第47話
パラオ3日目──────────
快眠した俺は、朝すぐに目を覚ました。今日も予定が詰まっている。
すみれもすでに起きて来た。アン子はおなじみの寝坊である。
今日は俺とすみれはダイビングに行く。そこでアンコにはパスポートなどの貴重品を預けて、おみやげや、その他買い物を頼むことにした。アン子ひとりでははっきり言って危ないなとは思いつつも、アン子はバイトもしてる身だし、安心かなと思ったのである。
「じゃあ、いってらっしゃいなの~」
波止場で一旦別れた。船は貸し切りのボートだ。やや小さかったが、ダイビングがメインなので問題は無し。
「ここらへんでいいでしょう」
すみれが言うと操縦士はボートを止めた。
「私からいくわよ」
すみれはボートの端に座り、後ろから水に入っていった。俺ももちろんそのあとに続く。
酸素ボンベは結構重い。でもこの素晴らしい自然よ。細長いシマシマもようの魚が泳いでいく。
あ、いたウミガメ!こっちに手を振っているように見えるのは錯覚だろうか。他にもトロピカルな色の魚がいたりして、実に多種多様だ。
すみれの後を追いかける形で泳いでいた。ピンク色のサンゴもある。
と、その時である。巨大な魚がこっちに向かってくるではないか。
天然のジンベエザメである。なんてラッキーなのだ。ジンベエザメは口を開けてプランクトンなどを食べており、温厚な魚である。
写真がとれなくてとても残念だ。すみれは防水のスマホで写メをとりまくっている。うらやましい限りだ。1時間弱のダイビングだったが、実に内容の濃い時間だった。
「ジンベエザメ見た?おおきいわよねえ」
「すみれのスマホは防水用なのか」
「そうよ、ちょっとお値段あがるけどね」
何でも持ってるんだな、すみれは。
「さあ、普段着にきがえましょっか」
「アン子はうまく買えてるんかなぁ」
写真、俺も撮りたかったなぁ。
着替えた後は、すぐに波止場まで一直線で進んでいった。
アン子はお土産屋で苦戦していた。食べ物系よりも木造の人形屋や、特殊なネックレスなどが圧倒的に多いからだ。
趣味に合うかどうか全く2分する趣味だ。
そこへ俺とすみれがやって来たのでアン子は半泣きで応えた。
「お土産が独特すぎて、何買っていいかわからないのん…!」
「お、おう…そうか。確かに人形欲しいかって言うと…微妙だな」
「小さい人形や腕につけるやつとか買えばいいかもね。あとなんとしても食べ物を探す事!」
3人で見て回ったが、いいTシャツを見つけたので買ってみた。店員が腕を見せて「コレミテ、ニホンゴ」と言い見せてくれたが「過労死」と彫ってあった。言葉がすごくクールらしかった。が、「すごいですね」と俺は言うしかなかった。
結局あまりお土産買いはうまく続かなかった。人形数個、木で彫刻されたペン、Tシャツ、そのくらいだった。食べ物はどれもクセのあるものばかりでパスした。
「もういいだろう。早く夕食に行こうぜ」
「その前に3人で行きたい場所があるのよ」
「もう日が暮れちまうぜ?」
「どうしても行きたい場所なの!2人ともついてきて」
俺とアン子はしょうがないなぁという体で、すみれに着いていった。
しばらく良い風に吹かれながら向かった先は、大きな灯台だった。
「前にここへ来た時、灯台のてっぺんから見える風景が忘れられなかったのよ」
「なるほどなぁ。まあパラオは全体的にきれいな場所だから、確かにわかるけどもだなぁ」
「でもこれ登っていくのん?」
「ええ、登るのよ」
「え?エレベーターか何かないの?」
「あるわけないでしょ。コテージをみても分かるでしょう」
「さすがに無茶ぶりだろう…かなり大きいぞ、これ」
「絶景だから、それを報酬として頑張りなさい。疲れればご飯もおいしいわよ」
仕方なく3人で灯台に登ることにした。早くもアン子が根を上げる。
「もうきついの…先に行って欲しいのん」
「ついてこいよ?この後ステーキが待ってると思って!」
すみれは汗もかかず、たんたんと階段をあがっている。
俺でさえきつらい階段だ。すみれは超人か何かか?
「風景を知ってるから、登れるのよ」
見透かされたように、すみれに言われてしまう。
何十分経っただろうか。アン子の姿はすでに見えなくなっている。
「もうすぐよ」
すみれは再び淡々と歩いてゆく。
その価値が本当にあるかどうか、見させてもらおうじゃないか。
「アン子きこえるか~⁉」
遠くの方から「あ~い…」という声が聞こえて来る。どうやら着いてはきてるようだ。
「ここよ!」
到着した瞬間、森や海に囲まれた美しい風景が広がっている。
ところどころ明かりもついていて、実に美しい風景だ。絶景といったところか。
アン子が到着するまで、2人はただ黙って景色を眺めていた。
「あ~い…」
アン子が到着した。
「キレイなのん…だけど疲れたの…」
「これ、帰りも階段だよな。こけるなよみんな」
急に現実的な話になってくる。
「もっと景色を楽しみなさい!」
そう言ってすみれはスマホで写メをとりまくっている。一応俺も何枚か取っておいた。
「降りるわよ」
「ふぁ~~~…」
アンコはもうリタイヤしそうな声で嘆いてる。
「アン子はゆっくりでいから、気をつけて降りて来るんだぞ」
「ふぁ~い…」
すみれは再び、きびすを返して淡々と階段を下りていった。
その体力はどこから来るんだ。
何とか下まで降りた頃にはアン子が動けなくなり、仕方が無いのでおんぶしてレストランへ向かう。
「日々、鍛錬がたりないようね」
すみれは涼しい顔で言った。
「今日はお店に行くわよ。メインはステーキだけど、それだけじゃないわ」
すみれは胸を張って言った。
「ぬかしおる!期待しよう」
そしてあっという間に日が暮れ、真っ暗になった。
その片隅にある大き目のレストラン、今日の夕食だ。
「いらっしゃい!さあ奥へ」
店内は人であふれている。いい場所を予約してくれたんだろう。
「まずこれ飲んでひとり1個だよ」
ココナッツだ!初めて飲む。大き目のストローが差してある。
「うーん美味い。天然でこんなにおいしいのかよ」
アン子も必死にストローに口を近づけている。
「ステーキまでのおいしい時間よ」
すみれは丁寧に喉をうるおしている。
「あんたたち、また日焼けしてるんじゃないの?全く…」
そういえば全身赤い。アン子も結構赤かった。
そうこう言うウチにステーキが運ばれてきた。
「おかわりOK!レアね」
気さくそうなシェフ自ら持ってきてくれた。
これも間違いないだろう。
それにしてもレアはうまいな。低品質の肉はとにかく焼かないといけないが、上質な物ならレアができると、すみれが確か言っていたな。
ダンサーはずっと食事中ずっとベリーダンスをしている。お仕事ご苦労様。チップを出せばいいのか悩んだが、あえてここはすみれに託した。
結局3日目も怒涛の速さで過ぎていく。もうしばらくはカルキ臭のする普通のプールには入れないだろうな。
すみれは宝石パックからリングを差し出した。
「これお揃いで買ったから、つけてよね」
俺は困り顔で言った。
「ごめん、俺リングとかピアスとかダメなタイプなんだ。バイトでも禁止されてるしな」
「そう…じゃあアン子にあげるわ!」
「抜け駆けしようとした罰なん!もらうけど」
笑いながら今日も無事何とか終えることができた。
もう明日の夜便で帰るのか…1週間いても飽きないだろうけど、せっかくのすみれのプランだから大切にしたい。
コテージに入ると、すぐ眠りにつく…はずだったが、またアン子から写メが送られてくる。指輪をしてるアン子だ。
まんざらでもないのだろうか。すみれからも写メがとどいた。ダイビング中の写メだった。普通にうらやましかった。
写メを見てるうちに眠気が一気に来たので、明日に備えて眠る事にする。
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