第48話
パラオ最終日──────────
あっという間にパラオ旅行も最終日になってしまった。
航空便は夜なので、午前は泳いで、夕方から花火をする予定だ。
俺は相変わらず綺麗な海で泳いでいる。砂浜の場所を丸々借りたんじゃないかと思えるほど人がいなかった。すみれの少し後ろにいるのは護衛だろう。
アン子がシュノーケリングをしている。
「お魚さん大量なの!」
トロピカルな色の魚だから、釣りしても食べられないだろう。魚も人に慣れてる感じだった。
すみれは日よけ用のクリームをぬりながら、パラソルの影ですずんでいた。
「すみれ、花火セットとか持ってきてるのか?」
護衛がきてそれぞれ一つづつ花火セットを持っている。なるほど。
今日は目いっぱい泳ごうと決めていたので、進入ラインぎりぎりまで何往復も泳いだ。
アン子もシュノーケリングばかりしている。物珍しいんだろう。水着もアン子にぴったりのかわいい物だ。
すみれの水着は、前回よりも攻めている水着だった。大きくは語らないが…。
めいっぱい泳いだので、一時だけパラソルで疲れをいやした。
「すみれは泳がないのか?」
「私はダイビングだけで充分よ」
今日のすみれは少し元気がない感じを覚えたが、まあ大したことはないだろうとタカをくくって、俺はまた泳ぎにいく。
「お魚さん捕まえたの!」
アン子が魚を1匹つかまえていた。
「だめだ、お魚さん傷ついちゃうだろ」
「そうなん…」
アン子はすぐに魚から手を離した。
充分泳ぎ切った頃、日が落ちてゆく頃合いをみて、
「じゃあ花火しちゃおっか!」
とりあえずバケツに海水をいれた。
「緑色だぜこの花火!」
「残像がキレイねー」
このロケットみたいなのなんだろう。試しに点火してみると、天からパラシュートが落ちて来た。俺とアン子はパラシュートの取り合いになったが身長差で俺がゲットした。
アン子はしょぼくれて、ひとり線香花火をしていた。うまく言えないが、アン子は線香花火が良く似合う。
ドラゴンもすごい威力だったし、ネズミ花火も素早くて逃げまくっていた。
3人みんな笑っていた。こんな時が永遠に続かないかな。無理なことだけど、でもそのくらい楽しかったってことさ。
花火をあらかた終えて、護衛がバケツを持ってかけていく。
「夜の便だから手早く準備して。下着や水着ももう着ないから捨てちゃってもいいわ。とりあえず航空チケットとパスポート!これだけは大事」
「ああ、元々荷物少ないからな」
「準備オッケーなん!」
「じゃあ車で空港にいきましょうか」
護衛が回してきた車に飛び乗ると、一気に空港前まで走らせてゆく。
「もう終わりか―早かったなぁ」
「グァム以上にたのしかったん!」
「…」
すみれは何も言わなかった。やっぱりちょっと変だな。
夜の便に乗った3人はそれぞれ席についた。
「あーまた6、7時間かけて帰るのかよー。もうちょっと早くしてほしいな」
「わがまま言わないの!」
珍しくアン子にさとられる。
「機内食も楽しみなん!」
「すみれ、疲れているのか?」
「別にそうじゃないけど…」
機内食が来ても、すみれは無言で黙々と食べていた。やはりなにかおかしい。
飛行機に乗っている間じゅう、すみれは色々と考えているポーズでだまっていた。
なにか俺に落ち度があっただろうか、それともアン子?いや特に見当たらない。
そんな俺も、チキンを選んで黙々と食べるのだった。
アン子は安定の食べてから寝るのルーティーンに入っていた。
すみれはやはり黙っている。心配した俺は、
「やっぱりどこか変だぞ。どうしたんだすみれ」
「…せいよ」
「何?」
「あんたのせいよ!」
え、俺?確かにずっと泳いでいたから、すみれとあまり会話できなかったのは認めるが、何かそれ以上の過ちをしてしまっている感満載だった。
「俺に落ち度があったのなら謝るけど、でも一体なぜ?」
すみれは無視してブンむくれて窓を見ている。
いよいよ混乱してきた。ますます謎はふかまるばかりだ。
アン子はぐっすり眠っている。
「アン子は相変わらずだな、すみれ」
「…そんなにアン子が気になる訳?」
「え?いやまあ、寝てるかなってだけだが」
「もうほっといて!」
明らかにいらついている。せっかく楽しかったパラオ旅行である。最後に何か傷を残して解散するのは問題だった。
考えれば考えるほど、答えがみつからなかった。正直ちょっと眠かったが、目が冴えてくる。
「すみれ、もっと具体的に言ってくれよ。俺わかんないんだ、すみれがそんなイラついているこの状況じゃ」
「その鈍感さが気に食わないのよ!」
すみれはそれ以上何も言わなかった。ますます混迷するばかりだ。これは寝てる場合じゃないぞ。どう考えても俺の問題だし、正解をひねり出さねば。
すると、自転車でケガをした肩の部分が日焼けしてズキズキと痛み出した。これはばれてはいけない事項である。
ともかく、もうこれ以上すみれに、とやかく言うのは無理と判断した俺は、仕方なくスマホを眺めていた。
すみれが撮ったジンベエザメの写メを眺めている。ダイビングの時だって楽しくやってたじゃないか。
もうすぐ着陸という時に、アン子が起きてきた。体内時計が鋭い。
「もう着くん…?」
「ああ、もうすぐだ…」
「良く眠れたのん!」
「良かったな!」
着陸した3人はタラップを抜けて、手荷物検査、パスポートと航空チケットなどを渡して、無事日本へ帰ってきた。
俺は伸びをしながら、
「良かったなぁ~今回の旅」
「また3人で行きたいのん!」
すみれは呟くように言った。
「3人…で?」
アン子は不思議そうな顔をしてる。
「…ちょっとファミレスにいきましょう」
すみれが何か言いたげなのは確かだった。黙ってうなずく。
護衛の運転で、空港そばのファミレスで、ドリンクバーだけ頼み、3人席に腰かけた。
すみれは黙っていたが、皆がジュースを持ってきたタイミングで、神妙に言った。
「あのねキョースケ、もう我慢できないから言うけど、私のアン子のどちらをカノジョにするか今、この場所で決めて欲しいの!」
「はあ⁉」
ここファミレスだぞ?そういう大事な事言う場所じゃなだろう。でも緊急的措置だというのだけは伝わった。
「アン子はどうなんだ?いいのかそんな大事な事、ここできめちゃって」
アン子はしばらく考えていたが、うなずきながら言った。
「アン子も、知りたいん。はっきりさせるのん」
両人とも、本当にマジな顔をしている。
アン子は幼稚園から高校まで一緒だった。それとも金持ちの、いや中身のすみれを取るか。
いつかこうなる日が襲ってくるのは、おおかた予想はしていた。が、まさかファミレスでなんて…
しかし2人とも大真面目である。辺り一面、一気に緊張感が張り巡らせる。
そうか…2人ともそうしたいなら、仕方が無い。5分くらい長考していたと思う。
「分かった。じゃあほっぺにキスするから、2人とも目をつむっていてくれ」
2人は目を閉じた。肩と頭がズキズキする中、手汗を噴き出し、ゆっくりキスをした。
「キスされたわ!」
「キスされたのん!」
「え?」
「あは…2人は幼馴染だし、恋人だ。それでいいじゃないか!今回だって3人だから楽しめたんだろう?」
「ちょっと!話が違うわよ~!」
「何なんー!」
2人はキョースケに詰め寄る。まあ予想していた反応だったが、それでも納得できない2人はガヤガヤ叫んでいる。
今の俺には選択なんてとてもできない。でも今が楽しければいいじゃないか。そうして俺はドリンクを一気に飲み込んだ。
「絶対認めないからね!絶対よ‼」
「キョースケずるいのん!」
俺は言った。
「楽しい事優先でいいじゃないか!まだ高校入ったばかりだぜ?それでいいじゃないか!」
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