衝撃の事実
まさかこいつ犬のように汚く飯を喰っていたのは演技を強制されていたから、それが抜けなかったという事なのか。
改めて思うが稲元潤は異常すぎる。
彼女だけで、この『なれはら』シリーズのヒロインに圧倒するほどの個性を持ち備えている。
だけど、それが彼女がヒロインとして愛されるかどうかは別であるが…。
俺は拳を構える。
忠国伊月が俺を殺そうとしているのは明白の内だ。
ならば俺はわざとらしく手錠に向けて声を荒げる。
「やめてください!なんで、俺を殺そうとするんですか!!そんなの稲元さんが黙ってないですよ!!」
彼女は盗聴器を使用しているだろう。
ならば俺の声によって、俺が殺されようとしているのはすぐに分かる筈だ。
これは彼女に対してSOSを行なっているのだ。
しかし忠国伊月は俺の行動に対して鼻で笑った。
「そんなことしなくても姉御はハンナと話しているから聞こえやしねーよ」
とそう言った。
俺は声をつまらせて、そしてすぐに「何の話だ?」とあくまでも盗聴器に気づいていない素振りをする。
「しらばっくれても無駄だぜ、…いやあれは本当に分からないだけか?…どちらにしてもお前は俺とここで遊ばれる運命なんだよ」
ニヤニヤと笑いながら忠国伊月が地面を蹴って俺の方へと向かいだす。
「お前は武器になるようなものはないが…、俺には牙がある」
忠国伊月の口が開かれる。
それは人工的に作られた牙だった。
サメのような歯をむき出しにして俺の方へと迫る。
たかが、あの女の為にわざわざ自らの体を改造させるのか。
根性や忠誠心は立派だが、しかしどうしてもあの女の異常性が目立ってくる。
家族だなんだと言っておいて、自分に都合の良い存在しか側に置きたくないんだろ、あの女は。
口に注視していたが奴の攻撃はそれだけじゃなかった。
獣のような動きを想定していたが、奴の攻撃に手が伸びて来る。
すれすれで回避して、俺は息を吐いた。
「誰かの玩具で居る事がそんな嬉しいか?」
再び迫る、奴の攻撃。
俺は叫びながら、攻撃を回避し、周囲を探す。
攻撃しようと思って、武器を探したが、何もない。
それもそうだろうグランドは整備されていて、石すら存在しない。
俺は手錠を弄りながら、俺は衣服を脱いでいく。
それを両手で構えた。
たとえ牙や爪が生えていたとしても、それはあくまでも人間の運動神経の範囲内に入る。
牙と爪で布が破れるワケがないし、一撃で布を引き裂くこともできやしない。
これが化物や獣であればまだしも、人間の力でそんなことできる筈がない。
「嬉しいねぇ!」
忠国伊月がそう叫んだ。
「弟や妹になるということはあの人の寵愛を一身に受けることができるということだ!俺はまた戻るッ、そしてお前を終わらせて、俺はあの人の妹になるんだよ!!」
…聞き間違えた。
いや、言い間違いかな?
この状況でふさわしくない言葉を聞いたような気がしたのだが…。
きっと切羽詰まって間違えて言ってしまったのだろう。
相手もまた緊迫しているに違いない。
俺はそう思うことにした。
「言動がちぐはぐになってきているぞッ」
俺は奴を煽るようにそう言った。
言葉に対する足上げ鳥ではあるが相手は煽られたと分かれば、怒り出して行動が感情的になるだろうと思ったのだが。
奴からの言葉はありえないものだった。
「間違いなんて、何一つ間違っちゃいない…はぁ、はぁっ…俺は元々普通だったんだ…姉御が、お、俺を変えちまったんだよぉ!」
忠国伊月は息を乱している。
いや違うあれは興奮している。
興奮して息が荒くなっていた。
そしてその表情から察するに、奴の言ってることは本当だ。
「どうしてこうもッ、個性がッ、個性ッ!!」
…いや想像したくない。
特にこの戦闘において、俺の集中力のリソースをそちらに回したくはなかった。
だから俺は黙々と戦うことにした。
何一つ考えることなく、戦闘に集中する。
「へぇ、切り替え速いなぁ…その方が面白いッ!!」
俺に飛びかかってくる忠国伊月。
忠国伊月は、そのまま俺を食い殺す事に奮起になっていたが、俺は意外にも冷静だった。
シャツを奴の口に咬ませて攻撃を止める、このままを維持しようと力む。
「ぐぅぅぅッ…っ!?」
俺に対する違和感を覚えたのか、忠国伊月が離れた。
「お前…、何だその手」
俺はシャツに隠して置いた手をあげる。
案外、簡単にバレるものか。
「なんだその手って、一体なんの事だ?」
俺はそう言って笑みを浮かべた。
俺の手首にかけられていたはずの手錠はどこにもなかった。
この数分で、俺は手錠を外しておいたのだ。
もちろん普通に外してしまえば手錠は爆破してしまう。
だが俺はこの手錠の外し方を予め知っていた。
何故ならば、俺は原作を知っている。
百槻与一がどうやって手錠を外したのかも、知っているのだ。
この手錠の爆発する材料は基本的に液体による爆破である。
この液体が爆破する為には酸素と火種が必要となる。
火種は手錠の内部に内蔵された電気を使い引火し、酸素を流し込む事で爆破能力を広範囲に広げる。
酸素を取り入れる為に、手錠の内部にはファンが取り付けられているのだ。
その構造上、二つを水中に入れた状態で外すと爆破の威力が弱くなる事がある。
しかし水中に入れてしまっても爆発によって腕が破壊される恐れは存在する。
だがある方法を使うと爆破せずに外すことが可能になる。
その方法とは米粒である。
米粒を鍵穴の奥へと突っ込ませる。
そうする事でちょうど酸素が供給されるはずの蓋の部分に当たり、米の粘着力によって蓋が開かなくなるのだ。
本日の朝食は納豆定食だった。
そこからご飯粒を拝借し爪楊枝で米を鍵穴の奥へと突っ込ませる事で爆破する可能性はなくなり、一時的に手錠の効果は失ってしまう。
この方法を使用した場合、デメリットとしては異常としてこの手錠の持ち主に連絡が届くのだが、俺にとってはかえって都合が良いことだった。
手錠を外した事によって俺は稲元潤を呼び出すことにしたのだ。
そして異常を知った稲元潤は確認するために俺の元へ来るだろう。
爆破は出来なくても、発信機は使えるからな。
俺の手から手錠が消えているのをいち早く察した忠国伊月はそこでようやく人並みらしい焦りの表情を浮かべた。
「手錠はどこだ?」
と言ってくる忠国伊月。
俺はポケットに入れておいた手錠を見せた。
「無駄だよ、この状況じゃ、どう足掻いてもお前が俺に攻撃した、俺は被害者で、お前が加害者と目に写るだろうな?お前が言う優先順位だったら、俺の方が上らしいし、稲元さんは俺を肩に持つだろう」
そして、忠国伊月の処遇はどうなるか。
奴の顔を見れば分かり切った事だ。
俺は、このまま奴を見殺しにすればそれでよい。
…だが、それじゃ駄目だ。
俺が必要なのは、稲元潤に気に入られる事じゃない。
『狩人協会本部陥落編』を乗り越える為に必要な手駒だ。
「助けてやろうか?忠国伊月」
俺は、忠国伊月と取引をする為に、交渉に移った。
序盤で死ぬ運命に当たる不遇ヒロインの救い方、救った奴はヤバイ奴だしこのエロゲのヒロインも大概ヤバイ 三流木青二斎無一門 @itisyou
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