49 世論
そして一週間後──投票期間が訪れた昼休み、俺は掲示板の前に立っていた。
参加希望者は、存外集まらなかった──女子五人、男子五人。計十人。
女子ならウェディングドレスは夢だと思ったのだが──どうやら投票形式にチキった女子生徒が多かったらしい。自分の写真が貼られて、投票されるミスコン形式は、なかなかの強メンタルじゃないと、やってられないのだろう。
男子はそもそも、ブライダルに興味のあるやつが少ない──タキシード着て撮影するとしても、彼女と一緒くらいの条件じゃないと参加しないだろう。投票形式って、もはやランダムってことだもんな。
そんな中で堂々と参加表明をしたのは女子のうち、二人は俺と綾小路だ。他の三人は知らない顔も学年も知らない女子生徒だった──掲示板に貼られた三人の写真を見た感想を一言で言うなら、美人だ。俺から見た女子という生き物は、全員『可愛い』か『美人』に分類されるとだけ言っておこう。男は別だ。
男子の五人中三人が、伊集院と鬼塚と亜矢瀬。あとは知らない男子二人。これまたイケメンが勢揃いだ。どのイケメンを選ぶかは、女子の好みにかかっていると言っても過言ではない。
伊集院はともかく、鬼塚が応募しているのは意外ではあるけれど。
「まるでミスコンとミスターコンだね〜」
「亜矢瀬」
亜矢瀬が後ろから、俺の肩に顎を乗せてきた。
「美男美女ばっかり。僕、なんでここにいるんだろう?」
「え? 自分から応募したんじゃないのか?」
「亜矢瀬さんは、わたくしが参加させました」
どこからか、綾小路がやってきた──亜矢瀬も俺と同じく、無理矢理参加させられた類か……、同士よ……。
「やはり、こういうイベントは男性陣が少なくなりがちですから……。お陰様で男女比が半々になりましたわ」
「人数合わせなんだよ、僕〜。酷いと思わな〜い? 乙女ちゃ〜ん、こうなったらご主人様とペットでウェディングしよ?」
ぜってぇ、やだ。
「ていうか、こんな美少女たちのいる中で、俺が当選するわけないだろ!」
「えぇ〜? 乙女ちゃん、世論を知らなすぎじゃない?」
政治みたいに言うな。当選とか言い出したのは俺だけど。
ほら、と亜矢瀬は近くを通った女子二人組の会話に耳を貸すよう、目線だけで指示してきた。
「チャリティーイベント、誰に投票する?」
「え〜? 女子は早乙女さんかな〜? あの、クラスの男子ペットにしてる人でしょ? 女王様みたいな強さに憧れちゃう」
「わたしも早乙女さん〜! 小さくて可愛いのに、強いよね〜!」
彼女たちは、すぐ近くで突っ立っている俺がその早乙女乙女だとは気付かずに、廊下を通り過ぎて行った。
「乙女ちゃんってば、有名人〜」
「お前のせいじゃねぇか!!」
亜矢瀬の胸ぐらを掴み上げるが、亜矢瀬はどこ吹く風だ。悪びれる気配のかけらすら感じられない。お前に罪悪感ってものはないのか。
「まぁまぁ、お二人とも。投票期間は二週間ありますから、今の噂がどうあれ、二週間後には結果が出ますよ」
「そりゃあ、そうだけど……」
綾小路に諭されて、俺は亜矢瀬から手を離した。
結果は二週間後だからと言って、このスタートは悪い予感しかしないんだが……。
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