51 これが……俺……?

「早乙女さん! 綺麗ですわ〜!」

「そうかな……?」

 綾小路が俺のウェディングドレス姿を見て、歓声を上げた──俺からすると、TPOに合わせ、上品でシンプルなドレスを身につけている綾小路のほうがよっぽど綺麗だ。

 結婚式──ではなく、チャリティーイベント当日。

 ウェディングドレスの被写体に選ばれてしまった俺は、朝早くに、教会から改装されたというチャペルへ訪れていた。

 ニコニコした綾小路に迎えられ、俺はビジネススーツを着用した、デキる大人風の女性たちの手によって、用意されていたウェディングドレスに着替えさせられた。

 着替えが終わった俺を歓声とともに出迎えてくれた綾小路は、そのまま、また違う部屋へと俺を連れて行く──そこには、化粧担当らしい女の人たちが待ち構えていた。

「よろしくお願いしまーす!」

「よ、よろしくお願いします……」

 笑顔のハキハキした挨拶からプロ感が漂っている。

 俺は言われるがまま、大きな白いドレッサーの前に座り、顔に色のついた粉だの肌色の液体だのを塗りたくられていった。

「い、伊集院は?」

「伊集院くんは別室で着替えていますわ。早乙女さんのヘアメイクが終わったら、顔合わせをする予定ですの」

 伊集院も同時刻の待ち合わせを要求されていた──彼もまた俺のように、ヘアメイクを施されている真っ最中なのだろうか。あの整った顔立ちに、これ以上、手を加える余地があるとは思えないが。

「──終了です。お疲れ様でした」

「あ、ありがとうございました……!」

 おもむろにヘアメイクさんが終了を告げた。テキパキと広げた化粧道具を片付けていく──鏡に映った俺は、美少女からハイパーウルトラ美少女へと変貌を遂げていた。


「これが……俺、なのか……?」


 この世界に転生して、初めて鏡を見たときと同じ感想が口から漏れていた──ピンク色で統一された目元、頬、口紅。髪もアップヘアになっているが、語彙力のない俺では、この髪型の名前がわからない。三つ編みがたくさんあるから、とにかく手が混んでいることだけは理解できた。

「う、美しいですわ……! 早乙女さん……!」

 隣で綾小路が感涙している。

「いや、泣くほどじゃあ……」

「……早乙女?」

 綾小路を宥めていたら、また別の声に呼ばれた。

 声の主のほうに振り向くと、扉が開いている。さっきまで仕事をしてくれていたヘアメイクさんと入れ替わりに、伊集院が入ってきた。

「あ、伊集院……、似合ってんな……」

 伊集院と白いタキシードはバカみたいに似合っていた──アクアブルーのサラサラヘアは、前髪をあげていていつもよりキリリとした印象になっているし、細身の体のラインがよく映えるタキシードは、伊集院のために作られたと言われても信じてしまいそうだ。

「早乙女……、綺麗……」

 ほろり、と。

 伊集院の目から一筋の涙が溢れた。

「えっ!? えっ!?」

「綺麗ですわ、早乙女さん〜!」

 綾小路は相変わらず泣いているし、伊集院は静かに泣いている──どういう状況なんだ、これは。

 俺のウェディングドレスには、そんな破壊力が秘められていたのか!?

「泣くなよ、お前ら〜」

 とりあえず、引退試合を終えた野球部よろしく、俺は二人の肩を抱き寄せた──二人は、俺の胸で泣いている。

 ……なんだこりゃ。

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