第45話

とうとうパラオに向かう日が来てしまった。やはりというか当然かもしれないが、早起きしてアラームを止めた。アロハシャツをもう着つつ、バッグを持って外に出ると、定位置にアン子がスタンバっていた。


「ようアン子」


「あれ?頭赤いの。日焼けなのん?」


「まあそんな感じだ。行こう早く」


「すみれが車で迎えに来てくれるらしいのん」


「そうか、じゃあ待ってりゃいいんだな」


アン子の荷物もかなり小さい。水着とチケットとパスポートしか入ってないんじゃないかと思うほどだ。


「骨折した部分はもう平気なのか?」


「完全に治ってるのん!」


そう言ってアン子は腕を回した。


そうこうしてるうちに、ロールスロイスが家の前に止まった。


「乗ってちょうだい」


すみれは大きいサングラス姿だった。運転はもちろん守衛だ。


「キョースケ、頭赤いわね」


「日焼けだ日焼け」


「というよりはケガしてるみたいに見えるけど…」


「なんてことないさ!さあ行こう」


ロールスロイスは小さい路地には不向きなんだろうが、守衛は慣れた手つきで運転していく。


「今日、到着するのは夕方だから、ディナークルーズするわよ」


「船でか!」


「すごいのん!」


「当たり前だけど最高よ」


「すみれのグラサンやけにでかいな」


「これはアメリカのセレブがかけてる、小顔に見せる為のグラサンなの、わかる?」


「さすがすみれ、流行をおさえてるな」


「こんなの数年前からあるわよ。さあどんどんいきましょ」


1時間ほどすると、国際空港に到着した。


「護衛は2人、今日中につきます」


運転手はすみれに耳打ちし、車で帰っていった。


空港内って、帰りはグダるけど、行くときは雰囲気が独特の空気だな!


「機内食もあるから、食べたり寝たりしてちょうだい」


「ウチ、眠気でフラフラしてるん…」


どうやらアン子は家では寝られなかったっぽい。


天井から吊り下げられている案内板を見て、


「あれよ、231便パラオ行き!」


「急ごうぜ」


半分駆け足で向かうなか、アン子はふらついていた。


「あれ…」


「どした」


「無いの」


「何が?」


「パスポートがないん!」


「ええええぇ‼」


「どうすんのよ無いと乗れないじゃない!」


アン子はしきりにバッグをガサゴソしている。


「あ、あったのん」


バッグの奥にチケットとパスポートが入っていた。


「頼むからそういうのやめてくれよな…」


「心臓止まるかと思ったわ」


「ごめんなのん…」


「まあいい、早く手荷物検査に行くぞ」


さしたる問題もなく、手荷物検査を終え3人は駆け足でタラップを駆け上がった。


自分たちの席を見つけ、やっと一息つく。


「クーラー効いてていいわね」


飛行機が宙に浮く瞬間がたまらなく好きだ。アン子もどうやら好きみたいだ。


頭がよくないので、どうして飛行機が浮くのかはわからないが、実際乗ると声に出てしまう。


すみれは、別に?といった風だ。そんな感じでサングラスを外した。


「グァムよりは距離長いから、起きててもいいけど寝た方が楽よ」


「機内食食べるまでは寝ない!」


「子供か!」


呆れたすみれはパラオの本を眺めていた。


アン子はもう寝ちゃいそうな感じである。機内食がもったいないぞ。


しばらく外を眺めていたが、お待ちかねのディナータイムだ。


「ビーフ・オア・チキン?」


聞かれたので、


「ビ、ビーフ、プリーズ」


食べてみるとちゃんと牛の肉で安心したが、食べ盛りの俺にはやはり腹には溜まらない量だった。


よく見るとアン子もちゃっかり起きて食べていた。


「食欲はディナークルーズに取っときなさい」


そう言いつつ、すみれも完食していた。


あとは時間の問題である。食べると眠くなるのが人間だ。そんなわけで、どうしても眠くなったので眠りに入ってしまった。


アン子も同じく食べたせいか眠りに落ちてしまう。


すみれは前日たっぷり寝たので全く眠たくなかった。


そうして5、6時間は経っただろうか。


到着するので、シートベルトを着用してくださいというアナウンスで、飛行機の搭乗の終わりが手短に響き渡った。


ふう~!やっと来たかパラオへ!


タラップを降りて入り口に行くと、ハワイのダンサーみたいな人が僕たちを迎え入れてくれた。ベリーダンスってやつか?花束を首からかけられ、ほっぺにキスまでしてくれた。女性からキスもらったのって多分初めてじゃないかな。すみれはちょっとムスっとしている。


そこから一気にディナークルーズの始まりである。船に乗ると案内人が席まで誘導してくれた。


「これって俺たちの貸し切りかよ!」


「そうよ、いいでしょう?」


席に座ると、たっぷりのフルーツ盛り合わせが運ばれてくる。


「すげぇ!」


「これ前菜だから、無理しないでね」


俺は大好きなパイナップルを食べて、そのおいしさに思わず声がでてしまう。


「しあわせ~」


「スイカもあるのん!おいしいの」


「こんなんで驚かれちゃ困るわ。店主、あれを」


「かしこまりました」


すみれがシェフと話している間にも、ブドウやサクランボを食べ続けた。


と、シェフがすごい装置を持ってきた。


子豚を丸々1匹、自動回転させてやってきたじゃないか!


「文字通り、豚の丸焼きだな」


「なんか可哀そうなん…」


「あんたらが食べてる豚肉は職人が切ってる事、忘れないでちょうだい!」


すごさというよりは、ちょっと皆が引いてしまったのは、すみれの誤算だった。


「とにかく切って渡してよね!」


「はいお嬢様」


日本語で応えると、豚をそぎ落としていった。もうよだれが止まらない。


おそるおそる食ってみる。美味い!焼きたてだと、こうも違うもんか。


「焼きたておいしいのん!」


「でしょう。やっぱりお腹は正直なのよね~」


ブドウジュースが運ばれてくる。一瞬ワインかと思った。飲んでみると実にフレッシュだ。シーザーサラダも3人であっという間に平らげてしまう。


暗くて遠くまでは見えないけど、風景も実に美しい。


明日から念願の海を堪能する時だ。明後日はダイビングもする。


「じゃあ私達のホテルに戻りましょうか」


「え、豚の丸焼きがまだ…」


「あんた全部これ食べる気⁉いくわよ」



浅瀬に立つ何棟かのコテージのようなものがそこにはあった。


「え、これ?」


そうよ。3つあるでしょ。


海の上に立ってるし!


「耐久性が問題な物件だぞ」


「パラオじゃ常識なの!文句言わずに寝ましょう」


すみれははしごを使ってコテージにはいって行く。


すみれが言うんだから仕方ない。


「アン子は大丈夫か~?」


「何とか、なの…」


俺はホッとして、はしごを使い、やや狭い空間で眠りについた。

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