47 美少女の圧

「駄目だ」

 生徒会室で、生徒会長は、俺と綾小路を見るやいなやそう言い放った。

「ま、まだ何も言ってないのに……!」

「どうせ碌なことじゃないだろ」

 こいつ、頭ごなしに決めつけてきやがって……。

「おい……!」

 伊集院に掴みかかりに行こうとした俺を、綾小路が片手で制す。

「碌なことじゃないかどうかは、全部聞いてから決めてよ──それとも、わたくしに早乙女さんを取られたから、嫉妬で八つ当たりしてるの? みっともない」

 ……え?

 あ、綾小路さん?

 俺より一歩前に出た綾小路が毅然とした態度で、伊集院を睨みつける。

「な、なんか、綾小路の口調が……」

「え、あぁ……すみません。伊集院くんと鬼塚くんの前では、つい、昔の口調に戻ってしまうんですの」

 そ、そうか……。綾小路も最初からお嬢様口調だったわけじゃないんだ。厳格な家庭環境の中で、あのお淑やかさを手に入れたのか──なんだか、血のにじむ努力が垣間見えるぞ。

「……そこまで言うなら聞くよ、何しにきたの?」

 伊集院は指を絡めて、そこに顎を載せた。

「……教会のチャリティーイベントに、生徒の皆さんの中から選抜した数人、参加させたい」

「駄目だ」

 伊集院が聞く耳を持たないのは変わらない。しかし、綾小路も聞く耳を持たなかった。

「まずは掲示板にブライダルフォトについて告知と同時に参加者を募り、その後、参加者の写真を掲示板に貼って投票。選ばれた二名に、ウェディングドレスとタキシードを着用して写真撮影。その様子をSNSに投稿する」

 淡々と早口で流れを解説しながら、綾小路はツカツカと生徒会長席に座る伊集院に近づく。

「駄目だ、なんの利益がある」

 ばん! と綾小路が生徒会長の机を叩いた。そして、伊集院の耳元に口を寄せる。

「……早乙女さんのウェディングドレス姿が見れても?」

「……っ!?」

 おい、聞こえてるぞ。

 ていうか、俺、参加するつもりないんだけど。

 確かに俺の容姿は美少女だが……、ウェディングドレスにはまったく興味がない。着るの大変そうだし、着てるだけでも疲れそうだし。

「投票の結果、伊集院くんと早乙女さんが選ばれる可能性もなくはない」

「……っ!?!?」

 わかりやすく、伊集院の頬が赤くなる──おい、何を想像している。だから、俺、参加しないって。綾小路の中では、俺が参加することになっているのか?

 伊集院はしばらく俯いたり天を仰いだりを繰り返してから、

「……わかった、許可しよう」

 と、言った。

「やりましたわ、早乙女さん!」

 満開の笑顔で俺に振り向く綾小路。

 やったも何も、明らかに犠牲者出ただろ、今。

「綾小路、俺は……」

「え? 何か言いましたか? 早乙女さん?」

 圧。

「いや、なんでもないです……」

「ありがとうございます!」

 美少女の圧、えぐい。怖い。なんなら、廃倉庫のスキンヘッドより怖い。

 こうして、俺はブライダルフォトのチャリティーイベントに参加することになってしまった。

 ──まぁ、投票で選ばれなければ、大丈夫でしょ。

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