43 あの頃の俺ら

「ぐはっ!」

 迫り来る不良を殴り倒しても、またすぐに次の不良が襲いかかってくる。殴っても蹴っても、埒が明かない。

 相手の急所を狙いつつ、殴らせるところはダメージが少ない部位──頭の回転が早い伊集院らしいコスパの良い戦い方だ。

 ──それでも、数が多すぎる。

「はぁっ、はぁっ」

 慣れない乱闘に息切れしている伊集院の背中に、鬼塚が背中合わせになった。

「おい、生徒会長様は喧嘩慣れしてねぇんじゃねぇか? オラァ!」

「うるさい、よっ」

 喋りながら、互いの背中を守る──息のあったコンビネーションは、まるで親友時代の二人のようだ。

「……お前、俺のこと許してないんじゃねぇのかよ」

 ボソリ、と。

 鬼塚が伊集院にしか聞こえない声で囁いた。

「……父さんを、問い詰めた」

「……!」

 生まれてから今まで、伊集院が親の言いつけを律儀に守ってきたことを、鬼塚は知っている。だからこそ、彼は伊集院に真実を告げなかったのだ──彼が信じている父親が、鬼塚を、親友を否定し拒否したという真実を。

 その伊集院が、親を疑ったと言う。

「お前……」

「……今まで、悪かった」

 謝った。

 鬼塚に対しては高いプライドを保っていた伊集院が。

 鬼塚は信じられないようなものを見る目で、伊集院を見た──伊集院は目こそ合わせないが、その視線に応えるように、喋り続ける。

「早乙女が教えてくれたんだ、あの日のことは誤解なんだって……。最初は、それでも、お前が許せなかった」

「…………」

 二人は喧嘩を続けながらも、会話を止めない。

「だから、自分で真実を確かめることにした。あの日のことを、父さんと、ちゃんと話したんだ」

「……それで?」

「父さんがあんまりに理不尽で笑ったよ。鬼塚はなんも悪くなかった──許してくれ、なんて言えないけど、たとえ俺の自己満でも、謝らせてくれよ」

「……ふんっ」

 腰の低い伊集院に対し、鬼塚は鼻で笑った。伊集院はそれを拒絶と捉え、やっぱり都合が良すぎるな、と自嘲するが──鬼塚は二の句を継いだ。

「許すもなにも、もともと怒ってねぇけどな」

「……!」

 伊集院が鬼塚の顔を見ると──笑っていた。

 二人で鬼塚家の広大な庭を駆け回っていたあの頃と、同じ笑顔だった。

「……まぁ、結局、全部あいつのお陰ってことか」

「……うん、そうなるな」

 伊集院と鬼塚は、半数ほどに減った不良たちの隙間から、ピンク髪の活発すぎる少女を見やる──金属バットという武器を手にした早乙女は、不良たちと同等に渡り合っていた。

「うおおぉぉぉりゃあああぁぁぁ!!!」

 女子高生らしからぬ、気合いの入った雄叫びをあげて。

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