第37話

俺とアン子は学校が終わると、すぐにバイトへ向かう生活を続けていた。特にアン子は後輩が現れたので、教育をしているらしかった。アン子が教育係りか。想像すると笑みが沸いてくる。


俺は俺で、商品を覚える事に全集中している最中だ。たまにめずらしいメニューが来ると、戸惑いながらも辞める予定の女性に教わって覚えていった。それを眺める女性店長は静かにうなづく日々だった。


すみれから何度もデートの約束を受けたが、バイトで疲労困憊の俺は断らざるを得なかった。いくら俺でも体力と精神の限界ってものがある。


とあるバイト中。チョコバナナフラペチーノを作って渡すと、相手はすみれだった。


「あんた、バイト漬けでしょ。いい加減シフト減らしたら?」


「こんな所にきちゃうかぁ…」


「何?来ちゃダメなの?」


「違うけど、客のメニューが溜まってるんだ。あとにしてくれないか」


「しょうがないわね。もらっていくわ」


そういってチョコバナナフラペチーノをひと口飲む。


「うまっ…」


バイト終わりに、根性良くすみれが車で待っていたようで、


「これからアン子の所に行ってみましょうよ」


と提案してきた。


「おれはチャリで…」


「そんなの車のバックにでも乗せなさい。いくわよ」


車なのでアン子の働いているネカフェには遠くはなかった。


早速入店すると、知らない女性がカウンターにいた。


「亜暗はいるかな?」


「あ、お待ち下さい」


アン子は2階にいた。


「キョースケ、すみれ、どうしたん?」


「まだ仕事か?」


「もうちょっとで終わりなん」


すみれは、


「終わったら久々に3人でファミレスでも行きません?見せたいものもあるし」


「別に構わないの」


「じゃあ待ってるわ」


見せたいものって何だろう。


それまでネカフェにお金を払って待つことにする。


「お、このネカフェ、シャワーもあるのか。ちょっと行ってくるわ」


「はいはい。」


なんていいネカフェなんだ。タオルも使い放題ときた。


シャワーを浴びた俺はさっぱりして戻ると、アン子が制服から私服に着替えていた。


「キョースケ遅~い」


「よしファミレス行くか」


3人はそう言って、すっかり夜になったネカフェを後にし、すみれの車に入った。


「近くにいるファミレスまでお願い」


すみれが護衛に伝える。


ファミレスに着くと、全員ドリンクバーを頼んだ。


「見せたいのはこれよ!」


「なんだこれ…」


本には【パラオ旅行ガイド】と書かれていた。


「お!パラオの魅力がわかる本か!」


早速見てみる。


「海の透明感が、ぱないの!」


「これは軽くグァム超えしてるだろこれ…」


「イルカもいるのん」


「奇跡が起きればジンベエザメも見れるわよ!あと、1日か2日で取れるダイバーにチャレンジしてみない?ウミガメが泳いでたりして最高よ!」


「いいなーここまで透明感あるとダイビング最高だろうな、でも酸素ボンベが重いから、アン子はまだ無理ね」


「そこで、これよ」


封筒を2つ、出してくる。


中を見ると、大金が入っているじゃないか!


「ひと袋100万づつ入ってるわ。あげるから今のバイト辞めなさい」


そう来たか…。


大いに悩んだが、これはなにかやはり違う。


「仕事が終わった爽快感、すみれ味わった事ないだろ?」


「ウチももらえないのん…」


「100万よ?100万!あなたたちは充分働いたじゃない!」


「残念だがこれは受け取れない。でもパラオの本は貸してくれよな」


「ウチも同じ答えなのん…今後輩ができてかわいいの」


ふに落ちない感じで、すみれは100万✖2を受け取る。


「すみれもバイトしてみるといい。そして充実感を味わうんだ。それさえすれば俺たちが何を言いたいのか分かる」


「わ…私は別にそんな事しなくても…」


「すみれ、そこだけはすれ違いだな」


すみれは立ち上がり、コーヒーを入れた。


しばらく3人は、ファミレスで歓談していた。当然、すみれの護衛は車内で待っているのだった。

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