23 乙女ちゃんって、男でしょ?

 翌日の昼休み──綾小路に話しかける隙もなく、亜矢瀬の手によっていつもの屋上へと連行されてしまった。

 綾小路と仲良くなりたくて、とにかく接触回数を増やそうと思ったのに──水を差されて、亜矢瀬に反感を覚える。

「おい、亜矢瀬──」

「乙女ちゃん、一人っ子だよね?」

 俺が怒る前に、亜矢瀬は斜め上の問いをぶつけてきた。

「そんなことより……」

「答えてよ。一人っ子でしょ?」

 珍しく、亜矢瀬に圧がある──ただならぬ気配を察知して、俺は大人しく答えた。

「……だから、なんだよ」

「──おかしすぎるんだよ、昨日の件とか、女子への対応とか」

 何かを、疑われている。

 別に亜矢瀬に後ろめたい嘘をついたことはない、はずだ──伊集院や鬼塚との関係を説明しなかったからだろうか? いや、それは亜矢瀬だって聞いてこなかったんだから、特段気にするような事項じゃないだろう。

 なら、なぜ、俺は今亜矢瀬に問い詰められている?

「なにがおかしいんだ? 特別なことをした覚えはないぜ?」

「ほら、今思えばその喋り口調も──個性的な喋り方が好きだっていうなら、謝るけど」

 喋り口調?

 亜矢瀬が何を意図しているのか、まったく掴めないのは、俺が空気を読めないからじゃないと思う。

「さっきから、お前なにが言いたいんだよ?」

「……じゃあ、聞くけど」

 亜矢瀬はキッと俺を真っ直ぐ見据えた。


「乙女ちゃんって、男でしょ?」


「──……っ」

 言葉を失うとはまさにこのこと。

 もしかしたら、亜矢瀬は中身が男っぽい女子を指しているのではないか、という言い逃れもできた。しかし、そんな性格的な意味を指して「男でしょ?」と聞いていないのは、火を見るよりも明らかだった。

 ──中身が男だと、バレている。

 隠しているつもりはなかった。だからこそ、最初、亜矢瀬が何を知りたいのかわからなかったのだ──男子高校生が女子高生の体に転生したと言って、いったい誰が信じるって言うんだ?

「…………」

「…………」

 目の前に立つ亜矢瀬は、真剣な眼差しを俺から逸らさない──俺はその目を、信じてみたくなった。

 もしかしたら、この世界で俺の正体を知る、俺の目的を手伝ってくれる仲間ができるかも知れない──そんな一縷の望みをかけて。

「……絶対に笑わないで、真剣に聞くって約束するか?」

「する」

 亜矢瀬は神妙な面持ちのまま、コクリと頷いた。

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