3 第二の人生は女子高生!?
学校へ向かう、という任務だろう、おそらく。
学校ってどこにあるんだよ、なんて疑問は、玄関から一歩外に足を踏み出した瞬間に解決された。
同じ奇抜な服装の、同い年くらいの少年少女が、目の前を歩いていたのだ──きっとみんな同じ学校の生徒のはずだ。ついていけば、きっと学校に辿り着く。
俺の推測はあながち間違ってはいなかったらしく、すぐに学校のような建物が見えてきた──校門には、『私立星空高等学校』の文字。そこに吸い込まれるように入っていく生徒たち。ここが俺の通っている高校のようだが……どういうネーミングセンスなんだ。
学校名と睨めっこをしている俺の後ろで、車が停まる音がした。振り向くと、黒塗りの高級車。いかつい顔をした男の運転手が出てきて、後部座席のドアを恭しく開ける──中から現れたのは、金髪の縦ロールが似合う美少女だった。
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
運転手の男が右手を胸に当て、軽く礼をしながら金髪縦ロールの美少女を見送る。彼女は、運転手に軽く手を振った。
「早乙女さん、ごきげんよう」
金髪縦ロール美少女は、俺の真ん前で立ち止まると、スカートの裾をつまんで頭を下げた──まるで、クラスメイトに挨拶をするかのように。
「え、あっ、おはようございます……?」
こんな美少女がクラスメイト?
俺は前世でどんな善行をしたのだろうか──
……ん? 前世……?
その瞬間、曇り空から一筋の光が差し込んだように、脳内のモヤモヤが一気に晴れていく感覚がした。
俺、もしかして……転生してる!?
そう考えれば、辻褄が合うかもしれない。トラックに轢かれて死んだと思ったのに生きていることや、見た目がまったく異なる美少女になっていること──そして、知り合いが誰ひとりいないのに、俺のことを知っている人間がいること……。
死んだ拍子に、別の世界の人間として、生まれ変わってしまったのか──!
……転生したという仮説が正しいと証明する術はないが、俺としては、かなり有力な説だと思っている──とはいえ、それならそれで、問題が発生してしまうのだ。
いったいぜんたい、ここはどんな世界で、俺は誰に転生したんだ……?
金髪縦ロールの美少女は、『綾小路麗華』という名前らしい。車の送り迎えもさながら、名前からも気品が溢れており、名は体を表すとはまさにこのことだった。ついでに金も持っていそうだった。
俺はなんとか教室に辿り着き、自分の席に着席する──これで、腰を据えてじっくり持ち物を精査できるってもんだ。
教科書は見覚えのあるものばかりで、高校一年生の模様。黒板の日付からするに、まだ四月。入学して一週間ってところだろうか。
早乙女さん、と彼女に呼ばれていたから、俺の名字は『早乙女』なんだろうと察しはついていたが──教科書やノートの名前欄を見る限り、フルネームは『早乙女乙女』というらしい……。
……冗談だろ?
どこかの作家のペンネームか、SNSのふざけたハンドルネームみたいな名前──と、ここまで鼻で笑ってから、ふと既視感がちくりと後頭部を刺した。
この名前、どこかで……?
「早乙女さん、落としたよ」
まだ呼ばれ慣れていない本名を呼ばれて、顔を上げる──隣の席の男子が、俺のピンク色の消しゴムを差し出していた。拾ってくれた彼の手からそれを受け取る。
「あ、ありがとう……えっと……」
「……亜矢瀬だよ、亜矢瀬湊」
男子は面倒くさそうに、そう名乗った──お礼を言いつつも、相手の名前がわからないでいる俺を見かねたのだろう。
眠そうなタレ目、ふわふわの癖毛、ミルクティーみたいな色の髪の毛──亜矢瀬湊は、子犬のような子猫のような、どっちつかずのつかみどころがない男子だった。
「ふわぁ……ねむ」
小顔から繰り出される大きなあくび。日光がほどよく降り注ぐ窓際の席。絶好の昼寝スポットとばかりに、亜矢瀬は机に突っ伏してしまった。三秒後には穏やかな寝息が聞こえてくる。
言うだけ言って寝落ちする亜矢瀬を、俺はまじまじと見てしまう──こいつにも、どこか既視感を覚えたからだ。
でも、どこで……。
記憶の糸を手繰り寄せていくが、いまいちピンとこない。
そうこうしている間に、担任と思われる女教師が教室に入ってきた。見計らったように流れる始業のチャイムとともに、クラス委員らしき生徒が号令をかける。
「きりーつ、れーい」
かくして、俺の二度目となる高校生活が、幕を開けてしまった。
男子高校生だった前世から──今度は、女子高生として。
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