いじめの結末:4
届いたアイスコーヒーをそのままに、慶郎は真剣な面持ちで静かに語った。
「まず、あの
「……はい」
慶郎の性格上、
お
「少し勇気がいるが、もし次にまたどこかに閉じ込められそうになったら、走って逃げていい、そして大声で叫ぶんだ。そのまま交番に全てを訴えてもいい」
「……。はい」
小さくなった返事を聞いて、慶郎はなお熱く語る。
「この目で見てきた訳じゃないけど、由紀恵ちゃんのような被害者は少なくない。けどその被害者の共通点は必ず、“抵抗をしない”ことだ。だから続くんだ」
「…………はぃ」
「ちょっと言い辛いけど、学校に
「……はい」
「あの三枝千春の父親は市議会議員だ。学校側が由紀恵ちゃんへの対応を
「…………」
少女がまた目を伏せる。彼女とて気付いていたのだ、乱暴される自分の姿は、教員の目に映った事がある筈だと。けれど、助けは来なかった。日常的な言葉の暴力も、昼食時の嫌がらせも、担任教師は知っている筈だと。
少女が生きる希望を失ったのは、そういった大人の姿を見てしまったせいでもある。
「けど、今こそしっかりと反撃しないとダメだ。なにも暴力をやり返せと言ってる訳じゃないよ、逃げていいんだ。逃げた後も色々と大変な事が待ってるかも知れない、だけど今がとにかく地獄なら、その先の問題だって同じようなもんじゃないか」
「……」
少女が慶郎の目をしっかりと見つめる。
「いいかい。イジメという言葉は大人の責任放棄によるものだ。やってる事は“傷害事件”。もし被害者が自殺でもすれば“殺人”。僕はそう考えている」
「――――」
少女の瞳が少しだけ力強く見開く。
自分が受けている数々の行為は“犯罪”なのだと、ようやく正面から認識できたのかも知れない。
「お母さんのあの様子からして、由紀恵ちゃんの今の状況が役所に知られれば帰れないかも知れない。けれど、それがお母さんの為になる事もある。あの人には、変わるきっかけが必要だ」
「――――」
慶郎が母親の事までも知っているのだと判って、少女は息を飲んだ。
このオジさんは、本当に私を見てくれていたのだと――。
× ×
二人がファミリーレストランに入店してから数分後、その会話を
「あの男は何をやってる訳?」
冷たく言い放つ巫女に対し、鶴は我が子を見守る母親のように優しく
「彼なりにあの子を救おうとしているのよ。それは
「今回、魍魎がターゲットに選んだのは母親だ。接触すべきは母親の方だろう」
「それはそれ、これはこれよ」
慶郎の活動は間違っていないのだと
「あの男は一度、魍魎を取り逃がしてる。
なにがそこまで面白いのか解らない巫女は、
「私は母親を追うぞ。今回の魍魎は危険配列グレード
徹底的なまでに魍魎の討伐を優先する巫女に迷いはない。彼女は
残された鶴は巫女の背中を視認することもなく、レストランの隅で続く中年男と少女の会話に耳を傾け続けていた。
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