いじめの結末:10
出口となる
「
「単刀直入に申し上げます。貴女が娘さんに
見覚えのない男にそう告げられると、母親は
「なんです? 誰なんですかアナタ。私を助けてくれたようではあるけど、こんな場所でする話ですか? それ」
反抗的な態度で食って掛かる母親に対し、慶郎は一歩も
「どのような場所であれ、必ず
「はい? ですから――」
「あの子の味方はお母さんしか居ないんです。貴女以外に、あの子を守れる人は居ないんです」
母親は押し黙ったが、その表情はまだ
「教師ぃ? それとも行政の人間ですかぁ?」
「お願いです。ゆっくりでいい、娘さんに、優しい言葉をかけてあげて下さい。あの子は必ず、今までの事を恨んだりもせず、お母さんを迎え入れてくれます」
慶郎は心から、この母子がより良い生活が送れるよう願っている。
――しかし残念ながら、今回もまた、彼にはこの母親を説得できるだけの材料が無かった。
「由紀恵がどう思うと、私が望んでないわ。いちいち言いたかないけど、私も親に望まれてなかった存在なのよ。今回も同じことよ」
板野麻実の人生がどのような暮らしだったのか、慶郎は知らない。三枝千春の時のように、今回も言い返されて終わる予感が
「私もろくな子供時代を生きちゃいないわ。児童相談所に紹介された
怒りを超えた
「こんな汚れた世界で真っ当に生きようなんてバカバカしい。
「…………」
今の話を
自分が
加害者側の少女も、警察を介入させざるを得ない状況に差し迫り、
被害者の少女が抱える家庭の問題も、感情論だけで説得できる程、その
慶郎はようやく、今回の活動に落ち度があった事に気付いた。イジメを止める為の活動として、三枝千春やその家庭環境を調査したまではいい。しかし
まさかここまで、この母親が抱える問題が大きかったとは思いもしなかった。それを見抜けなかった事への後悔と、己の
立ち尽くす男に対し、板野麻実が詰め寄る。
「助けて頂いた事には感謝します。アナタが来てくれなかったら、私は死んでいた。それくらいは自分でも判ります」
答えが見付からない慶郎が押し黙っているのを構わず、女は感情を
「まぁ、私たち親子を心配してくれたその気持ちは受け止めます。ですがね、そもそも、私にはそれに
それを言われて、慶郎は我に返る。自分の行いは、ここまでの道のりは、正しかったのかと。
悪夢祓いは、そもそも死んだ人間が務める精霊の領域。
鶴の指示にない部分にまで
――そう考え出したが、慶郎は瞬時に首を振って否定した。それではダメだと。
「これからも、できる限りのことはします。今はまだ、どこまで出来るとは言えませんが……。しかしそれでも、貴女と、由紀恵ちゃんを
板野麻実の時間が止まる。この男は何を言っているのだと。言葉通りの意味だとお節介にも程があるし、なにより気持ち悪い。下心を
遅れて、自分の発言に
「変な意味ではないですよ。日々アドバイスしたり、相談に乗ったりするという意味です。訳あって身分は明かせませんが、
そこまで聞いて、板野麻実の視線が別のものに変わる。面倒な説教をするだけの男を見る目ではなく、なにか不思議な生き物を見付けた時の驚きだ。
同時に、警戒していた相手が、割と危険性のない人物だと判った時の安心も
「なにそれ。幽霊? 大人がおかしなこと言うのね」
「自分でもそう思います。これから少しずつ理解してもらえれば良いので、とりあえずここから出ますか」
板野麻実の表情が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます