37 綾小路を探せ!

「こんなところで、お見合いすんのかよ……」

 デカすぎる。

 中庭付き和風の高級料亭を前に、俺は少しビビっていた。

 料亭というか、もはや旅館だ。漆喰の塀と瓦屋根であしらわれた入り口に、暖簾がかかっている。あそこを潜るには、年収がいくらいるんだろうか。

 暖簾の向こう側をしゃがんで覗き込む──すぐに店内、というわけではなく、飛び石を渡って、庭園を少し歩いてから、料亭があるようだ。暖簾の付いた入り口は、あくまで、アーチや仕切りの役割に過ぎないらしい。

 時刻は綾小路が言っていたお見合いの時間──三時をとうに回っている。すでにこの料亭のどこかに綾小路がいるはずだ。

 店の人に見つからないように、俺は息を殺して暖簾をくぐった。

 飛び石に従って真っ直ぐ進めば、すぐ料亭っぽい建物がある──左側は庭園になっていて、鯉が泳ぐ池や低木、さまざまな種類の木々など、正に『和』の庭だった。

 自然が多い分、身を隠しやすくて助かる。加えて、低身長の俺は、しゃがんでしまえば、どこの草陰にも隠れることができた。

 早く、綾小路がいる部屋を探さなければ……!

 急がなければ、綾小路のお見合いが終わってしまうかもしれない。彼女の未来が──不幸が決まってしまうかもしれない。

 俺は焦っていた。だから、気づかなかったんだ。

 ──隠密行動を徹底している俺の背後に、人影がいることに。

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