32 女子会という名のデート

 伊集院の鬼塚への誤解は解けたが、事態は何一つ変化していなかった。いい意味でも悪い意味でも。

 綾小路には、登校したところに声をかけて、廊下まで出てきてもらった。

「そうですか……。ありがとうございます、早乙女さん」

「い、いや、俺は別にそんな……」

 丁寧にお礼を言われると、結果的に何もできなかった自分が不甲斐ない。

 亜矢瀬には、昼休みに話そうと思っていた。

 伊集院はもう綾小路に気持ちは残っていない──となると、過去好きだったからといって綾小路を勧めるのは、あまりいい気がしないだろう。小中学生がやりそうな幼稚な冷やかしに捉えられかねない。

 逆に嫌悪感を持たれたら、元も子もないのだ。

 俺は再び、亜矢瀬との作戦会議を開いた──今回は、綾小路は抜きだ。

「伊集院に綾小路をもう一回好きになってもらうのは、難しそうなんだ」

「ふーん……」

 俺の話を一通り聞き終わった亜矢瀬は、モグモグと弁当のおかずを食べてから、

「それなら逆にしちゃえば?」

「逆?」

「そ」

 箸で俺を指さした。行儀悪いな。

「綾小路さんに、生徒会長を意識させるんだよ」

 なるほど。

「綾小路さん側に何らかの気持ちを芽生えさせれば、生徒会長だって意識するかもしれないしね」

 一理ある……気がする。

 恋愛経験がないからなんとも言えないが、俺だったら、綾小路に気がある素振りをされて平常心を保っていられる自信がない。

 伊集院もハイスペックとは言え、所詮男である。綾小路から迫ってもらったほうが、彼女に落ちる可能性が高くなりそうだ──あいにく、綾小路がライバルヒロインになる場面まで読んでいないせいで、それが少女漫画通りのストーリー通りなのかどうかもあやふやなのが、ちょっとした賭けだが……。

 少しでも、伊集院の気が逸らすことができるなら、それに越したことはない。

「放課後、綾小路さんと駅前のカフェとかで、女子会してくれば?」

「女子会!?」

「女子会」

 外見は女子会かもしれないが、片方の中身が男なんだから、それは──

「合法的なデートじゃないか!」

 俺の魂の叫びに、亜矢瀬はかわいそうなものを見る目になった。

「知らないなら教えてあげるけど、デートは犯罪じゃないよ」

 甘党の亜矢瀬に、駅前のパンケーキが美味しいカフェを紹介してもらい、俺は人生初、女子をデートに誘う運びとなった。

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