人でいかないか?」


「いいわね。久々に浴衣でも着ましょうか」


「うちもいくのん!」


「アン子は浴衣もってるのか?」


「1着もってるの!」


「よし、じゃあ屋台で色々食べようじゃないか」


パラオと比べるとガクンと質は下がるが、夜店の屋台も悪くない。屋台の独特なワクワク感ってなんだろうな、あれは。


夜になって、浴衣を着た俺は徒歩で夜店の入り口付近にいた。それぞれスマホを使って待ち合わせし、夜店を色々見て歩いた。


「おーいこっちだ!」


「良かった会えたわ」


「良かったのん」


早速俺らは縁日を品定めしながら歩きはじめた。



「あっこれ食べたい」


チョコバナナを見たすみれは、即購入し、かぶりついていた。


「普段持ってない小銭を出すのはしんどいわ~。カードで支払いできないのかしら」


「夜店でカード払いはないだろさすがに…」


アン子はりんご飴を自分で買って食べていた。


俺はたこ焼きや焼きそば、お好み焼きが欲しかったが、まだ先の方にあるらしい。


まだ俺は食べれずにいたが、射的を見たアン子は、


「コレやってみたいのん!」


「アン子には無理だろ…」


「やってみなきゃわからないの!」


アン子は標的を狙って1発撃つと、即時計を落とした。すごい腕である。次々と標的を撃ちぬいてゆく。


「すごいなあアン子の腕前どこで学んだんだ!」


「練習あるのみなん」


どこで練習してるのか…鴨狩りでもしてるのか?


すみれは金魚すくいを見て、


「これやりたーい!」


と早速始めていた。俺は金魚すくいマスターだったので、しばらくすみれのすくいかたを眺めていた。


「そりゃっ、あ~」


あっという間に紙が破れてしまう。


「俺にまかせておけ」


俺はすぐに紙を水にひたしながら、横にスライドさせてカップに金魚をすくっていった。


「キョースケすご~い!」


「これだけは得意なんだ」


10匹ほど釣ったのだが、


「すみれの家、水槽あるのか?」


「昔、魚を飼っていたから水槽はあるの」


そう言って釣った金魚をうばわれた」


そんな中、やっとたこ焼きの屋台が姿を現した。


「たこ焼き食べたい人!」


2人とも手を上げたので3人分のたこ焼きを注文する。


運良く焼きたてのをもらい、俺がお金を渡す。


「うーん中はトロトロね」


すみれがたこ焼きなんて下賤げせんな物を口にするなんて思わなかったが、スキならスキで良かった。


最後に、花火が撃ちあがった。綺麗なので足を止める。


俺はすみれとアン子の両方に腕組みをし、


「3人で楽しくて、俺は幸せなんだ」


すみれとアン子は笑顔になり、花火をしばらく見つめていた。


これからどうなるかは分からない。でも一瞬でも楽しい時間が良いのは決まってる。


それに、なかなかすみれも折れない。俺に夢中になっているのはハッキリわかる。


それでもいいさ。冬休みだって楽しみが待ってるんだから。


これから、どれくらい楽しい時間が待っているだろうか。


考えただけで笑顔が止まらない。3人ともに笑顔だった。


花火がキレイで見入ってしまう。楽しい時間はこれからだ。


そう考えると、タコ焼きを食べ始める。すみれが口を開き、


「あーんさせて」


「アン子だってしてほしいのん!」


俺は笑いながら鯉に餌をやるように、二人の口にタコ焼きを放り込んだ。


「ちょっとさめてるけど、おいしいわね」


「美味なん!」

「そのかわりアン子のりんご飴もかじらせてもらうぞ」


ひと口かじるとアン子の顔が豹変した。


「ウチのリンゴ飴が…」


たこ焼きと等価交換だ。何の落ち度はない。


「なくなったらもう1個買ってやるさ」


それからはずっとキレイな花火に見入っていた。


生で花火を観たのはいつぐらいだろう。たしかガキの頃だったかな。


3人はただ、花火をいつまでも眺めていた。


THE END

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超金持ちのお嬢様と超貧乏な超幼馴染に挟まれるメトロノームにも似たシーソーゲームL オーバエージ @ed777

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