5 おもしれー女

 伊集院と鬼塚は、走り去っていく早乙女の後ろ姿を、ただ見送ることしかできなかった。

 二人とも、そのよく整ったルックスで、女子から言い寄られた回数は両手両足では数え切れず、バレンタインデーなどは、ほとほと憂鬱なイベントでしかない──そんな人生を歩んできた。

 女子に好意を寄せられた経験は星の数ほどあれど、わざわざ面と向かって『好きにはならない』と宣言されたのは、初めてのことで──

「なんだ、あいつ……」

 と、鬼塚はつぶやいた。心なしか、その口元は笑みを浮かべている。


「おもしれー女……」


 鬼塚の言葉に、伊集院が小さく頷いた。

「……ふふ、うん。今日ばかりは、お前に同意するよ」

 犬猿の仲の二人だったが──このときだけは、意見が合致したのだった。

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