48 壁ドン、再び
翌日から、俺と亜矢瀬は、綾小路の手伝いに駆り出されていた。
まんまと生徒会長という後ろ盾を手に入れた綾小路は、どういう裏技を使ったのか、先生たちまで手篭めにしていた──チャリティーイベントの公募が学校に認められたのだ。
俺と亜矢瀬が呆気に取られているうちに、綾小路はポスターを用意していた。昼休みは三人手分けして、至るところにある掲示板にポスターの貼り付け作業というわけだ。
「ん、んぐぅ……!」
このポスターがなかなかの巨大サイズのため、高い位置に貼らなければいけないのが難関だった。俺の身長は決して高くない。むしろ、低い。綾小路や亜矢瀬ならなんなく届くであろう高さすら、背伸びをしなければ届かない。
だというのに、さらに高みを目指さなければならないのだから、一枚一枚、必死に貼り付けている有様だ。
ポスターの角を固定するための画鋲を持った手が、プルプルと震える。
その手を、さらに大きな手が包み込んだ。
「なにやってんだ」
聞き覚えのある低い声。
見上げると、俺の後ろに立った鬼塚が、見下ろしていた。彼の耳にかかっていた赤髪が、サラリと落ちて、シャンプーの匂いがした。
「貸してみろ」
画鋲とポスターを俺から取り上げ、なんなく掲示板にぶっ刺していく──今までで一番高い位置にポスターが貼れた。
「……ブライダルフォト? チャリティーイベント?」
ポスターと俺をジト目で見比べる鬼塚。俺は頷いた。
「綾小路が、綾小路系列の子会社に通した企画なんだって」
「……この、参加者募集っていうのはなんだよ」
「ウェディングドレスとかタキシードとか着て、写真撮られる被写体の募集。この学校の生徒から募るんだってさ」
「……お前は応募するのか?」
それ、気になるか?
「応募したって、その後の投票で選ばれないと被写体になるわけじゃ……」
どん。
鬼塚が、掲示板に手をついた。俺は鬼塚と掲示板に挟まれる──二度目の壁ドンだ。
「おい、なんだよ……」
またかよ、なんて茶化してやろうと思ったのに、鬼塚は存外真剣な目つきをしていた。
「お前は応募するのかって聞いてんだよ」
普段よりドスの効いた低い声──喧嘩相手に対してでしか効いたことのない声色だった。
だから、不良の本気はこえぇっての。
俺はその恐怖に負けて、しどろもどろに口を開いた。
「応募するっていうか、強制的に応募することになってる……」
「は? どういう意味だ?」
このポスターを設置できるようになった流れを簡単に説明した──伊集院が俺とのウェディング撮影会にワンチャン賭けていることなど。
「……伊集院も参加すんのか……」
鬼塚は納得してくれたのか、ようやく壁ドンしている手を下ろして離れてくれた。
「ん」
と、片手を差し出す──なんだ?
「はい」
鬼塚の手のひらに、右拳を重ねると、鬼塚はそれをパァン! と勢いよく振り払った。
「お手じゃねーよ! 残りも貼るんだろ! 手伝ってやるって言ってんだよ!」
「言ってねぇじゃねぇか! 『ん』、で分かるか!」
ギャイギャイ騒ぎつつも、鬼塚はポスター貼りを手伝ってくれた。
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