そして主人公の登場
霧島の表情が歪んだ、痛そうな表情している。
俺はその表情に苦心の表情を浮かばせた。
彼女の腹部を突き刺す、それが彼女を救う行為であった。
彼女の腹部から血が流れて、同時に白い液体のようなものを溢れて出てくる。
液体は次第に勢いを乗せていきプシュゥ、と勢いよく飛び出した。
白い液体は球体になるとゴロゴロと動き出す。
この液体は化け物だこの化物こそが彼女を死に追いやった。
この店は『蛟』の一部だ。
彼女は『蛟』によって白濁の体液を無理矢理飲み込まされた。
原作では複数の狩人に仕事を依頼し、百槻与一および霧島恋を含めた複数名の狩人がその商業ビルにて化物討伐をする事になる。
商業ビルに侵入後、化物の討伐を開始。
多くの化物に対して善戦していた矢先、小型の化物が逃走。
それを追い掛ける百槻与一たち。
そして地下と潜った時、そこで百槻与一たちは特級クラスの化物、『蛟』と遭遇した。
狡猾な化物の群れ。
それに合わせて『蛟』との戦闘。
多くの狩人が死亡し、化物に囲まれてしまう。
そして、その殿を務めたのが霧島恋だった。
『蛟』と戦闘を繰り広げる霧島恋。
百槻与一は、狩人と共に一時は撤退したものの、彼女を置いてはいけないと戻って行った。
化物に囲まれる霧島恋を発見した百槻与一は、退路を築き、彼女の下へと向かい、膝を突く彼女に手を伸ばした。
だが、時すでに遅く、霧島恋は『蛟』によって体内に液体を注入されていた。
『蛟』の覚醒と共に、霧島恋の体内、胃袋に溜まる液体が破裂し、彼女の肉体を破壊。
百槻与一が彼女を手を握ろうとした瞬間に、爆破によって彼女の血肉が百槻与一の顔面を濡らした。
上半身と下半身が分断されて、口から血を吐く霧島恋は、それでもまだ、生きていた。
霧島恋の体が弾けて、その姿を見た百槻与一は言葉を失い、呆然自失に陥った。
その後、百槻与一を助ける為に後退していた狩人たちが彼の元に戻ると弱々しく力の入らない体を引き摺って、半ば強引に地下から連れ出す。
そして百槻与一が最後に見た光景。
「ぬぽあ」「なむ」「ぷちゅッ」「がり」「ぐちゅ」「ぎちゅ」
霧島恋の体に雑魚化物が群がっていく。
皮膚を破り骨を砕き、彼女の頭部を噛み砕いて血肉の残片と変え、霧島恋の姿かたちは失せた。
それが、霧島恋の末路だった。
この惨状を繰り返さない為には、彼女が飲み込んだ液体をどうにかしなければならなかった。
だから俺は、彼女の腹部を突き刺して液体を取り出す必要があったのだ。
これで、彼女が『蛟』によって殺される最悪の未来は免れた。
「後は…俺が…此処から」
逃げるだけ。
力を振り絞って彼女を引き摺る様に歩き出す。
疲弊した体では女性一人の体重でもとてつもなく重く感じる。
それでも霧島恋を離すような真似はしない。
これは俺が決めた事だ。
最後まで彼女を生存させる。
その為に努力を続ける。
「…当然、いる、よな」
俺の前には、多くの化物がこれを待っていたと言わんばかりに待ち受けている。
格好の餌が歩いていると思っているのだろうか、この化物の道を進むのは苦難だ。
だが、この化物を抜けなければ道はない。
背後は『蛟』。
逃げる場所はない。
だったら、前を進んで逃げる道を作る他ない。
ここが正念場、だ。
歯を食い縛る。
何か硬いものが砕ける音が響く。
自分の歯から血が滲む。
しかし痛みはない。
アドレナリンが分泌している。
さあ、気張れよ、俺。
「おぉおッ!!」
化物たちが集まる。
俺は狩猟奇具を展開する。
一歩踏み出す、化物たちが俺を狙う。
一歩、更に一歩、踏み込む。
化物たちが迫る、大勢が進んでくる為に『白塗』が動けない事がせめてもの救いだ。
『鐘鳴』は俺を囲う様に動く。
流石に学習している。こうやって周囲を囲まれてしまえば、単調な動きでも攻撃が当たる可能性が増える。
死ぬかも知れない、けれど、もう俺には後悔などない。
「こいっ」
牙を剥いて化物と対峙した、その瞬間だった。
上空からエンジンのような音が聞こえる。
そして鋭い刃が化け物の正面から落ちてきて『鐘鳴』の頭部を切り刻む、
その音はチェンソーだった。
化け物刻み殺すと、顔をあげる隻眼の男。
「おー…初の仕事にしちゃ、上出来じゃんか?九条ちゃん」
「ッ、百槻ッ」
この状況で百槻与一が登場した。
俺は安堵の息を吐く。
こんな状況下でも安心感を覚える。
流石は、主人公の事だけある。
正直、もう、俺の体は、限界だった。
今にでも、意識が途絶えそうな程に。
だから、俺は、百槻与一の胸に体を預ける。
「戦うな…百槻、逃げろ」
その言葉を残す。
俺の体は段々と重たくなって、そして俺は意識を失った。
後の事は、百槻与一に託すのだった。
そして……長い間、眠っていたのか。
俺は、目を覚ます。
それと同時に白い天井が目の前にあった。
どうやら其処は病室で、狩人協会の本部であった。
俺は体を上げようとして苦痛に顔を歪ませる。
体には沢山の傷の縫い跡があり、全身を包帯で覆われていた。
俺が此処に居る、という事は…少なからず、百槻が連れて来てくれたのか。
「…ッ、きり、しまは…」
彼女は助かったのだろうか?俺は体を無理に立ち上がらせて外へ出ようとした。
なんでもいいから彼女に対する情報が欲しかったからだ。
カーテンを開ける、するとそこには神崎さんがいた。
神崎さんは白衣を脱いで体を伸ばしていた。
と言うか。
彼女は下着姿だった。
「ぶふッ」
と俺は奇妙な声を漏らした。
すると神崎さんは俺に気がついたようで、しかし特に恥ずかしがりもせず下着姿のまま俺の方に顔を見せた。
机に置いておいたタバコを手に取ると口元に近づけて火を灯す。
「何その反応、結構ショックなんだけど?」
口から煙を吐きながら神崎さんが言う。
俺はつい、
「すいません…」
と謝った。
…なんでこの人、下着姿なんだろうか。
「なんで下着なんですか?」
顔を背けながら神崎さんに聞く。遠い場所から煙草の臭いが鼻を突いた。
「あー…シャワー浴びてたの、別に好きで脱いでたわけじゃないから」
シャワー、そうか、病室にはシャワー室があるから、それで体を洗っていたのか。
納得した所で、俺は、別の問題を、神崎さんに聞く事にした。
「あの…」
神崎さんの美貌に目を背けながら大事なことを聞く。
「霧島は?」
「んー?霧島ぁ?」
神崎さんは歩いて、そして隣のベッドにカーテンを引いた。
そこには、リンゴを食べている霧島の姿があった。
サクサクとうさぎ型のりんごを齧っている霧島。
なんとも元気そうな姿であった。
「…よかった、生きてたのか」
俺は嬉しそうに呟いた。
なんだか感極まって涙が溢れてくる。
何か話しかけようとして、そんな時、病室の扉が開くと。
「恋姉ちゃん、お見舞いに来たぜー、あと、ついでに九条ちゃんも」
百槻与一の声が聞こえてくる。
カーテンからひょっこりと顔をだして俺の顔を見に来た。
「コテンパンにやられて泣き出してんのかぁ?九条ちゃーん」
にまにまと表情を浮かべる百槻。
「ちが…ッ!」
俺が否定しようとして彼の顔を見た。
そして、俺は絶句した。
百槻与一の顔面には眼帯が着けられていた。
「お、お前…」
「あ?あー、これ?いいっしょ?かっこいくね?」
眼帯を指差しながら笑う百槻与一。
笑いごとじゃないだろ、それは。
「治るのか?」
「ん?失明してっからムーリ」
軽い口調で言うが、そんな簡単に言うことじゃないだろ。
「お前…それ、俺のせいでッ」
自責の念を感じる。
その時、百槻与一は嫌そうな表情を浮かべて耳を小指で抑える。
「あー、いいってそういうの」
「良いわけないだろッ!お前、お前が、俺を助けたせいでッ」
俺のせいで、お前は片目を失ったんだぞ。
…確か狩人協会の医療機関ならば人体欠損や再生不可能な傷でもなんとか治療が可能だったはず。
けど…個人で受けるには医療費が高い。
狩人協会に属している狩人でも、上位階級でなければその恩恵を得る事は出来ない。
俺のせいで、一生ものの傷を…。
「なにマジな顔してんの?俺が勝手に助けて、俺が勝手に傷ついたんだよ。九条ちゃんには、なーんの落ち度もないの」
百槻なりの慰めなのか。
それでも俺が納得できない。
「俺はお前に…治らない傷を、俺の、俺のせいなのに」
握り拳を固める。
あの時の自分を、思い切り殴ってやりたい。
「はぁー…九条ちゃんは、本当に背負いたがりなのねぇ」
相変わらずニヤケ面をする百槻与一。
「そんなに背負いたいなら…一生懸けて、それなりに償ってくれよな?」
軽口を叩いて俺の眠るベッドに腰を降ろす。
「基本的に、狩人は二人一組の活動が最低条件だ、九条ちゃんさ。この俺を丸ごと背負ってくれよな?」
それは…つまり。
土産品の林檎を俺に投げ渡す。
俺はそれを受け取って、百槻の顔を見る。
「そんなので、いいのか?」
「言っておくけどさ。俺がうざいし調子付くし自己中だしかまってちゃんだし、他人の事なんて考えない、ただ俺がやりたいようにやって俺の望むままに誰かを救う、…正直、けっこうな懲罰もんだと思ってるけどさ、背負いたがりの九条ちゃんでも、流石に荷が重いかなー?」
俺は初めて百槻与一の言葉に笑った。
「お前…自覚してたのか?」
俺は林檎を軽く撫でる。
百槻与一は、見舞いのバナナを採ってそれを喰らう。
いや、お前が喰うのか?
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