最序盤の雑魚化物
霧島恋は百槻与一と共同の仕事を行っていた際に始まるイベントによって死亡する。
その仕事とは、商業ビルに出現した化物を討伐する、と言うもの。
化物に占拠された為に、その化物の討伐を行い、一掃する事が、二人の上層部から送られる仕事の内容だった。
参加しているメンバーは二級相当の狩人であり、期待の新人として百槻与一も共に行動するのだが、商業ビルの化物の闘級は明らかに二級相当を越えた特級案件であった。
ビルの地下には、特級相当の化物が存在し、百槻与一はその化物と戦う。
ビルに蔓延る化物は霧島恋率いる二級狩人たちが狩っていた。
だが、その数が多く、一時、撤退する事になったのだが。其処で殿を務めたのが霧島恋だった。
化物たちから仲間を守る為に戦い続けた彼女。
だが、ビルの崩壊、地下で暴れる特級の化物の下へと落ちていく。
満身創痍の百槻与一を逃がす為に、特級の化物と対峙し、そして彼女は、百槻与一が見ている最中で化物に食い殺される。
それが、霧島恋の死の全貌であった。
「(それが切っ掛けで、百槻与一の天狗の鼻は折られて、性格が変わってしまうんだよな)」
隣でコンビニで購入したハンバーガーを喰らいながら、百槻与一を見詰めている。
美味しそうに喰らう姿は、見ているだけなら何処にでも居る好青年。
しかし喋ってみれば極限にまでウザい後輩の様な存在だ。
「(そう言えば俺は21歳で、百槻は19歳だっけ?)」
狩人協会の育成機関に属している俺は、在籍中にライセンスを取得したんだっけか。
通常、一般市民がライセンスを取得する場合は成人して二年制の専門学校に通う事で取得出来るが、狩人協会が経営する育成機関内であれば、色々と優遇して貰える。
最小12歳の子供がライセンスを取った事もある。
百槻は19歳でライセンスを取得しているが、それでも十分凄い事だ。
狩人協会からの優遇と期待を見て取れる。
「(…どうするかな)」
俺はジュースを飲みながら考える。
霧島恋の存在だ。
俺が交通事故に起こる前…転生する前では、彼女を推しているファンの一人であった。
彼女の死が、どうにか覆す事が出来ないか、救済されたルートが出てこないか、そう考えていた。
だから、この世界に転生した時、彼女の命を救う事が出来る、今ではこのエロゲー世界が現実であるから、彼女を救う事が出来る可能性を持つのは、俺しかない。
「(けど…それをしてしまえば)」
一応は、原作を履修済みである俺は、原作知識を持つ。
しかしそれは、あくまでも共通ルートを越えた先の未来を知っている、と言うもの。
もしも、彼女を救ってしまえば…原作はかなり違う方向へと向かってしまう。
そうなってしまえば、原作知識と言うアドバンテージが通用しなくなるのだ。
「(…いや、迷う事か?)」
折角の推しが生きている、これから先も、生きる事が出来るのに。
それをしない、実行しないなんて、ファンとして失格ではないのだろうか?
最初、俺は、彼女を救うつもりでいた。
俺達は車に乗車して都市郊外へと向かう。
日本の首都『㯥京』は化物の出現率が高い。
それは、日本で言う千葉県方面は既に化物によって占領されている為だ。
領土を奪われ、その都市から化物が出現し、『㯥京』へと向かって来るのだ。
第一作目である『なれど狩人は化物を喰らう』…長いので略称して『なれはら』と呼ぶ。
『なれはら』では特定のルートに入ると千葉奪還編が始まる為、近々選抜狩人による小隊編成で戦う未来があるかも知れない。
千葉方面に近づくと、第一壁面が存在する。
これは軽いフェンスによって覆われており、未だ文明のなごりが残っている地区だ。
第二壁面からは分厚い鉄板による壁で覆われており、高さは約15メートル程、壁の上には人が監視する為に分厚くなっていて、軽い城壁の様なものだ。
第二壁面を越えれば、千葉に向かう事が出来る。
今回は、第一壁面の地区内で化物退治をする事になっていた。
化物の群れによって落とされた千葉に比べれば、第一壁面は圧倒的に化物が少ない。
狩猟奇具の試し切りをする為に、この第一壁面地区へとやって来る狩人も少なくない。
「今回の仕事は、完全フリー、二十四時間化物狩り続けコースだから、思いっきり楽しもうぜぇ?」
そう言いながら、百槻が小型化した狩猟奇具を振り回す。
トリガーを引き抜くと同時、内臓されたギミックが機動。
ぐじゅぐじゅと筋肉繊維が噴出すると同時、硬質性の液体が分泌すると狩猟奇具の刀身をコーティングした。
「唸れ―――
分厚い板に鋭く、小さな刃が板の端を高速で駆け巡る。
優秀な狩人に与えられる、専用武器。
百槻与一の専用狩猟奇具名は『
形状はチェーンソーであり、固有性能は『乱雑切断』。
高速回転するチェーンソーの刃が敵の肉を抉り取る様に切り刻み、再生速度の遅延、切断した断面の癒着を不可能にさせる。
再生能力の高い化物が相手であれば、この狩猟奇具との相性は抜群だ。
「…あぁ」
その狩猟奇具を見て、俺は納得した。
そうか、コイツはどうやら、自分の専用武器を見せびらかしたいのだ。
お調子者で自慢する事が趣味な奴だから、自分が会得した武器を見せびらかしたい、けれどその相手が捕まらないので、俺に白羽の矢が立ったのだろう。
「さて、見とけよ九条くん、俺の新武器の性能を羨ましがれぇい!そんで噂になるように周囲にお喋りしちゃってよぉ!」
さて、俺も自分の調子を確認する為に狩猟奇具のトリガーを引く。
百槻与一とは違い、俺の狩猟奇具は量産型だ。
『斬機一式』。
一式、と言う名称が付いている通り、支給される量産型狩猟奇具は五式まで存在する。
『斬機一式』は刀身型の狩猟奇具であり、固有性能は『刀身硬化』。
他の狩猟奇具よりも硬くて刃毀れしにくい耐久型の武器だ。
狩猟奇具を軽く振り回す、手には馴染む感覚は無い。まだ狩猟奇具に慣れていないのだ。
「(よし)」
早速、俺は周囲を探索する事にした。
この辺りならば、強力な化物が出現する事は無いだろう。
「お…」
俺は早速化物を見つける。
陶器の様に光沢を帯びた白肌を持つ二足歩行の化物。
見た目ははんぺんの様だが、人間を補足すると。
「ぬぽぉ」
はんぺんの様な胴体が真っ二つに割れて、内側を露出する。
その化物にとって消化器官であり、人間に向けて跳躍し上半身を包み込み、圧縮して人間の肉体を破壊し、肉片を消化する構造になっている。
足の関節部分に筋肉繊維が露出し、その肉体の光沢さから『マネキン』や『人形』と呼ばれている。
正式名称は『
『なれど』シリーズの中では最序盤に出て来る様な雑魚中の雑魚だ。
「(早速、俺の実力を見極めるか)」
俺は狩猟奇具を構える。
マネキンが俺を補足すると、地面を蹴る。
「(…あれ?)」
最序盤の雑魚。
攻撃手段は跳躍して相手を包み込んで押し潰す事しか出来ない。
しかし、特筆すべき点があるとすれば。
その、脚力の強さだ。
胴体には見合わない細い足は、筋肉がぎっしりと包み込んでいる。
一説には、ゴキブリを等身大にした程の性能であると聞く。
ゴキブリが人間と同じ大きさになると、その加速度は凄まじい。
それが、設定上での『白塗』の設定だ。
「(早、)」
口が迫る。
捕まれば、人間の体など一瞬で圧縮してしまう万力。
俺は動く事すらままならず。
「九条くぅぅん!!」
後ろから叫ぶ声と共に、俺は咄嗟に、『白塗』の赤い肉壁に向けて刃を向ける。
迫る『白塗』に、俺の立てた刃が突き刺さると同時、俺は足を縺れて倒れ込む。
それが幸いして、勢い良く迫り来る『白塗』を巴投げする様に、俺は投げ飛ばした。
「ぬ、ぷ、ぷちゅ」
そのまま地面へと倒れる『白塗』。
ぴくぴくと体を震わせて、そして動くことが無くなった。
「あ…ぶッ、ちょ、九条くんさぁ!訓練で習ったでしょ、『白塗』と戦う際は先手必勝、後手に回る際は相手が地面を蹴る瞬間に屈むか真横に回避する、そうすれば、大抵は自爆するって、教わったじゃんか」
焦りながらも、百槻与一が周囲を確認しながら俺の腕を掴んで立ち上がらせる。
「ボーっとしてたら危ないって…、本当、大丈夫?頭とかさ」
「あ…あぁ…、記憶喪失の弊害、かもな」
俺はそう言いながら胸に手を添える。
心臓が高鳴っている、俺は生きている、しかし、もしも…あの時、倒れなければ。
刃を立てなければ…俺は、死んでいた。
「…あ?あぁ、電話か」
百槻与一が携帯電話を取り出して耳に添える。
誰と話しているのか、頷くと狩猟奇具の戦闘態勢を解除する。
「九条くん、遊んでる場合じゃないや」
「え?」
百槻与一が俺の方を向いて言う。
「商業ビルで救難信号が出てる。俺たちが近いから、救援に行かないと」
…商業ビル?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます