第37話・元老院
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!!
ラトゥルス連合軍とヴァルツース衛兵の激しい戦闘が繰り広げられている。貨物列車が停止する大通りを挟む建物に、弓を持ったヴァルツース兵が突入している。
「祈祷師様!」
「わかっています!」
祈祷師様の祈りによって、厚い氷のトンネルが貨物列車をスッポリ覆った。氷の壁の向こうでは弓引く兵士が苦虫を噛み潰している。
これで相手は剣だけだ!
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!!
祈祷師様が乗務員室扉に手を掛けた。まさか、外に出る気なのか!?
「祈祷師様、危険です! 中にいてください!」
「元老院と和平交渉に向かうのです! このままではフェルンマイトの民も
お優しい祈祷師様、あくまでヴァルツースから救済するための戦いなんだと忘れていないのだ。あのサイコパス祈祷師様は、どこ行った。
祈祷師様は俺と向き合い、引き止めようとする手を握った。
「サガ……守ってくださいますか?」
柔らかい……。
そうじゃなくって。
「わかりました。祈祷師様をお守りします」
俺は両手で握り返した。力強い意志を込めて。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!!
ラトゥルスとヴァルツースは拮抗している。目の前の相手から互いに目を離せていない。今ならイケる、ディスコン棒を握りしめ、祈祷師様と手を取り合って425メートルを一気にダッシュ!
と、その前に……。
機関車の屋根に梯子を掛けると、ディスコン棒で突くより先にパンタカバーがパタパタ開き、中からパンタが現れた。
「ずっとお祈りして、疲れただろう? 氷のトンネルが破られたら、矢が飛んでくる。その前に、ここから脱出しよう」
「祈祷師様に比べたら、僕なんか大したことないよ! それより、お腹空いちゃった」
「そうだな、俺もだ。偉い人とお話をして、この戦いを終わらせよう。そうしたら、みんなでご飯だ」
屋根からパンタを降ろして、刃が激しく交わされる中、ラトゥルス軍が死守するコンテナ貨車に沿って走る。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!!
みんな、貨物列車を守ってくれよ。万一のことがあれば、ヴァルツースに対抗できる軍勢を輸送出来なくなってしまう。
「「サガ!」」
ふたりの声に、ディスコン棒を横一閃。斬りかかったヴァルツース兵を薙ぎ払う。
「ぐあっ!」
「安心せい、峰しかないわ」
ディスコン棒で暴行を働いてしまった、昭和の指導運転士でもないのに。
とにかく、先を急ごう。剣にディスコン棒では無茶すぎる。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!!
「祈祷師様のお通りだ! みんな、死守しろ!」
「祈祷師様に道を開けろ!」
「祈祷師様を守るんだ!」
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!!
ラトゥルス兵の働きによって、俺たちは難なく建物まで走りきれた。小競り合いに勝利して、俺たちを守りながら進んでくれる兵もいた。
ラトゥルス、やるじゃないか。
そのとき、閉ざされたコンテナから力尽きそうなノックが響いた。このコンテナは……
「ハチクマさん!?」
誰かにやられたわけでもないのに、ハチクマと薬師がその場に突っ伏し、浅く弱々しい息を吐いていた。密室に充満した煙がモワッと立ち上る。
「ハチクマさん、あなた何をやったんですか!? 火を使うなと言ったでしょう!?」
「……す、すまない。石炭レンジを見ると身体が
キッチンコンテナを全開し、一酸化炭素中毒になりかけのハチクマと薬師を引きずり出した。
「そ……その鍋を……私に」
深めの鍋からは、懐かしい匂いが漂っている。蓋がしてあって見えないが、この香りは……。
いやいや、ここは異世界だぞ? そんなバカな話が──
「サガ!!」
「うおっ!?」
「ぐはぁっ!!」
一瞬、何が起きたのかわからなかったが、襲いかかったヴァルツース兵をディスコン棒で殴ったらしい。
ハチクマも薬師も丸腰だ、だからと言ってキッチンコンテナに押し込んだら酸欠で尚更危ない。このふたりも元老院に連れて行こう。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!!
長い廊下を駆け抜けて、衛兵たちを薙ぎ払う。強い、強いぞ、祈祷師様を守ろうとみんな必死になってくれている。
俺もディスコン棒で加勢する。凄い、凄いぞ、昭和の指導運転士になった気分だ。
そうして着いた元老院、騎士団長が爺さまたちを捕らえている。まったく、お前は部下の爪の垢を煎じて飲め。もちろんイッキ飲みだぞ、ゲップしたら許さないぞ。
祈祷師様が悠然と前へ躍り出る。その美しさに爺さまたちは、すっかり心を奪われている。まったく男って奴は幾つになっても……あ、俺もか。
「私はラトゥルスの祈祷師、テレーゼア。ヴァルツースの魔の手からフェルンマイトを救い出しに参りました。元老院を牛耳っているヴァルツースの使者は、どこですか?」
「こいつだ」「こいつだ」「こいつだ」「こいつだ」
お前ら全員かい!! それぞれを指差す爺さま、上から見たら魔法陣みたいになってそうだ。
それじゃあ捕えたことをヴァルツース兵に知らしめて、諦めさせれば試合終了だよ。
そのとき、パンタがしょんぼりと袖を引いた。
「ねぇサガ、終わったの? 僕、お腹ペコペコだよぉ……」
フレッツァフレアで推進運転を行って、薬師を拾い、ここフェルンマイトではループトンネルを掘削しながら登っていった。パンタは今までより長い時間、屋根に乗って電気を供給し続けていたのだ。育ち盛りで食べ盛りの子供には、なかなかつらいことだろう。
そういえば、俺も急速に腹が減ってきた。その原因は、辺り一面に漂っている郷愁に満ちた香りのせいだ。
俺はもう……我慢出来ない!
「ハチクマ! その鍋の中身を見せろ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます